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『ヒカル達が』
その一言でアベは立て掛けていた杖を引っ掴み、カウンターを回って出入り口へ駆け出す。床を転げていた男は慌てて立ち上がり、華奢な背中へ荒らげた声を掛ける。
「はぁっ、はあっ…連中がいるのは街の、西の…っ」
「…分かってる。申し訳ないけど奥にいるラウールへ言付けを頼みます。受け付けよろしくって」
「お、おう!…任せな!」
扉から射し込む光を浴びた顔に温柔な微笑みを浮かべ、身を翻して地面を蹴った。
向かうは、西に構えた小門。
四日前に彼らを見送った場所は森に程近い事もあり、民家も商家も疎らな謂わば冒険者達の為にある門。次いでに隣接の森は広大かつ深く、進む度に幾重にも入り組んだ獣道になっていて…既に、幻獣どもの巣になっていると聞く。
手負いで戻るならば、獣道を引き返す以外に術はないだろう。だったら、辿り着いたのは…きっと。
杖を携え石畳を走るアベへ、往来人よりの性別問わずな羨望の眼差しが纏わり付く。
羨望の内訳は、大まかに三つ。
ギルドという名誉職に就いている事が一つ。世界でも尊い回復術の使い手である事が一つ。そしてもう一つは。類い稀なる美貌の持ち主であり、心優しい人柄も相まって〝ギルドの天使〟と呼ばれている事。
向けられるのは羨望だけではない。仄かな恋心を寄せる目から下卑た肉欲の目までもがアベに集中するが、当の本人の頭には古い友人達の安否で占められ。チラとも脇にはくれずに、遠くに霞んで見える門を目指して息を弾ませた。
「っ……酷い」
辿り着いた場に、倒れている人影は1、2、3…4。先に駆け付けた街の人々に手当を受けてはいた、が…重症と思われる箇所は手の施しようがなかったらしく、四人が四人とも蒼白の顔で唸り苦しんでいた。冷や汗を垂らしたアベが歩み寄りながら、見付けた顔見知りへ様子伺いをする。
「遅れてすみません…状況は、どうなんですか?」
「あっ…アベちゃん!来てくれて良かった…御院様に運ぼうにも人手が足りなくて、弱り切ってたんだよ」
「お話中に失礼します。…アベさん」
「貴女は薬師の…、手当をしていただいて、ありがとうございます」
「いえ、お礼には及びません。…あの、状況ですが…」
「はい、お願いします」
「アベさんのお力でしたら、フカサワさん、サクマさん、レンさんは問題なく治癒できるかと」
「……問題があるのはヒカル、なんですね」
「…はい。力及ばず、申し訳ありません…」
「いいえ、貴女は精一杯尽くしてくれました。どうかお礼は受け取ってください…ね?」
「あぁっ、アベさん…~も、勿体ないお言葉を」
愛らしい顔立ちの女性が頬を染めて恥じ入る中、アベは身も心も引き締めて四人の傍まで早足で進み。杖を水平に構えて瞼を伏せる。
添えるだけの手指の先から緑光が灯り、みるみる杖も、アベの全てをも覆っい始める。
【聖なる癒しの御手よ、母なる大地の息吹よ。願わくば、我が前に横たわりしこの者達を、その大いなる慈悲にて救いたまえ】
静かなる詠唱は、神聖な空気を孕んで響き渡る。
アベであって、アベではないような声での調べ。
其処にいる意識ある者みなが息を飲んだ。
柔らかい緑光が一人一人を包み、暫く留まった後に散っていき。空と大地へ儚く消えて行った。
「…んん~…、んあ?ココどこ?」
「~…はへ?なんで俺、地面で寝てんだよ」
「ふわぁ……よく寝た」
「…アベがいる、て事は…~いって…ぇ!」
「ヒカル、動かないでっ!」
目覚めた途端呑気に起き上がる三人は〝視た〟限り治癒は成功したようだ。しかし、残る一人は腹部を抱えてうずくまったまま。アベが鋭い一声を放って動きを制する。
──腹部…内蔵か?だったら急がないと…!
ヒカルと呼ばれた筋骨逞しい青年へと駆け寄ったアベは杖を手放し、ヒカルが身に付けている軽装防具を手早く外し始める。呆気にとられたかされるがままだったヒカルは、道着を捲られて遅まきながら慌てふためく。
「えっ~…アベ!?こ、こんなとこでなんて…大胆なヤツだな」
「違ぁあうっ!いいからじっとしてる!…んっ、ん…」
「く、っ……」
屈んだアベが鍛えられた腹筋へ舌を這わせる。重ねた皮膚の奥を術で探り、傷付いた臓器を見付け当てた。唇を押し当てて心の中で先程と同様の詠唱を紡ぐ。
緑に光る、アベの唇。
腹を舐められ弄られ、口付けまでされたヒカルは、真っ赤な顔でその神々しい光景を眺め続ける。
長い、長い時間が流れ。安堵の息を零してアベが漸く身を起こした時には、他の三人は二人を囲んで見守っていた。
「ヒカル…、痛みはどう?」
「あ…~あぁ、もう何ともない。治してくれてサンキュ」
「…ふふ、間に合って良かった」
「あ、のさ…アベ。さっきの…アレ、なんだけど」
「ん?」
「純粋な……治療?」
「…?そうだけど、何かおかしかった?」
「あー…いや、おかしくない。おかしいのは…多分、俺の方だから」
地面へペタンと座り、キョトン顔で首を傾げるアベ。可愛いなんてモンじゃない破壊力に、悶々とした想いを抱えたヒカルは頭を搔き毟る。明らかな挙動不審を前にしてアベは言葉を掛けようとしたが、背後に乗ってくる重みによって邪魔された。
「アベちゃ~ん♡俺ぇ、胸がすっっごく痛いのぉ。…キスで癒して?」
「サクマくんより俺が先。…アベちゃん、唇にキスして」
「~お前らっ、それただキスして欲しいだけだろっ!?…術使ってアベちゃん疲れてんだからさ、ギルドまで送ってってやろーぜ」
「フッカ……ありがとう」
「あ~~っ!イイとこ掻っ攫う気だな、フカサワぁ!」
「ゔっ…~、叫んでないで退いて、サクマ…重いよぉ」
「あっ、ヤベ…~ごめんね、アベちゃん。立てる?」
飛んで降りたサクマが立ち上がり、手助けを買って出る。…ちゃっかりアベの肩と腰を抱いて。そんなサクマの手の甲を摘みながらぷいっとそっぽを向く所もまた可愛いらしく、笑顔満開でじゃれ付き回るサクマ。何だかんだ楽しそうだ。
憮然な顔で二人を眺めていたレンは、不承不承を顕にヒカルへ手を伸ばして言う。
「…なんか納得行かないけど、手貸すよ」
「~…素直過ぎんだろ。ま、有り難く貸して貰うか」
差し出された手を握り膝を伸ばしたヒカルは、その場で何度かジャンプをしてみる。ついさっきまで蝕んでいた痛みは、体中何処にも感じない。
「流石アベ……いつ味わっても凄ぇな、あの力」
「…うん。アベちゃんいなかったら、俺達何度もあの世行ってるよね」
「本当にな。凄ぇ上に可愛いし、優しいし…やっぱアベって最高だよな」
「アベちゃん以上に最高な人なんて、世界中探し回ってもいないよ」
「なーんか浸っちゃってるけどさ。ギルド着いたらお説教されんじゃないの?俺達」
「…………」
「…………」
三人はそれぞれ明後日の方向を向き、深~い溜息を吐いた。
コメント
3件

雑なのが多いのに設定がよく考えられたRPGなのが凄すぎる😳✨💚を取り合う💛🩷🖤の行く末も気になります~😚💕
第6話、読み終えました。 アベさんの回復術、描写がとても美しくて「聖なる癒し」って言葉がすっと入ってきました。特にヒカルの腹部を唇で治すシーン、神聖なのにちょっと艶めかしくてドキドキしましたね…周りのメンバーとの掛け合いも軽快で、アベちゃん人柄の良さがにじみ出てる。ギルドに帰ってからの“お説教”が気になります。 続き、楽しみにしてます!