テラーノベル
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4話
昼下がりのカフェ。
「……え?」
吉田仁人は、目の前の人物を見て固まった。
「久しぶり」
少しだけ気まずそうに笑う、元彼。
「……なんでここに」
「ちょっと話したくて」
「……」
一瞬、帰ろうか迷う。
でも。
「……少しだけなら」
向かいに座る。
「ありがと」
短く礼を言われる。
沈黙。
コーヒーの湯気だけが揺れる。
「……元気そうだね」
「まあ」
素っ気なく返す。
「そっちは?」
「普通」
それも短い。
「……で、話って何」
本題を促す。
遠回りする気はなかった。
元彼は少しだけ視線を落としてから、口を開いた。
「単刀直入に言うね」
「うん」
「佐野勇斗、気をつけた方がいい」
空気が、一瞬で冷えた。
「……は?」
思わず眉をひそめる。
「何それ」
「そのままの意味」
「意味わかんない」
すぐに否定する。
「なんで今さらそんなこと言うの」
「今だから言うんだよ」
声は落ち着いている。
でも、どこか必死だった。
「俺さ」
「……」
「別れてから、ちょっと気になって調べた」
「調べたって何を」
「お前の周りのこと」
「は?」
明らかに不快そうな顔。
「でさ、気づいた」
ゆっくりと言葉を選ぶ。
「俺に、お前が浮気してるって言ってきたやつ」
仁人の表情が少し動く。
「……それが?」
「佐野勇斗だった」
沈黙。
数秒。
「……は?」
乾いた声。
「何言ってんの」
「本当だよ」
「いや、ありえない」
即答だった。
「なんで勇斗がそんなことするの」
「わかんないよ、理由までは」
「じゃあ適当なこと言わないで」
少しだけ声が強くなる。
周りの客が一瞬こちらを見る。
「……落ち着いて」
「落ち着いてる」
間髪入れずに返す。
「てかさ」
少し前のめりになる。
「証拠あるの?」
「……ある」
スマホを取り出す。
「これ」
画面を見せる。
そこには、過去のメッセージの一部。
“最近、仁人が他の人と会ってるみたいで”
“男の人でした”
仁人の視線が一瞬止まる。
「……これ」
「俺に送られてきたやつ」
「……でも」
すぐに顔を上げる。
「これだけで決めつけるの?」
「決めつけじゃない」
「じゃあ何」
「事実」
はっきりと言う。
でも。
「違う」
仁人は即座に否定した。
「絶対違う」
「なんで言い切れる」
「勇斗がそんなことするわけない」
迷いが一切ない。
その強さに、元彼は少しだけ言葉を詰まらせる。
「……なんでそんなに信じられるの」
「当たり前じゃん」
すぐに返す。
「今までずっと一緒にいてくれたし」
「……」
「俺がしんどい時も、全部支えてくれた」
言葉に熱が乗る。
「そんな人が、裏でそんなことするわけない」
「でも現に——」
「仮にそうだとしても」
遮る。
「何か理由があったんでしょ」
元彼が息を呑む。
「……そこまで言う?」
「言うよ」
まっすぐな目。
「俺、今すごく楽なんだよ」
「……」
「前よりずっと」
少しだけ笑う。
「ちゃんと笑えてるし」
「それは……」
「勇斗のおかげ」
きっぱりと。
「それを否定されるの、普通に無理」
沈黙。
元彼は何も言えなくなる。
「……お前、変わったな」
「そう?」
「うん」
小さく笑う。
「なんか、前より……誰かに染まってる感じ」
その言葉に、仁人の眉がわずかに動く。
「……悪い意味で言ってる?」
「いや」
首を振る。
「幸せそうではある」
「でしょ」
少しだけ誇らしげに言う。
「だからさ」
立ち上がる。
「もういい?」
「あ……」
「心配してくれたのはありがと」
でも。
「信じる人は、自分で決めるから」
それだけ言って、背を向ける。
外。
「……はあ」
小さく息を吐く。
少しだけ、心がざわつく。
でも。
「……ありえない」
首を振る。
ポケットからスマホを取り出す。
通話ボタンを押す。
『もしもし』
すぐに出る声。
「勇斗」
『どうしたの?』
「今、元彼に会った」
一瞬の間。
でも、本当に一瞬だった。
『へえ』
自然な声。
「なんかさ」
歩きながら話す。
「変なこと言われた」
『どんな?』
「勇斗が、俺ら別れさせたって」
沈黙。
でもすぐに。
『なにそれ』
少し笑った声。
『さすがにひどくない?』
「だよね」
即答する。
「俺もそう思った」
『信じてないでしょ?』
「当たり前じゃん」
迷いなく言う。
その言葉に、電話の向こうで小さく息が漏れる。
『……よかった』
「なんでそんなこと言うの」
『いや、ちょっと不安になるじゃん』
少しだけ弱い声。
「ならないよ」
すぐに返す。
「俺、勇斗のこと信じてるし」
はっきりと。
「誰よりも」
その言葉に、少しの沈黙。
『……ありがと』
優しい声。
「うん」
「てかさ」
少しだけ笑う。
「今日そっち行っていい?」
『いいよ』
即答。
『待ってる』
「うん」
電話を切る。
その頃。
勇斗はスマホをゆっくりと下ろした。
「……ふーん」
小さく笑う。
「もうそこまで行ったんだ」
窓の外を見ながら、ぽつりと呟く。
「大丈夫だよ、仁人」
誰もいない部屋で。
「絶対、離れないから」
その声は、やさしくて。
どこまでも静かだった。
𝓉ℴ 𝒷ℯ 𝒸ℴ𝓃𝓉𝒾𝓃𝓊ℯ𝒹
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コメント
2件
キラキラ太陽みたいな素直な🩷さんも好きだけどこういう、色々考えてゆっくり囲い込んでいく知略的な🩷さんもとても好みです

ダークな🩷めちゃくちゃ大好物なのでニマニマしながら読ませていただきました( ˶ ᷇ 𖥦 ᷆ ˵ )✨️