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るりかちゃん、そんな、律儀な!
凪川 彩絵
#独占欲
「瑠璃香、誕生石とか裏に入れてもらうのはどうだ?」
「でも……」
「内側ならあっても問題ないだろう」
晴永の言葉に、店員が穏やかな笑みを浮かべた。
「彼女さんは何月生まれでいらっしゃいますか?」
「に、二月です……」
思わず答えると、店員は頷いた。
「二月の誕生石は紫水晶でございます。石言葉は誠実、真実の愛、心の平穏など――」
指し示されたリーフレットに書かれたアメジストの項目を覗き込んだ晴永が、小さく「誠実、か」とつぶやく。
「いいじゃないか」
「でも……」
「オプションといってもキャンペーン中で……ペアで買っていただくと、お値段据え置きなんですよ」
婚約指輪ではなく、結婚指輪のデザインだ。ペアで買うのは当然ですよね? と言わんばかりの店員のセールストークに、晴永が照れたように視線をさまよわせた。
「俺のは……」
「ペアで付けられたら一層お二人の愛が深まると思いますよ?」
いい、と続けようとしたのに、そう言われたら買わねばならない気にさせられるから不思議だ。
結局二人でペアリングを選んだ晴永と瑠璃香だったのだが、石は瑠璃香の方だけにいれてもらうことになった。
「指輪裏の刻印はいかがなさいますか?」
晴永は少しだけ考え、
「〝Fair.〟」
とだけ告げた。
店員が確認する。
「お二人とも同じ刻印で?」
晴永は頷く。
瑠璃香は「フェア……」とつぶやくなり一瞬だけ息を呑み、それから照れ臭そうに同意した。
「……いいと……思います」
それで決まった。
***
指輪はすぐには持ち帰れなかった。
内側に小さな紫水晶を嵌め込み、刻印を入れ、数週間後には仕上がるという。
それでも――。
瑠璃香は確かに今、ふたりの間に何かが結ばれた気がした。
会計はてっきり折半だと思っていた。
なのに晴永がカードでさっさと支払いを済ませてしまうから、
「あ、あの……」
思わず見上げる。
「……? こういうのは男の甲斐性だろ?」
ここで食い下がれば、彼の面目を潰す。
店員の視線を感じ、瑠璃香は一旦口をつぐんだ。
だが、落ち着かない。
さっき、晴永は裏の刻印を〝Fair.〟にすると言った。
(片側だけが支払うのは……フェアなの?)
二人連れ立って店を出る。
夕方の風がひやりと頬を撫でた。
「あの……晴永さん。さっきの指輪のお代なんですけど……」
「ん?」
どうしても言わなければならない。
「私を対等なパートナーだと思ってくださるなら、半分は持たせて欲しいんです」
晴永が足を止める。
「……そう来るか」
晴永の口元が、わずかに緩む。