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臣桜
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BrownSugar
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#オフィスラブ
猫塚ルイ

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タクシーの窓から流れる
外の景色を眺める
次第に
見覚えのある景色に移ろいで行く
記憶の片隅に残る
記憶の断片と合致しながら
遠い昔の記憶が思い起こされる
記憶と合致する風景は半分程度
時間の移ろいと共に
街もだいぶ変わってしまった
その変貌ぶりに
仄かな哀愁を漂わせながら
時間の経過をしみじみと実感する
この街に住んでいた頃は
まだ学生の時分だった
何の疑いもなく母に尽くし
親子の絆を信じて疑わず
母の顔色を伺っていた幼き日の私
家庭は人それぞれ
こんな家庭もある
自分も普通の範疇なのだと
そう思っていた頃が私にもあった
障害を持って産まれて来た私を
女手一つで育ててくれた母
今でも母には感謝している
今でも嫌いにはなれない
だけど
私は母のようにはなりたくない
未来の家庭では
私と母のような親子関係にはしたくない
純也とは良い家庭を築けなかった
だからこそ
思い描く理想の家庭をリュカと築きたい
そこに辿り着くまでは
何としてでも成し遂げる
***
何年ぶりだろう
帰省して目にした故郷の風景は
記憶にあるそれよりも老朽化が進んでおり
住宅も
公園も
そこにあるもの全てが
記憶にあるそれらよりも
ずっと小さく見えた
私の中ではあの時のまま
ずっと時が止まっていた
そこに
母親は今なお暮らしている
黒くくすんだUR住宅の階段を昇り
母の住む実家へと
一歩
一歩
近づいていく
メルヘンの世界に迷い込んだような
緊張と懐古の入り混じった
不思議な感覚に襲われながら——
ピンポーン!
実家のインターホンを押して甦る記憶
懐かしい既知の音
幼少期に当たり前のように聞いていた
このインターホンが奏でる音
ドアの内側から聞こえる
ドアに向かって近づいてくる
室内を歩く母の足音
ガチャ……
重厚な鉄の玄関が
ゆっくり開くと
中から母親が顔を覗かせた
髪もとかさず
化粧もせず
着の身着のまま家着で出て来た
まるで寝起きのような母親
「あら……どちら様?」
私よりも先に
私の背後に立つ
高身長のリュカに目が行った母
「今日これから用事があって」
「せっかくだから挨拶がてら一緒に……」
「だったら先に言ってよ!」
「もう、こんな格好で恥ずかしいじゃない!」
「いきなり不躾に申し訳ございません」
「まあいいわ、上がって」
そう言うと母は
文句を垂れながらも
室内へと招き入れてくれた
私とリュカは
一瞬
顔を合わせ
目を見合わせると
靴を脱いで家へ上がった
「お邪魔します」
***
「お母さん、これね」
母親が待ち望んでいたもの
振り込むはずだった仕送り分を
部屋に上がるなりそっと手渡した
母親は
恥ずかしげもなく
リュカの面前で
その現金の入った封筒を開け
中に入った金額を確認する
リビングに通された私たちは
テーブルに着席した
母はお湯を沸かし
お茶を淹れてくれている
室内も例外なく
記憶にあるそれよりもかなり小さく
とても狭く感じた
また
高身長のリュカがいることで
室内の縮尺と比率が狂い
相対的にリビングの狭さを際立たせている
リュカは
臆することなく
仰々しくかしこまることもなく
軽く自己紹介と挨拶を済ませると
買って来た手土産を母に差し出した
「お昼時にすみません」
「これ……お茶請けにでもと思いまして」
「あと、お口に合うか分かりませんが、お弁当です」
「よかったら後で一緒に食べましょう」
母はお土産を受け取るなり
袋を開けてその中身を確認する
険しかった母の表情が
若干緩んだ
「あらあら、私好きなのよこういうの」
「わざわざありがとうね」
母が淹れたお茶を
リュカがテーブルに運ぶ
「日本の緑茶だけど飲めるかしら?」
「全然大好きです、ずっと日本に住んでいますので」
「そうなのね、どうりで日本語もペラペラなわけね」
慣れてしまい
忘れてしまっていたが
ロシア人然としたリュカの風貌に
母は接し方に困っていたのかもしれない
しかし
そんな壁も厭わず
瞬く間に母と打ち解けるリュカ
そのコミュ力に脱帽する
リュカの買った和菓子を
母の淹れた緑茶のお茶請けにしながら
事前の予想に反して
和やかに時間が進んだ
話の上手いリュカが
上手に話を振り
私の幼少期の話や
思い出話など
滞りなく話題を引き出す
そして
和やかな雰囲気で始まった会話は
やがて
本題へと移ろいで行く
コメント
1件
うわああ…第94話、めちゃくちゃ切なくて温かい気持ちになったよ😭💕 故郷の風景が小さく見える感覚、めっちゃわかる…時間が止まってた自分だけの記憶と、現実のギャップに哀愁感じるよね。 リュカのコミュ力エグいっしょ!!笑 母と瞬時に打ち解けるのさすがすぎるし、「母のようにはなりたくない」ってゆう主人公の決意が胸に刺さった…🥺✨ 次、本題突入するんだね…どうなるか気になりすぎる!