“静寂の駅”
冬の寒い夜、町外れの古びた電車駅で、一人の男が電車を待っていました。
彼の名は岡田といい、毎晩、遅い時間にこの駅で電車に乗るのが日課でした。
この駅は、昼間は賑わいを見せるものの、夜になると人通りがほとんどなく、岡田だけが待つことが多かった。
ただ一つ、毎晩同じ時間に現れるものがありました。
それは小さな黒い猫で、岡田が電車に乗る前に必ず姿を見せてくれました。
今夜も、岡田はホームでその猫を待っていました。
しかし、いつもの時間になっても猫の姿は現れませんでした。
その代わり、岡田の耳には遠くから聞こえる女性の泣き声が届きました。
彼はその音源を探しにホームから降り、駅の外へと出ました。
辺りは暗闇で、何も見えませんでした。しかし泣き声は確かに聞こえてきて、その音は駅の裏手から聞こえているようでした。
岡田は何となく不安を感じながらも、泣き声の方向へと歩き始めました。
駅の裏手には古い倉庫があり、その辺りから声が聞こえてきていました。
倉庫の扉を開けると、中から強い光が差し込んできました。
その光の中には、地面に座り込んで泣いている女性の姿がありました。
彼女は見知らぬ男に驚き、慌てて逃げ去ってしまいました。
岡田はその場で呆然と立ち尽くし、女性が何故泣いていたのか、また、何故逃げたのかを理解できませんでした。
次の日、岡田が新聞を読んでいると、一つの記事が彼の目に留まりました。
それは近くで行方不明になった女性が発見されたという記事でした。
彼女は警察によって保護され、現在は無事に家族の元に戻ったとのことでした。
しかし、その女性の証言によると、彼女は数日前から何者かにストーキングされ、恐怖で身を隠していたとのこと。
記事を読み終えた岡田は、昨夜出会った泣き声の女性がその行方不明者であると確信しました。
しかし、彼女が何者かにストーキングされていたという事実に戸惑い、そして、彼女が見知らぬ男に驚いて逃げ去った理由が彼にとっては理解できました。
その夜、岡田は再び電車を待つために駅に向かいました。
すると、待ち合わせの時間になると、黒い猫が再び現れました。
しかし、今夜の猫の様子は明らかに普段とは違っていました。
彼の足元で猫はひどく怯えていて、時折背後を振り返りました。
それを見た岡田は、自分が何者かに監視されていることを疑い始めました。
彼が後ろを振り返ると、暗闇から男性がゆっくりと姿を現しました。
その男性は彼を見つめ、にっこりと笑って岡田に手を振りました。
そして、男は口を開いて一言、
「ありがとう、昨夜は助かりました」
と言い、暗闇へと消えていきました。
その瞬間、岡田の頭の中でピースがはまりました。彼は恐怖に震えながら駅のホームに立ち尽くしました。
その後、岡田は自分がその夜何を引き起こしたのか、そしてその結果、何が起きたのかを知ることはありませんでした。
ただ、彼は毎晩、その黒い猫と共に、静寂の駅で電車を待ち続けるのでした。
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