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Sara
220
終わりのない夜 ▹▸ kyus
長い
🦀登場 有
🥷登場 無
🐮視点中心
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「…別れよう」
「……は?」
正直、もう限界だった。
「…お前には、俺なんか必要ないから」
「な、っに言って!そんなわけ_」
「……ごめん」
小さく、弱い声を振り絞って、出た声は自分でも思う程震えていた。涙ぐむ目を擦りながら2人でよく寝たキヨの寝室を出て、キヨの家から出て、いつの間にか何度も見た真っ暗な帰り道で、自分の家の前に居た。
「…はぁっ、」
重たい息を吐いて、鍵を開ける。
「ぅ、゛…っ、」
足を踏み入れて、見慣れた玄関を目に映して、靴を脱ぐ間もなく膝から崩れ落ちる。
「うぁあ゛っ……」
ただ、その日は泣き叫んで、
疲れて眠ることしか出来なかった。
「……もう、朝…」
重たい身体を起こしてカーテンを少し開けて窓の外を見る。
「…あんなとこで、寝るんじゃなかったな」
玄関で疲れて寝てしまったようで全身が痛い。だけど、それ以上に
心が痛かった。
「……」
昨日のことを思い返して、やらなければ良かったという後悔と、これで良かったという気持ちが気持ち悪いと言える程ぐちゃぐちゃに混ざる。
「…とりあえず、寝よう」
食欲も湧かず、痛い全身を安らげる為に寝室まで足を運ぶ。いつも通り元気なひなたを見て、良くも悪くも「いいな」なんて思ってしまって。あの夢から醒めないで欲しかったなんて考えてしまって。
「……最低だ」
俺にとってキヨは勿体ない人。
世間でも、ハイスペとか言われてて。
その分、俺は何も取り柄がない。
それに、関係ないレトルトにまで嫉妬して。
リスナーからは全身組って締めくくられててさ。
4人で飲んでる時も、2人でギャーギャーやっちゃってさ。俺とガッチさんなんかいないみたいに2人の世界に入ってるみたいで、
嫌で、物凄く嫌で、口にも心にもしたくないけどさ。
もうそこがペアみたいに思えてきちゃって。
「……もう俺が嫌だよ。こんな自分」
もうこれ以上、彼を思い出さないように縁まで切ってしまおう。
そうすればきっと、
きっと
「アイツも幸せだ」
たとえ、この行動が偽善であっても。
たとえ、自分の為だったとしても。
「っあ゛…っ」
ビクッと身体を大きく震わせ、目を見開く。いつの間にか寝落ちしていたようで、自分の本心が夢に出てきてしまった。
「……そう、だよな。距離、置いた方が……忘れられる、アイツも、俺のことを忘れてくれる、」
それからは、淡々と事が進んだ。
通知が止まらない連絡先をブロックして、
グループには「暫く撮れない。ごめん」とだけ残してスマホの電源をも切りたかったが他のスタッフさんに迷惑をかけてしまう事から、その4人グループだけ通知をオフにして非表示にした。
アイツから貰ったもの達も、処分してしまおうと思った。服も、アクセサリーも、写真も。
でも、それだけは出来なかった。だから、袋に詰めるだけ詰めて、目に入らないようにした。
「……コイツ、どーすっかな、」
コイツとはアイツが取ってくれた俺の好きなアニメのキャラクターのぬいぐるみ。物に罪は無い、そのような言葉はよく耳にする。だから、気にならないように元の位置に戻した。
「……どうせ、気にしなきゃいい話だ」
そう言って、ぬいぐるみから目を逸らした。
月日が経ち、▋▋ヶ月後。調子が出なく『投稿暫く休みます』とだけ残し、3ヶ月ほど投稿は出来なかった。でも流石にやばいかな、なんて思ってしまって前よりは少し短めの動画を出していくことにし、それが続いて今現在。続けてはいるもののやっぱりやる気が起きない日は多々あり、それも踏まえて一日に長時間撮って編集で動画数を多くした。4人の方は時々既読をつけるも相変わらず『忙しい』と残して撮れずにいる。逃げてばっかりだ。まぁそんなこんなで俺は撮れないことがわかったから、3人実況が多くなっているらしい。アイツのは見たら思い出してしまいそうで、レトルトやガッチさんの方で確認をとった。ただ、個人では連絡は取っていない。あの日通知を切ってから一切付けていないから。でもやっぱりスマホを見るとそのまま流れで連絡アプリを開きそうになるかもしれないと思い、スマホはあまり使わなくなった。少しは不便になるかと思ったけれどそんなこともなく、普通の生活を送っている。情報は実況用のパソコンでも、テレビでも知ることができるし。暇があればタブレットで漫画を見ればいいし。だから、欠けたものはあの日常なだけで、なにも、大きな影響はなかった。
「……っても、痩せすぎたよな」
服の上からでも分かるほど、細くなってしまった腹部を鏡に映して見る。
「……食べなきゃ、って分かってっけど」
いつになっても、腹が減らない。厳密に言うと減ってはいるのだろうが食欲が湧かないのだ。テレビ等で見る食べ物は美味しそうだなんてよく思うけれどいざ自分で食べるとなると1口食べただけで満足してしまうのか全部を食べ切れず、結局お金の無駄になってしまうのだ。
「…ゆっくり、治してけばいいんだよ」
焦らなくたって、誰も怒りやしない。最悪、死んだとしても。まぁひなただけが心配になるだろうけど。
「今日は、まぁ撮れそうだし…撮るか」
また何時間も撮らなければいけない為少し溜息をついてしまうが後の自分の為にやるしかないと重い腰をあげて部屋へと行く。
「メール、来てる」
最近投稿速度も前と同じくらいになったからか何か案件が来たのだろうか。見るだけ見てみるか、とメールを開くと見覚えのある、4文字のカタカナのやつからだった。
見なきゃ良かった。
見てしまえば、思い出してしまうから。
その日はやる気があったはずなのにその1件だけで逃げてしまい、また寝たきりの日々に戻ってしまった。
「……はぁっ、」
重たい溜息を何度ついただろうか。また思い出してかき消しての繰り返しに入ってから、何時間経っただろうか。またご飯も食べれるようになったと思ったのに食べれなくなったし。ひなたは相変わらず元気にやってて、安心と嫉妬が積み重なる。
「……だれかたすけて」
なんて、独り言を呟く。
だれにも、とどくはずのない
どこかにしずんでいくことばが。
おれじしんまできえていきそうな、とうめいなことばが。
だれにも、とどくわけがないことばが。
「はー、やっぱ連絡つかんわ」
「……だろうね」
「分かってんねんやったら俺にやらせんな」
「だって俺からだったら、一生戻ってきてくれない気がして」
「……別に、俺やって心配しとるからええけど、でもお前ずっと外出てないやろ」
「あ、バレた?」
「テニスも予定立てとんのに連絡での返事は一言だけ。外で食べに行こって誘っても今日は気分じゃないって避けてくる。声も最近前よりも元気ないし。充分寝れてそうな声色でもない。動画投稿も1週間に2、3回やったはずやのに2週間に1回になっとるし」
「あ、あは……は、」
「うっしーと別れてからそんなんばっかやん」
「…うん、ごめん」
「なんやお前らしくない」
「ひっど」
「…ん、?」
「レトさん?なんかあった?」
「あや……見間違い」
3日待っても返事が帰ってこないうっしーとの連絡画面。流石に見てると思って待ってはいたものの流石に呆れてくる。
うっしーもうっしーで、やな。似たもん同士ってやつか、
そんなことを考えていたら、ピコンと音を鳴らして通知が出てくる。その通知は、今考えていたあの男のもので、目を見開いて直ぐその通知をクリックして開く。1番最初の文を見て、今話している男に伝えるのはやめた。そう、この画面の向こうにいる男が願ったから。
『このことは、アイツには言わないで。お願い。』
んなの、うっしーがそうして欲しいってわかっとるわ。どんだけ一緒におると思ってんねん。
『ずっと、撮れてなくてごめん。一緒に撮るの、まだ難しいかも。』
まぁ、その文章やとそうやろうな。動画時間も前より短いし。
『その、誘いのことなんだけど、あいつらの目につかない遠いとこなら、いいよ。だけど、今は2人っきりの方がいいから、他の人は連れてこないで欲しい。ごめん。』
謝ってばっかやな、コイツ。まぁ、それくらいやられとるってことやろうな。
『返事、遅くなってごめん。』
ホンマ、どんだけ待たせるつもりやったんや。ってちょっと今キレとるで。
『お店とか、全部そっちに任せてもいい?今は、そういうのちょっと難しくて。』
「はー、なんやコイツ」
「びっくりした、なに急に」
「あや、案件」
「へー、レトさんにもくるんだ」
「そんなこと言えるってことはそれくらい元気あるって事やな」
「ちょぉい!」
話してる男の言葉を耳に流しながら送られてきたものを読んでいく。
『一応、元気にはやってるから大丈夫。』
なわけないんやろうな。こういう時のうっしーの言葉は真に受けられん。
『その、あいつとのことはもう既に聞いてると思うから、俺からはなんも言わないけど…レトルトがあいつのこと好きなら、今のうちに俺から奪って。』
……
「は?」
「だから何。独り言うるさいよ、もぉ」
その言葉を無視というか頭に入れず、メッセージを読み進める。
『…そうしてくれたら、俺も諦めつくかもしんないからさ。好きじゃなかったら、俺の勘違いで本当にごめんなんだけど、』
思いっきり勘違いやぞ。
『とりあえず、調子が戻るまでは動画は1人で続けてくつもりだから、それを出来たら3人にも、伝えてくれると嬉しい。』
ひとりで解決しやがってコイツ。
「キヨくんごめん」
「んぁ、なに」
「俺今から行ってくるわ」
「は、どこに」
「それは…友達ん家!」
「…………は、?えぇ、」
それだけ言い伝えて急いで荷物を取って先程の連絡を見た男の家に行く。通話していた男を放って。
なんっや、あいつ!ホンマに1人で完結しやがって!俺らの心配はどこにやったらええんやアホ!どうせずっと引き摺って誰にも会いたくないんやろうな!丸分かりすぎてどうしたらええか逆にわからんわ!
「あー、もー、」
こんなんほっといた方がええことはわかっとる。やけど、それでも
友達という縁は切れないから
「待っとけよあのアホめ…」
「はぁっ、」
やっとの思いで送信できたメールを一通り読む。自己中なことばかり書いているのは申し訳ないが訂正する程の体力はもうほぼゼロに近い。
今日はもう寝よう。時間も時間でいい時間だ。風呂はまた明日にして、飯は…どうせないからいいや。
そんなことを考えていたら突然インターホンが鳴った。
何か頼んだものあったっけぇ?
と首を傾げながらモニターを見ると汗をダラダラかきながら『はぁ、っはぁっ、』と過呼吸かと驚くほど息が切れている友人、
「レトルト、」
がいた。
どうする?家に入れる?ほぼ何も無くなったとはいえ、ずっと掃除はしてないし汚いことは変わりない。というかこんなにもすぐ面を合わせるだなんて思ってなかった。飯も随分の間食べれてないからガリガリで心配…するだなんて、されたいって思ってんだろうな。気持ち悪い。って今それどころじゃねぇ…
ほんとに、どうしたら_
『とりあえず家入れて』
「ぇ、」
『話はそれからや』
そう言われて、押す手前で止まっていた手が力が抜けて、ドアを開けてしまった。
数分して、レトルトが家の前に来た。少し呼吸が荒くなるが、入れてしまったのだから逃げ道はない。恐る恐る鍵を開けて、ドアを開けた。そこには、悲しそう、だなんて言葉では収まらないような辛い顔をしていたレトルトがいた。
「れ、とると…」
「…一旦、家入れて」
「……うん」
微かに震える手でレトルトが入れる広さまでドアを開ける。
「…なんやこのゴミの山は」
「…捨てるの、忘れてばっかでさ」
「嘘やろ。それ」
「え」
本当の、事なのに_
「これ、全部キヨくんとの思い出のやつやろ」
「!」
「…やっぱ、そうなんやな」
「…なにが、」
俺の事を弄ぶなら、早く帰って_
「あいつも、ずっとそうやで」
「……は、?」
レトルトの一言だけで、今一瞬時が止まったように思えた。固まった体は上手く動かない。動揺でフラッとするが少し目眩がしただけだった。でも、そんなことよりも気になってしまった。
俺と、同じって…どういう、
「…ずっと、あいつも元気ないってことや」
「そ、なわけ……」
「あと、俺があいつのこと好きになるわけないからな」
「…え?」
「勝手に思い上がったみたいやけど。絶対にそれはないから。あんなやつ俺が選ぶわけないし」
俺の考えていたこと、思っていたことと矛盾していて頭の整理がつかない。
「俺は男の趣味とかそんなんないし。うっしーとかキヨくん達のことはあくまでも友達としか思ってない」
「は、え」
「あと、うっしーとキヨくんの間に入るつもりなんてさらさらない」
「ぁ、え……う、うん…?」
レトルトのペースにのまれてちゃんとした返事ができない。やっといつも通りの感覚を戻してきたかと思えば、痛いことを言われる。
「うっしーは、キヨくんのこと嫌いなん?そこだけでも、はっきりせぇよ」
「そ、れは…っ」
嫌いなんかじゃない。
そう言いたい。言って、前に戻りたい。全部、元通りにしたい。なのに、言葉が詰まって出てこない。
「好き?嫌い?この二択だけやぞ。何迷うことがあんねん」
関西弁というのもあってか、少しいつもより言い方が強く感じて声が出ない。口が震えて、声が引っ込んで出てきてくれない。
「天邪鬼もいい加減にして」
「っ゛!」
その一言で、心に槍を刺されたように痛い。これまで、素直になれなかったのは、ひねくれたことばかりしてたのは、天邪鬼だったからなんだ。
「……行こ」
「は、ちょどこに…っ_」
「キヨくん家」
「え」
腕を引っ張られて強引にも外に出される。
いや、え……今部屋着…
「…部屋着なんだけど」
「……じゃあ着替えてきて。逃げんのナシな」
1度また家の中に入れられ、レトルトは外で待つらしい。口では言われなかったけど。
珍しく、レトルトには似合わないような強引さが見えて、少し笑が溢れてしまった。
「おっそい」
「す、すみません…」
「そ、その……体型が変わったから心配されそうで怖いから少しふっくらした感じの服の方がいいのかとか、身だしなみとかしっかりした方がいいのかとか…考えたらキリなくて……
…許して下さい…」
ヲタクか、と言われそうなほど早口で言い訳をした。レトルトの反応を確認すると引いた顔をして突っ立っていた。
「そ、んな反応すんなよ!俺だって俺なりに頑張ったんだよ!」
焦ってそう返すがやらかした、と一気に肝が冷える。
「…取り敢えず、今から行くってなったらうっしー絶対固まるから、軽く飯食いに行こ。あんま食べれてないんやろ」
「……うん」
これは、周りから見られても分かるくらい痩せたから言い逃れなんかできない。
「…行こ」
長い間、ずっと独りで過ごしていた場所を後にして、久しぶりに顔を見た友人の後を追った。
「無理に全部食べんでもいい。ただ、ちょっとでいいから腹満たして欲しいってだけ。俺の我儘やけど…」
「…うん、ごめ_」
「謝って欲しいわけじゃ、ない…」
先程は強引にやりすぎたと思ったのか言い方が強くなっても段々声量が小さくなっていく。これもレトルトなりの配慮なんだろう。
「ずっと、食欲湧かなくてさ。食べれるは、食べれんだけど…その、前みたいな量は食べれねぇの。なんでだろうな」
無理に笑顔を作ってしまう。繕わなければ、これ以上レトルトに迷惑をかけてしまうから。もう既に、沢山の迷惑をかけたけれど。
なんでだろうな、なんで言ったけれどそんなのあいつとの関係が絶たれたからだというのが目に見えてる。なのに、分からないフリをしてしまう自分にも嫌気が刺す。
「…うっしーは、さ…キヨくんともう1回あの関係に戻りたい?」
「…随分、踏み込んだな」
「……うん」
「本音を言えば、そりゃ…戻りたいよ。だけど、俺には…あいつの隣にいることは似合わないから…」
言葉にして、やっと理解できた気がする。自分がどうしたかったのか、何がしたかったのか。
「うっしーは、それでええの?」
「…なにが?」
軽く、そう返事をする。重くする状況じゃないから。
「…うっしーは、ほんまに…それでええのって…” 似合わん “、ってだけで全部自分のいいように終わらせて、いいん?って聞いてんねん」
その言葉に、俺は返事ができなかった。何を言えばいいのか、分からなかったから。だから代わりに、目の前の料理を少しだけ掬って口に運んだ。噛む度、いつも味はするのに、ほとんど分からなかった。
「…うっしーのいいように動いとるだけやで?」
「……終わらせた、ってつもりは…ねぇよ」
「…じゃあ何?途中で諦めてやること放り投げただけ?」
「っ……」
「中途半端で終わらすなんて、全部終わったの内に入らんのはわかっとるんやろ」
レトルトの声はそこまで強くない。なのに、逃げ道を作る隙なんて一切作らせてくれない。
「…わかってる、わかってるよ… 」
でも、行動するまでの勇気は…俺に持ち合わせてないんだよ。
「…行動するまでは、怖いってのが残るのは分かるよ。ずっと経験してきたから」
「…うん」
「嫌われるんも、拒否られるんも、全部先回りして逃げたんやろ?怖いから。」
「……うん」
これ以上、言葉が出ない。
図星だから、何も言えない。
「…違うって言いたいんやったら言えばええよ。ただ、それまで嘘つくんやったら、俺は許さへん」
「……」
ただ、2人だけの静かな沈黙が続く。苦痛でしかない沈黙。
「…やっぱ、言われへんねやんか」
「っ、」
握った手に力が入る。ぎゅっと握ったせいで爪が手のひらに食い込んで痛いと言える程、強く握った。
「…じゃぁ、じゃぁさ…俺にどうしろって、言うんだよ……っ、」
涙は落ちない。だけど、震えた声だけは堪えたくても出てしまった。
「戻りたいって言って、もしアイツに縁を絶たれたらとか…そう思ったらキリがないんだよ…」
「…うん」
「もう、遅いかもし んないじゃん、それに、また同じこと繰り返すなら、最初っから_」
「逃げ道作んの、ほんま上手いよな。うっしーは」
時が止まったかのように、俺の体はピタ、と止まる。
「うっしー」
先程までピリピリとした雰囲気を纏いながら話してたとは思えないくらい、優しい声で名前を呼ばれた。怖いけど、顔を恐る恐るあげた。
「うっしーが怖いって思っとるんは、” 戻れへんこと “やなくてさ」
「” 戻ってまた失うこと “…やろ?」
核心を突かれた気分になった。息が詰まるように、胸が苦しい。
「でもな」
レトルトは、いつもみたいな柔らかい笑顔で少しだけ笑った。明るい笑顔とかじゃなくて、少し呆れを含んだ笑顔で。
「それってさ、もう既に失っとる状態となにがちゃうん?」
「……」
正解を言われた気がした。何も言い返せない。言い返せるような言葉が浮かばない。
「うっしーは、未来のことじゃなくて過去と今のことばっか考えとる。それだけで悩んでばっかやで」
「…」
「しんどいんやったら、抜け出したいんやったら、1回ちゃんとぶつかって砕けたった方がマシになるんちゃう?」
少しの沈黙が過ぎる。何も話してないとはいえ、店のざわつきはあるはずなのに、やけに遠く感じた。
「……っはは、」
小さく、弱いような強いような笑いが零れる。
「ほんっと……性格わりぃやつ」
「今更やん」
視線を落として、聞こえるかも危ういと言えるほど小さく呟く。
「……怖ぇよ、」
それは、初めてしっかりと出た本音だった。レトルトは聞こえたようだが何も言わない。ただ、俺と同じで視線を外して言った。
「…知っとる。でも、それはキヨくんも同じやと思うで」
「……」
「だから、今もあんな状態なんや」
” あんな状態 “とか言われても会ってないし声も聞いてないから分からない。だけど、俺と同じで壊れかけてるのだということは、レトルトの言葉だけで分かってしまった。
「飯、冷める前に食べなよ」
「…話長引かせたのはどこのどいつだよ」
「うるさいな。これくらいしとかな動かへんやんか」
「……そうだな」
文句を言い合いながら、もう一口だけ口に運ぶ。緊張か、それとも不安でか先程は味がしなかったのに、少しだけ味がした気がした。
店を出た後、すっかり空は真っ暗で少しだけ冷たい風が頬を撫でる。
「…寒いけど暑いな」
「そら、そんな厚着しとるからやん」
「だって、体型……」
「あー、はいはい」
「適当な返事すんなよ」
「文句言える元気あるんやん」
軽口を叩きながらも歩く足は止まらない。向かう先は、もう既に決まっている。
「…なぁ、レトルト」
「ん?」
「や、っぱ…辞めるってのは_」
「却下」
即答で、しかも普通の言葉より重いような言葉になっていた。
「まだ全部言ってねぇんだけど」
「言わんでも分かるわ。うっしーのことやし。あと逃げる気満々の顔しとる」
「…どんな顔だよ、それ」
「ここまで歩いてきて逃げるとか、男として良くないんじゃないんですかー?」
「イラつく言い方すんな」
「引き返したらほんまにダサいで」
ぐうの音も出てくれない。レトルトは、俺の痛いところばかり刺してくる。
「……1回だけ、だから」
「何がよ」
「ほんとに、無理だったら…_」
「そん時はそん時。今は今」
言葉を被せてそう言われる。言い返せるような言葉は、見つからなかった。
見慣れた道に入った瞬間、足が重くなる。まるで足枷を付けられたかのような、重いものを足に付けられたかのように、進むスピードが遅くなる。
「止まらんで」
「…」
勝手に止まりそうになる足を、無理やり前に出す。顔を上げると、あの部屋の灯りが遠くに見えた。
「…まだ、起きてんのな」
「そらまだ19時や。起きてるに決まっとる」
「…そっか」
胸の奥が、じわっと熱くなる。逃げたのは自分なのに、諦めたのは自分なのに。その変わってない事実にだけ、少し安心してしまった。
「…俺はここまで」
「は?」
家の前で、レトルトは足を止めた。
「俺は家にまであがらん」
「な、なんで」
「当事者ちゃうし」
ポケットに手を突っ込んで、軽く笑う。呆れた感じではなく、気を紛らわせるかのような笑顔だった。
「これは、お前らの問題やろ?俺が態々首突っ込むわけにはいかんやん」
少しだけ真面目な顔をしてレトルトは言った。
「ここまで来たんやったら、あとは自分でやり切れ」
「……っ」
背中を痛いとは言えない軽い力で叩かれる。軽いはずの一撃なのに、その一発が重たい。
「逃げたあかんで」
「……」
返事は返せなかった。ただ、頷くので精一杯だったから。
1歩、また1歩と踏み出す。階段を上がる度、心臓が張り裂けそうなほど痛い。
こんなに緊張したの、いつぶりだっけ。
「……は、っ」
自嘲気味に軽く笑って、立ち止まる。目の前には何度も見た扉。何度も開けたことのある、はずなのに。目の前にあるはずなのに、今はやけに遠く感じる。
「……このまんま、逃げてやろうかな」
そう弱音が零れた瞬間、ポケットに突っ込んだスマホが通知を鳴らした。送り先はレトルト。
『逃げたら殺す 』
「……っ、ははっ…」
思わず、笑ってしまう。見透かされてることがわかって、逃げ道は用意したくてもできないことが分かる。
ほんっと、最後までコイツは性格が悪い。
1度だけ、深呼吸をする。重さが無いはずの空気が重く感じて緊張感が増す。
震える手で、インターホンに触れる。
少しだけ冷たい静かな時間が流れる。
一瞬だけ、躊躇って
それでも、
___力強く押した。
インターホンが鳴った。
こんな夜中に誰だよ……と、起こしたくもない体を無理矢理起こして、重たい足で玄関へ向かう。 モニターを覗いた、その瞬間
「……は、」
息が止まった。
映っていたのは、見間違えるはずもない顔で
ずっと、会いたくて
でも、会えないままだったやつ
考えるより先に体が動く。
「っ、」
ほとんど走るみたいにして玄関まで行って、鍵を外す手が震える。
なんで今
なんでこんな時間に
ぐちゃぐちゃに浮かぶ思考より先に
ただ一つだけ、はっきりしてた。
逃がしたくない
「……っ、」
ドアノブに手をかけて 一瞬だけ、止まる。 開けたら、また 全部、壊れるかもしれない
それでも
「……来んなよ、今さら」
小さく吐き捨てて 勢いよく、ドアを開けた。
「…うぉ、っ」
なんだよ。その反応…
そう苛立ちを抱えながらも、やっと会えた会いたかった人を思いのままに抱きしめた。
「うぇっ、な、ななに!?」
「……うるさい、」
離れていかないように、ぎゅっと苦しくなるほど抱き締める。
「…な、せめて部屋入れて欲しいんだけど…」
「…なんでよ」
「…ココ、廊下のど真ん中なんですよ…」
「……あ、」
言われてやっと気づいたみたいに周りを見る。
「……は、」
小さく息を吐いて、それでも腕は解かないまま。
「……いいから、入れよ」
「いや解けよ!?」
「やだ」
即答だった。
「は!?なんで!?」
「……逃げるだろ」
「逃げねぇよ!?」
「信用ねぇ」
「ひっど…」
文句を言いながらも、抵抗は弱い。
そのまま、ほとんど引きずるみたいにして部屋の中に連れ込む。 ドアが閉まった瞬間、 静かになる。
外の音も、廊下の気配も、全部消えて
「……っ、」
そのまま、壁に押し付けるみたいに距離を詰める。
「な、ちょ…」
「……どこ行ってたの」
低く、抑えた声。 でも全然抑えきれてない。自分でもわかるくらい、低い声だった。
「……っ」
「なんで、何も言わずに消えんの」
「……」
「どんだけ連絡したと思ってんの」
腕の力が、また少し強くなる。自分でも 痛いくらいに。
「……俺、さ」
一瞬だけ、言葉が詰まる。
「……待ってたんだけど」
「……っ、」
その一言で、 空気が変わる。 怒ってるはずなのに、 その奥にあるのは、どうしようもないくらいの。
「……ずっと」
震えた声だった。 震えた声が、やけに近くで響く。
「……待ってたんだけど」
「……」
返事が返って来ない。その少しの沈黙さえも、痛い程苦しい。
「……なんか言えよ」
「……っ、ごめ……」
出てきたのは、それだけだった。
「謝れって言ってんじゃねぇよ」
被せるように返す。 でも、声は強くな い。
「……そういうのじゃなくてさ」
少しだけ、顔を逸らされる。 それでも距離は離れないまま。離れていこうとする感じはもう一切感じられなかった。
「……なんでいなくなったのか、聞いてんの」
「……」
返事は返って来ない。答えが見つからないのか、それとも言えないのか。分からないけれど、沈黙が長く怖い。
「……はぁ、」
小さく、息を吐く音が自身の耳にも届く。 そのあと
「……っ、」
ほんの少しだけ、 うっしーの肩に、頭を置く。
「……っは、」
押し殺したみたいな息。自分でも 泣いてるのか、笑ってるのか分からない。
でも
「……最悪」
かすれた声で、そう呟いて言葉をまた被せる。
「……ほんと、最悪なんだけど」
言葉とは裏腹に 抱きしめる力は、弱くならない。
「……なんで今さら来んの」
「……っ、」
「……来るならさぁ、もっと早く来いよ…」
最後の方、自分でもほとんど聞こえないくらい小さくて、 でも、 確実に、震えてた。
「……っ」
服を掴む指が、少しだけ強くなる。 それ以上は、何も言わない。
ただ
「……っ、」
小さく、息をすする音だけが2人しかいないこの部屋に響いていた。
「……来るならさぁ、もっと早く来いよ…」
小さく震えた声が、耳元に残る。
「……っ」
それだけで、胸が締め付けられる。
「……なぁ」
ぽつりと、耳元でキヨが呟く。
「……また」
少しだけ顔を上げて。 でも、目は合わせてこない。玄関でキヨの姿を見た時驚く程目の下は隈だらけで、声も若干掠れていたように聞こえて、元気もあるように見えなかった。見た瞬間、『あ、コイツも…同じだったんだ』って思った。
「……また、いなくなんの?」
「……っ、」
そんな顔で、悲しみに包まれた瞳で言われた、その一言で、 心臓がドクンと大きく鳴る。
「……俺さ」
続けようとして、言葉が止まる。
代わりに
服を掴む手が、少しだけ強くなる。
「……もう、無理なんだけど」
「……」
「これ以上、いなくなるの」
弱い声。 でも、はっきり聞こえた。
「……っ、だから」
一瞬だけ、迷うみたいに間が空いて、 ゆっくり顔を上げてくる。
「……俺の事、好き?」
「……」
真正面から、ぶつけられる。 逃げ場なんて、どこにもない問い。
「……そう、だよ。出会った頃から、ずっと、目で追いかけてたよ。でも、でもさ。思ったんだわ、」
ゆっくり、ゆっくりと言葉を繋いで話していく。段々、声が震えていく。
「…なにを?」
「……コイツは、きっと大物になるから…俺なんかが奪っちゃいけないって」
視界までも段々滲んでいく。鼻先もツン、とする程痛くて、鼻水も出てしまう。
なんでだよ。仕方ないことだから、引きさがろう、って思ってんだよ…なのになんで、なんでだよ。なんで…涙が溢れだして止まらない?
言いたいよ。俺無しで、俺なんか忘れてって、言いたいのに。
心の中では叫べるのに、独り言にできるのに。
口からは、震えて出てくれない。
「…なんで?」
「…なんでって、そりゃ…周りの目とかもある、し…俺が、お前を幸せにする資格がないから、だから…」
「諦める他…なんてさ、ぁっ…ないじゃん、か…っ」
途切れ途切れになりながら、震える声で精一杯伝える。ちゃんと、はっきりした声で伝えたいのに、涙は止まってくれない、鼻水で鼻声になってしまう、目の前はぼやけて顔がしっかり見れない。
なにもかも、上手くいかないことだらけ。
「…幸せにしてなんて誰も頼んでないし。てか俺が幸せにするし」
「は、?きゅ、に…なんだよ、このくそぽんこつばかやろーが…っ」
「そんなこと言える余裕あるんじゃん」
「うるさい…でも、でも俺は…っお前と不釣り合い、なんだよ…だから、だから…」
声が出ない。
最後の言葉が
『 俺なんかに縛られてないで、幸せになってくれ 』
心の中で泣き叫んでるとも言える程、大きい声で言ってるのに
「ぁ……」
めのまえが、
まっくらで
「うっしー!」
「っあ、」
意識を取り戻すと、目の前は先程と変わらずキヨの顔があって。
でも、その顔は悲しそうな顔じゃなくて
「…なんで、なんで泣いてるの、?」
「~っ゛!なんでじゃないよ!」
この、ばか!と弱い声で言いながら、俺の肩に倒れ込んでくる。慌てて姿勢を治すが一切キヨが顔を上げてくれる気がしない。
「もう、自分のことばっか卑下しないでよ…」
「え、?」
「ちゃんと、俺を見ろよ…なんで、この世界でひとりぼっちになった気になってんだよ、」
「…」
「俺は、うっしーのことが好きだって…言ってんのにさぁ、」
「…うん」
「真っ当にその言葉を受け入れようとしてくんないしさ。あわよくば俺の目の前から姿を消すしさ?」
「……ごめ、」
「でも、今の言葉聞いて決心ついたよ。はっきり」
「…ぇ?」
「うっしーが嫌だって言っても、もう絶対離さない。どこかになんて行かせない。ずっと、俺の腕の中にいさせる」
真っ直ぐな目。これまで見た事ない、透き通った目だった。その目で見つめられて、俺は息を飲む。
なんで、俺は…ずっと離れたくないって、
「ね、うっしー」
「……んだよ、」
「まだうっしーの口から好きって聞いてなかったと思うんだけど」
「は?」
「いつ聞かせてくれるの?」
「……言わねぇ」
「…………ふーん、なら、無理矢理にでも言わせてあげようか?」
「んぶっ」
両頬を片手でぐっと掴まれて少しの涙を拭われた。だけど、そんな安心は1秒もなく消え、びっくりして勝手に開かれた口を口で重ねられ、吸うように舌が巻かれる。
「ん゛!?んーん!」
「何?うるさいんだけど」
「な、っ!お前がっ_んん゛っ!」
「好きって言ってくれるまでキスすっから」
突然の事で状況を理解できない。何も解決してないはずなのに無理矢理キスをされて頭の中はパニックでいっぱいだ。
「ちょ、きよ!」
「……なに、」
「お前がキスしてたら言いたくても言えねぇから!」
「……は?」
一瞬、動きが止まる。
「……言う気あんの?」
「……っ、」
その一言で、また空気が変わる。 さっきまでの強引さが、少しだけ引いて、 代わりに、逃がさない圧が残る。
「……ある、けど」
「けど?」
逃げ道を探すみたいに視線を逸らす。
でも、
逃がしてくれない。
「……ちゃんと聞けよ」
「聞いてる」
「茶化すなよ」
「まだしてねぇよ」
「……っ、」
ぐっと、服を掴む。 さっきより強く。
「……好きだよ」
小さく、でもはっきりと声を出した。
「……ずっと、好きだった」
「……」
キヨは何も言わない。 ただ、じっと見てくる。 逃げられないように、 確かめるみたいに。
「……だから、」
また言葉が詰まる。
でも今度は、 無理やり、押し出す。
「……だから、離れたくねぇよ…」
「……っ、」
その瞬間、 ぐっと引き寄せられる。 さっきよりも強く、逃げ場なんで与えずに。
「……それ、最初から言えよ」
少しだけ、掠れた声。 でも、 さっきより、ちゃんと笑ってる。
「……回りくどすぎんだよ、お前」
「うるせぇ…」
「……ほんと、バカ」
そう言いながら、 今度はゆっく り、距離を詰めてくる。
「……もう逃げんなよ」
「……」
「次やったら、マジで閉じ込めるから」
「……それはそれで怖ぇよ」
「じゃあ逃げんな」
間髪入れずに返されて 思わず小さく笑う。
そのまま、 今度はさっきみたいに無理やりじゃなくて 少しだけ、間を置いて聞かれる。
「……いい?」
「……聞くなよ」
「はは」
軽く笑って
唇が、重なる。
さっきよりもずっと
静かで
優しいキスだった。
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1万文字また超えました。ほんとにすみません。なんでこんなに長々と書いてしまうんでしょうか。そしてなんでこんな短期間(5日くらい)で1万文字超えの小説が出来上がってしまうのでしょうか。小説制作マシーンなんですかね。勉強せずに小説ばっか書いてるんで馬鹿な小説制作マシーンですね。(?)😇
5月入ってからまだこっちではフォローしてない休止した方で友達になった子達を迎えに行こうと思ってます(?)
Xも作りたい…誰にも教える予定無い垢で沢山のfaとか見てる…🫠鍵垢のやつは大体突破できないから諦めちゅー😇
どうやったらお話のいいね1000一気に貰えるような小説作れるのかなって思いながらいつも通りの小説を投稿する人です。(定期)
たぶん1000いいねもらっちゃったら失禁しちゃう。
コメント
5件
感動系で凄く胸に深く突き刺さるようなお話でした…このような系統の素敵なお話はなかなか見ることのできない宝のようなものなので読み終わった後も感動を噛み締めています✨ 思い違いから始まってrtに後押しされ、ちゃんとまた仲が繋がれる…これこそが黄金比ですね🫶主様の書き方も凄く秀逸で感情移入がしやすい文章でした。こんなにも満足度の高い小説を読んだのは久々です!後半は目から滝を流しながら読んでいました!このような素敵なものを5日間で…大尊敬です😌 次回作も楽しみにしています💖
ヤバい…涙が止まらない… ごめん今目の前が涙でいっぱいで誤字とかあるかも… もうなんて言えばいいんだろう…もうドラマ見てる気分だった… こういう系本当に好き 5日で1万文字書けるの普通に凄い( °_° ) 関西弁rtさんいいね…めっちゃ好きですわ(。-∀-) もうrtさんがいい人すぎるのよ… めっちゃ号泣したありがとう… 今も涙出てる…