テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
けいか🎼
132
雛
222
学パロ
両親が離婚したのはずっと前、幼い頃だった
ママと父親
どちらについていくかを問われて、俺は父親の方へ行った
理由なんて特になかった
ただその方がいいと父親に言われたから
けど父親が俺に向けたのは愛情ではなかった
笑えば気持ち悪いと殴られた
泣けば煩いと蹴られた
喜べば鬱陶しいと怒鳴られた
子供らしく振る舞えば怒られ、子供らしくなくても怒られる
だから
笑わない
泣かない
喜ばない
怒らない
そうすれば怒られる回数が減った
でも傷は減らずに増えていった
“痛い”も“助けて”も意味がない
ある日そんな地獄のような生活が終わりを告げた
ママが気付いて助けてくれたから
けど、俺はもう甘え方を忘れてしまった
心配されても「大丈夫」「平気」
相手が望む様に動く方が楽だった
先生の望む優等生、生徒の望む完璧な生徒会長、両親の心配しないで済む息子
─
「おはよう、美桃くん」
「おはようございます先生」
「今日のお昼休みごめんけど生徒会だからよろしくね」
「はい」
朝学校に行けば笑顔と丁寧な言葉
先生には礼儀正しく、後輩には優しく、クラスメイトにはノリよく
生徒会の仕事は完璧に、遅刻もしない、提出物も忘れない
誰から見られても問題のない模範生の仮面を被る。それが俺
─
「おはよ」
「おはようございます、いるまくん」
「……またそれ?」
「何がでしょう?」
「いや……別に」
父さんの再婚によって家族になった義兄のらん
俺となつ、幼馴染のすち、みこと、こさめ
俺ら5人はいつも一緒に行動していてニコイチならぬゴコイチと学校でも有名だ
俺らにとってらんは少し変な奴
優しいし礼儀正しい
けど距離を感じるし両親に対しても一線を引いてる気がする
「……なぁ、なつ」
「ん?」
「らんってさ」
「うん」
「なんか……変じゃね?」
「俺も思ってた」
何がどう変なのかは上手く言葉にできない
笑っているのに笑っていない気がする
それに暫く生活したけど、怒らない、泣かない
こちらが何かしたら
「ありがとうございます」
それだけ
個性のある人ではなく無個性な動く人形のようで不気味だ
─
放課後、学校から離れてバイトに向かう
1つ、2つと駅を通り過ぎて息を吐く
眼鏡を外して鞄にしまう
真面目な生徒会長の仮面を外してスマホをイジるとメッセージが来ていた
『今日フルだよ』
バイト先からの連絡に簡単に返事をして笑みを
カランカラン
扉についたベルが軽やかな音をたてる
「おはようございまーす」
「らんらんおはよう。今日はフルだから歌姫もお願いね」
「今日は何歌います?」
「予約入ってないから好きなの歌っていいよ」
「またくらいの歌うかもしれないのに?」
「おー、らんらんの歌声を肴に呑みたいヤツしか来ないんだから、お前が好きに歌えばいいんだよ」
「みんなすぐ俺を甘やかすんだから」
「そりゃ大事な歌姫だからな」
日中はカフェ、日が沈んだらバーになるココは“シンフォニア”
俺が俺に戻れるバイト先
「ほら、今日の傷チェックするぞ」
「……今日は増えてないもん」
「みたいだな」
「でしょ?」
「偉い偉い。ほら、包帯巻き直すから」
「子供扱いすんなぁ」
ココでは笑ってもいい、甘えてもいい、弱音をこぼしたっていい、笑ってもいい、歌を歌ってもいい
誰かの理想のらんにならなくていい
だから息がしやすい
「らんくーん!」
「今日も楽しみにしてるよー!」
「マスター、キス・イン・ザ・ダーク頂戴」
「さすが女傑。レディキラーを進んで飲む」
「はいはい、注文ありがとうございまーす」
今日も賑やかな夜の帳が下りる
─
「ねぇアレ」
「は?」
「カイチョーだよね?」
「いるまちゃん達のお兄さん?」
「……は?」
通りの向こうに最近見慣れた人が見えた
歳上の男と仲良さそうに買い物をしてるのは完璧すぎる優等生の義兄
けれど普段とは違う雰囲気の服を着て、普段見せない様な明るい笑顔を浮かべてる
「アイツなにしとんの?パパ活」
「きっしょ」
「学校にチクったら面白そうじゃね?」
思わず眉を顰めた
なつもその光景を見て苦虫を噛み潰したような顔をしていた
その時義兄、らんが男から何かを受け取った
「……アクセサリー?」
隣の男が選んでくれたらしいアクセサリーを着けて楽しそうに笑ってる
学校でも、家ですら見たことのない顔
まるで知らない人間のようだ
─
「パパ活をしてるという目撃情報が匿名で学校に入ったんだけど、どうなんだ?」
職員室に呼び出され静かに立つ
「美桃君に限ってないと思うけど、事実確認は必要でね」
「パパ活はしてないですけど、いつの話かわかりますか?」
「昨日の昼頃らしい」
「あー、はいはい」
納得して頷いてしまう
「バイト先の知り合いと買い物してたからじゃないですかね?」
「男性と楽しそうにアクセサリーショップにいたって聞いてるわ」
「私も年頃の男なので、アクセサリーぐらい買いますよ」
パパ活とは彼がまたショックを受けそうだなぁ
「なんなら彼呼びます? 今日は非番って言ってたので来れると思いますよ」
「なら、一応呼んでもらえる?」
「ああ、バイト先の店長もできたら」
「じゃあちょっと連絡しますね」
スマホを取り出してメッセージを送る
『紺さんとの買い物がパパ活と間違われました』
『先生達が話を聞きたいらしいので学校に来れますか?』
蒼司さんと紺さんに同じ文面を送った
数分後職員室の扉が開いた
「こっちがバイト先のカフェバー“シンフォニア”のオーナーです」
「御伽蒼司と申します」
「こっちが――」
「誤解をさせて申し訳ありません。美桃らんくんとは歳の離れた友人なだけで、金銭のやり取り等はしておりません」
「まず名乗れへっぽこ公務員」
「あっ!木幡紺と言います。警察事務をしております」
「……警察?」
「警察事務」
「紺さん、自己紹介もへっぽこだね」
「らんくんが酷い!」
「事実じゃん」
学校での完璧優等生な仮面がズレて俺が顔を覗かせる
─
職員室を出て、3人で校舎を歩く
さっきまでの緊張感が嘘みたいに消えていた
「へい、らんらんどんまーい」
「オーナーうざぁい笑」
「ゴメンなぁ、らんくん。俺のせいで先生に呼び出されて」
「紺くんのせいじゃないだろ」
「そうそう。勘違いした馬鹿のせいだよ」
「ありがとぉ〜。またお店でリクエストするね」
「りょ〜かい」
昇降口を出て校門を抜けひと息つく
2人といてズレていた仮面を外して肩の力を抜く
「にしても猫被りらんらんオモロ笑」
「確かに。いつもと違う大人っぽいらんくんだったね」
「そりゃ学校で求められてるのは完璧優等生だからね。俺である必要ないもん」
「……それ、さらっと言うことか?」
「え?」
「いや、なんでもない」
「変なの」
らんは笑う
学校にいる時とは違う少し気の抜けた、年相応の柔らかな笑い方
「今日シフト入ってたよな?」
「うん。フル」
「じゃあ一緒に行くか」
「いいよ。あ、でも途中で本屋寄りたい」
「また資格の勉強?」
「そう。今度受けるやつの参考書買いたい」
「資格いくつ取る気なんだよ……」
「取れるだけ取りたいんだよね」
「いや多すぎるって」
普通自動二輪免許、日商簿記、工業簿記、電卓、漢検、英検、ITパスポート、MOS、医療事務、普通救命講習、食品衛生管理者
鞄には、いつだって何かしらの資格教材が入っている。
「そういや今度は何?」
「危険物乙4種」
「その次は?」
「まだ決めてない
「まだ増えるんだ……」
「趣味だし、先生になってくれる人いるから」
そう言って少しだけ楽しそうに笑った
学校では見せない顔
蒼司も紺も、それを特別扱いしない
だから自然に笑える
「ほら、らんらん」
「ん?」
「信号」
「あ」
「ぼーっとしてんなぁ」
「考え事してただけ」
「何考えてたん?」
「今日の一曲目」
「仕事熱心だなぁ」
「歌うの好きだもん」
それだけ。たったそれだけの会話なのに
らんにとってはそれが心地よかった
何を言っても
変な顔をしても
笑っても
怒っても
ここにいる2人は何も言わない
──シンフォニアに行けば、もっと楽になれる
そう思いながら、2人と肩を並べ歩く
─
「らん!」
玄関を開けた瞬間、母親の声が飛んできた
「あ、ママ。ただいま」
「今日呼び出されたって聞いたけど、何があったの?」
「大丈夫。バイト先の友達と買い物してたのを勘違いされただけで、誤解だってわかってもらったから」
「……本当に?」
「本当に」
らんはいつもの笑顔を心がけて笑いかける
ママを安心させるための笑顔
「先生から電話があった時、びっくりしたのよ。あなたが何かしたんじゃないかって……」
「俺がそんなことするように見える?」
「見えないわよ。でも……」
ママは言葉を濁した
あの日からずっと心配してくれてる
昔、気付けなかったことを引きずってる
今度こそ見落としたくない
そんな気持ちを理解している
「辛かったら、バイト辞めてもいいのよ?」
「心配しないで。バイトは楽しいし、趣味にも役立ってるんだから」
「でも……」
「大丈夫だって」
母親の肩を軽く叩いて笑いかける
「シンフォニアの人たち、みんな良い人だから」
「……そう?」
「うん」
「ならいいけど……」
「ほら、ママこそ早く寝なよ。明日仕事でしょ?」
「あなたも夜更かししないのよ」
「はーい」
ママが部屋へ戻って、足音が遠ざかる
それを確認してから笑顔を消す
玄関に1人になり時計がもうすぐ10時30分を告げる
夜だから静かな家、廊下を進み自室に入り鞄を放る
「……疲れた」
誰にも聞こえないよう呟く
学校でも家でも言えない本音の切れ端が漏れた
シンフォニアでは言えるのにな
明日、店休みか…
早く店に行きたいな
─
昼休み
生徒会室で書類を整理していたらんの耳に、校舎の外からやけに大きな声が響いた
「らんちゃ〜ん!!」
「……なんだ!?」
「何アレ、不良?」
「らんって生徒会長のこと?」
「生徒会長にあんな知り合いいんの?」
廊下や教室が一気に騒がしくなる
窓の外を見れば、校門の前に見覚えのある姿
「……あちゃー」
思わず額を押さえた
「知り合いか、美桃?」
「バイト先で仲良くなった友人の一人です。ちょっと行って来ますね」
「ちょっ! ここ二階!」
先生の声を背中に聞きながら、窓を開けた
「らんちゃ〜ん!」
「みっくん、何してんの!?」
「らんちゃん助けて!」
「そこ階段じゃないぞ!?」
先生の制止も聞かずに窓枠に足を掛ける
そして
「よっ」
「お前、そこから!?」
迷わず下へ飛び降りた
「……生徒会長ってあんなことする人だったっけ?」
「俺も初めて見た」
窓から覗いていたいるまとなつが、生徒が、先生が揃って呆然とする
着地したらんは何事もなかったかのように制服の裾を払った
「みっくん、どうしたの?」
「らんちゃん助けて!」
「うん」
「次のテスト赤点取ったら、店しばらく出禁にされる!」
「……」
「オーナーの鬼!」
「勉強しないみっくんの自業自得でしょ?」
「らんちゃんまで酷い〜!」
「だって本当にそうじゃん」
「うぅ……」
染めて傷んだ金髪、擦れ合い音を立てるアクセサリーを着けてしょぼくれる彼は南泉真緒
シンフォニアで知り合った、他校の友人
「しょうがないから勉強教えてあげる」
「神様仏様らんちゃん様〜!! マジ神!」
「はいはい」
頭を撫でられて、南泉が嬉しそうに笑う
らんも自然と笑ってしまう
それを、いるま達は少し離れたところから見ていた
「……らん」
「ん?」
「めっちゃ普通に喋ってね?」
「……うん」
「俺らといる時と全然違くない?」
いるまもそう思ったのか答えない
らんはいつも丁寧な言葉で姿勢がいい。笑う時も控えめ
なのに今は
「みっくん、次のテスト最初は何?」
「数学と英語!」
「じゃあ数学から。英語は単語覚えればなんとかなる」
「らんちゃん先生!」
「先生じゃないって」
「お願いします!」
「はいはい」
まるで別人だった。崩れた口調に明るい笑顔
そんな二人の視線に気付いたのからんが振り返る
「あ」
一瞬目が合う。ほんの一瞬だけ、なのにいつもの静かな笑顔に戻った
「……」
いるまは、何故かそれが嫌だった
さっきまで笑っていた顔より今の方がずっと遠くに感じたから
「……お騒がせしてすいません」
教師へ向き直って謝罪する
「見た目と頭はユルいですけど、悪い子じゃないので許してあげてください」
「ごめんなさいでした!」
南泉が勢いよく頭を下げる
「まぁ、美桃の知り合いというなら……今回だけだぞ?」
「ありがとうございます!」
南泉が顔を上げ横にいるらんに飛びつく
「じゃあ、らんちゃん!勉強!」
「はいはい、じゃあ一旦帰って、シンフォニアで合流ね?今日はシフト入ってないから1日付き合ったげる」
「やった〜!」
「その代わり、ちゃんと勉強するんだよ」
「は〜い!」
「じゃあまた後でね」
「は〜い!」
南泉が手を振って校門の方へ走っていく。
らんも手を振り返すその横顔は、学校で見る「生徒会長」ではなかった。
─
「私はその考えを否定します。私は貴方達に感情を見せなくてはならない理由を問いたいです」
「笑えば気持ち悪いと殴られ、泣けば煩いと蹴られ、喜べば鬱陶しいと怒鳴られました。再度問います。感情を見せなければならない理由がありますか?」
「私を産ませた男は私に感情をあることを厭いました」
「先生の望む優等生、生徒の望む完璧な生徒会長、両親の心配しないで済む息子」
「近しいからこそ“俺”を知る必要はないでしょう?」
「どうせ高校卒業したら家出るんですし」
両親が離婚→父親が引き取る→父親に虐待された→母親が虐待に気付く→母親が引き取る→時すでに遅し
対人では人形として望まれる人物を演じている
唯一バイト先では演じる必要がないのでストレスがない
バイト先はカフェバー(昼はカフェ、夜はバー)ウェイトレス兼歌姫
表向きは優等生で完璧な生徒会長
実際は愛されたがりの弱メンタル
母親の再婚で義弟双子
いるま&暇72 高2
2人の幼馴染が3人 すち・みこと・こさめ
ニコイチならぬゴコイチ、大体一緒にいる
六連 らん むつれ らん
旧姓美桃 みとう
・趣味は資格取得
バイク・医療事務・漢検・英検・簿記・工業簿記・電卓・ビジネス文書・情報処理 etc.
・自傷癖持ち、足の付け根が主
・普段着は真面目系、趣味服はオーバーサイズ
御伽 蒼司 おとぎ そうじ
→御伽草子より
・男
・“シンフォニア”のオーナー
木幡 紺 こわた こん
→木幡狐より
・男
・警察事務
南泉 真緒 なんせん まお
→猫の草子より 猫斬り南泉、中国語の猫
・男
・ヤンキー校の学生
コメント
3件
お疲れさまです、寺島あおいです。 第4話、一気に引き込まれました。らんが“シンフォニア”でだけ見せる肩の力の抜けた笑顔と、学校や家で被る“完璧優等生”の仮面とのギャップが切なくて……特に、いるまくんが「さっきまで笑っていた顔より今の方がずっと遠くに感じた」と気づくシーンが胸に刺さりました。彼が無意識に感じた“距離”が、これからどう動いていくのか気になります。資格を取ることに必死になる彼の“生き方”も、全部理解したくなるお話でした。続きが楽しみです🌷