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「アルベド、どうして黙っていたの?」
「ああ?あの、第二王子様のことか」
「それしかないでしょ……ほんと、アンタって意味分かんない」
「俺も、お前が意味分かんねえよ」
あの後、グランツは私達に一礼して、トワイライトの元へ戻って行った。私は何過去絵を掛けたいと思って引き止めようとしたが、言葉を見つける前に、彼は消えてしまったのだ。いつもはあっちが、話したい、話したいと仔犬ムーブをしてくるのだが、それもなくて、成長しきった犬のようにしっかり自制心を持ってと言うか、一人前になった感じで、何も言わずに去って行ってしまったのだ。成長した、その響は良いのだが、何というか、少し寂しさも感じた。グランツは成長した。それでいいのだけど、それが寂しくもあるのだ。前は、あれ程ヤンデレ怖い! とか思っていたのに。
(寂しいよね……何か。懐いた仔犬が離れていく感じ……)
子供の成長を見守る親みたいな。
まあ、それは良いんだけど、私はアルベドにどうして黙っていたのかと問い詰めた。アルベドは、別にいいだろう、と鬱陶しそうに私を見下ろす。
「彼奴にとってショッキングな出来事だったんだ。そりゃ、少しは現実解変でもしてやらねえと可哀相だろ」
「アンタがそう思う人間なわけ?」
「……似たような境遇だったから、か。愛されねえってさ、寂しいだろ。それに気づいちまったら、本気で誰も信じられなくなる」
「アルベド……」
「信じたくても、信じられねえのは辛いだろ。それをずっと抱え込んで生きることになったら、周りには誰もいなくなっちまうんだよ。まあ、彼奴の場合、元々、そういう気質があったんだろうな。つか、そもそも、王族らしくない性格っつうか……ほんと、奴隷とかそこら辺と同じ考え方、だな。革命者ともいうのかも知れねえけど」
「何それ」
言っていることは大体理解できたし、私も、グランツの性格は、王族とか貴族とかとは違うなあと思っていた。底辺を知って這い上がろうとする人間みたいな。上の奴を引きずりおろそうとする人間みたいな。そんな感じだった。
「それを言うなら、アルベドだって、貴族らしくないんだけど」
「俺はいーんだよ。一応、それなりの教養と、一般常識、マナーさえ守れれば、貴族なんて自由だろ」
「それと、暗殺が繋がるとは思わないけどね」
「それは別だ」
と、アルベドは、悪戯っ子のように笑った。一応、人の命を奪っているんだけどなあ、と私は言葉を飲み込んでアルベドを見た。
アルベドも、幼い頃に弟に殺されかけ、人間不信になった岩場、被害者側の人間だ。だから、そうなりかけて真実を知ってしまいそうだった、同じ末路を辿ることになったであろうグランツを救おうとした。やり方はかなり乱暴だったし、そのせいで誤解も生んで、グランツの一生の傷になったわけだけど。彼の言ったとおり、アルベドがヘウンデウン教に入っていなかったとして、人を殺していたのは事実だ。戦争とかではなく、個人的な正義で人を殺していたのだから。その全てを取っ払って、人殺し、という単語が残ったとき、彼は何も正当性がない人間になってしまうわけで。
グランツは、それも含めて、アルベド・レイという人間全てを見た上で、好きになれない、殺意は抱き続けると言ったのだろう。受け入れられないものが一つでもあったら、その人を好きになれないと。
「でも、私は、アルベドは間違ってなかったと思う……よ」
「お?俺のこと慰めてくれるのか、エトワールは」
「そういうことじゃなくて。本当に……アンタは怖いし、実際、私だって出会った時、アンタが人殺している場面だったわけで。今でも、アンタの印象は変わっていない。でも、アンタの考えとか、思想とか、アンタと一緒にいて、アルベドが何をしたいかって知っているから、私はアンタを肯定したいの」
「エトワール」
「人殺しは許されない。でも、アルベドの夢は応援できるし、私しかアンタの夢を信じて応援できないでしょ?私は、アンタの唯一の理解者なんだから」
「……ありがとな、エトワール」
「うん」
アルベドは、そう素直に言ったのだが、耳が赤くなっていたのを私は見逃さなかった。ありがとう、と言える時点で、かなり変わったのだと思うが、本心を少し隠したような形で言ったんだろうな、というのも分かって、何だか面白かった。ツンデレ、何だろうな。今のはデレか、と私はアルベドを見ていた。すると、彼は私がにやけているのに気づいたのか、もにゅっと私の頬を引っ張ってきた。
「何笑ってんだよ」
「えぇ~アルベドが、でれたと思って」
「デレって何だよ。お、俺は、素直にありが、とうって言っただけだろ。おい、笑うな」
「アルベドって可愛いところあるから」
「お前が可愛いんだよ。バカ」
そう言って、アルベドはパッと手を離してそっぽを向いてしまった。分かりやすく耳が真っ赤で、ちらりと見えた頬も赤く染まっていたから、よっぽど恥ずかしかったのだろう。
でも、私も可愛いとか言われて若干顔が熱くなってしまったのは彼と同じだった。
それからアルベドは、皇太子殿下に挨拶をしてくる、と逃げるようにその場を去ってしまった。アルベドが、リースに挨拶なんてしないと思うけどなあ、と思いつつも、今日ここにこれたのは、リースのおかげなので、そう思うと挨拶はするのかなあ、何ても考えた。どちらにせよ、戻ってくるのは大分後になりそうだ。
「エトワール様」
「ごめん、ブライト。何か、変なのみせちゃった」
「いえ……エトワール様は、先ほどのグランツさんと、レイ卿の話、知っていましたか?」
「ううん、知らなかった。アルベドから聞かされていた話も半分嘘だったし。隠していたのは、アルベドの夢……ううん、まあ、アルベドにも良心ってものがあるから、グランツに隠していたんじゃないかなって」
「そうですね。レイ卿は、見かけによらず優しい一面があるので」
「それ、本人の前で言ったら、怒られるからね?」
「肝に免じます」
ブライトは珍しく冗談のような本音を言っていた。アルベドとグランツがいなくなって緊張がほどけたのかも知れない。殆ど、ブライトは空気になっていたから。最初に話し掛けてくれたのに、彼らの話に聞き入ってしまってすっかり存在を忘れていた……勿論その事は口にしないけど。
ブライトもやっぱり、先ほどの話は知らなかったようで、驚きました、と感銘を受けたように話してくれた。
「でも、ブライトはグランツがラジエルダ王国の第二王子って事は気づいていたんだよね」
「ええ。見覚えのある、瞳の色だったので。ラジエルダ王国の特徴的な瞳の色だったんです」
「へ、へえ」
「どうしました?」
「ううん、何でもないの。そっか、それで……」
グランツの瞳は確かに綺麗だし、吸い寄せられるものはある。でも、ガラス玉のように何かを映すけど、ずっと空虚みたいな所はあって、綺麗だけど、何もない、みたいな、いうほど価値がないものに見えてしまっていた。でも、ブライトはそれに気づいていたと。
「彼の髪の色……元々は、金色に近かったんだと思います。金糸……ラジエルダ王国の地に眠っている魔力によってその髪色は一層輝いて見えていたと思います。そう、記載があるんです。ですから、ラジエルダ王国から抜け出し、ラスター帝国の強い日の光を浴びて、亜麻色にくすんでしまったんじゃないでしょうか」
「な、成る程」
「まあ、それだけが根拠じゃなかったんですが。彼と、レイ卿の因縁の話を聞いて、ますますラジエルダ王国の歴史について興味が湧いてきました」
「勉強熱心というか、探究心が強いというか」
「魔法は途轍もない可能性を秘めているので。研究しがいのある分野ですよ?」
と、ブライトは目を輝かせて言ってくれた。確かにそうなのだが、研究したいとか、歴史を知りたい、とかまではならなかった。効率的な活用法や、種類については知りたいところだけど。
そう思っていると、またぐうとお腹が鳴って、私は恥ずかしさのあまりお腹を押さえた。ブライトは、気前よく、にこりと笑って「何か食べ物を持ってきますね」と人混みの中に言ってしまった。行かなくていいから、と言いたかったけど、彼もまた私が目を離した隙に消えてしまって、ポツンと一人、会場の端に取り残されてしまった。
「ほんと、善意でやってくれていることが、結構迷惑になっているのよね……」
嬉しくないわけじゃないんだけど、と私は腕を組んで人混みをじっと見つめた。