オレの名前はユウト。小学5年生。
クラスではあんまりしゃべらない、地味なタイプ。
休み時間は一人で本を読んだり、窓の外を見たりしてる。
でも──
画面の向こうの世界では、オレはちょっと違う。
夜、パソコンの電源を入れて、
マイクをチェックして、録画を開始すると…
オレは“もうひとつの顔”になる。
YouTubeチャンネル名は**「Y-BOY Gaming」。
登録者数は213万人**。
ライブ配信では、同時視聴者が5万人を超えることもある。
メインはバトル系のゲーム──「フォートブレイカーZ」や「クラッシュ・レジェンズ」。
超人的な反応速度、変幻自在の立ち回り、そして「冷静すぎる実況」で知られている。
「え、今の反応神じゃない?」
「Y-BOYの実況、まじで落ち着く」
「この人、絶対プロの大人だよな…」
コメント欄には、そんな声があふれてる。
──オレが、小学生だと知ってる人は、ひとりもいない。
配信を始めたのは、3年生のころ。
きっかけは、ちょっとしたイヤな出来事。
「ユウトって、しゃべんないし、何考えてるかわかんないよな~」
「発表の声ちっちゃくて聞こえないんだけどw」
クラスでそう言われたとき、
オレは「なんか、ちがう場所がほしい」と思った。
ちょうどその頃、父ちゃんが仕事で使ってた古いゲーミングPCをもらった。
それで、ゲームを録画して、マイクで実況をつけて、
はじめてYouTubeに動画をアップした。
再生数は「5」。
でも、そのときの「発信する快感」は、今でも忘れない。
Y-BOYのスタイルは「静かなプロ」。
テンション高くワーキャー言わない。
表情も見せない。顔出しもなし。声だけ。
でも、プレイは本物。
手元カメラで見せる、超絶なエイム。
立ち回りの読み。分析。ミスしたときの冷静な反省。
どの動画も、ちゃんと編集して、サムネも自分でデザイン。
土日は朝から晩まで収録と編集でびっしり。
「小学生のYouTuberごっこ」とは、次元が違う。
オレは、本気でやってる。
ある日、海外の人気配信者「ReiZero」から、配信中にこんなメッセージが飛んできた。
@YBOYGaming
1v1 match. No tricks. Only skills. You ready?
(1対1の真剣勝負しようぜ。実力だけの戦い。やるか?)
オレの心臓が跳ねた。
ReiZeroは世界的に有名なeスポーツプレイヤー。
オレの動画を見て、挑んできたってことか…?
「よし、受けてやる」
オレは初めて、英語で返事をした。
Let’s do it.
配信当日。視聴者は45万人超え。
ReiZero vs Y-BOY のバトルが始まった。
結果は──オレの勝ち。
しかも、接戦ではなく圧勝だった。
その夜、世界中のゲーマーのSNSがざわついた。
「Y-BOY、何者だ!?」
「年齢不詳。プロ顔負けのプレイ」
「声が子どもっぽくね?気のせい?」
翌日、クラスでも話題に。
「なあ、昨日のY-BOYの動画見た?ヤバくね?」
「ReiZeroに勝つとか、神すぎる」
ドキッとした。
オレの声、気づかれてないよな…?
そのとき、クラスのゲーム好き女子・ミナが言った。
「…ユウトくんの声と、ちょっと似てる気がする」
…まさか!?
次の週。ミナに呼び出された。
「ユウトくん…あのね。秘密は言わないから、ただ、聞かせて?」
オレは、数秒だけ迷って、
スマホを出して、Y-BOYのチャンネルを見せた。
ミナは、目をまんまるにして、それから笑った。
「…やっぱりそうだと思った。でも、かっこいいね。プロだよ、マジで」
ちょっと、うれしかった。
最近、ゲーム会社から公式コラボの話が来た。
「Y-BOYスキンを作りたい」って。
でもオレは、まだ小学生。顔も出さない。名前も出さない。
だけど、世界中の人たちが、**“声だけのプレイヤー”**に夢中になってくれてる。
いつかきっと──
自分の名前で、胸を張ってプロとしてステージに立てる日が来たら。
そのときは言うよ。
「オレがY-BOYだ」ってな。
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