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第111話 「あと一つ」
2027年7月。
第109回全国高等学校野球選手権福岡大会。
決勝。
柳城高校 対 東筑学院。
あと一勝。
あと一勝で甲子園。
そして。
福間監督、最後の夏は続く。
試合開始一時間前。
ロッカールーム。
福間監督は円陣の中央に立った。
「今日で終わるか。」
「甲子園へ行くか。」
「その違いだけです。」
部員たちは静かに耳を傾ける。
「相手も同じ高校生です。」
「特別な選手はいません。」
「いつもどおり。」
「柳城高校の野球をしてください。」
「はい!」
力強い返事が部屋いっぱいに響いた。
三塁側ベンチ。
啓介部長はスコアブックを開く。
福間監督は静かにグラウンドを見つめていた。
プレーボール。
初回。
柳城は先頭打者が出塁。
送りバント。
進塁打。
四番のタイムリー。
1対0。
柳城らしい野球で先制する。
しかし五回。
東筑学院も反撃。
二死二塁。
レフト前ヒット。
1対1。
試合は振り出しに戻る。
七回。
柳城の攻撃。
一死満塁。
球場全体が息をのむ。
打席は六番。
初球。
スクイズ。
三塁線へ絶妙に転がる。
三塁手が前進。
ホーム送球。
間に合わない。
2対1。
柳城勝ち越し。
スタンドが大歓声に包まれる。
九回裏。
あとアウト三つ。
一死。
内野ゴロ。
二死。
あと一人。
最後の打者。
フルカウント。
山本が深呼吸する。
啓介はベンチから静かに見守る。
福間監督は腕を組んだまま動かない。
第七球。
外角低めへのストレート。
打球は高く上がる。
センターフライ。
センターがしっかりとグラブに収める。
ゲームセット。
2対1。
柳城高校。
福岡県代表。
甲子園出場。
球場に校歌が流れる。
選手たちは歓喜の輪をつくる。
スタンドでは。
塁が立ち上がり拍手を送る。
史陽は帽子を脱いだ。
舞は涙を流しながら校歌を口ずさんでいた。
氏原記者は、何枚も何枚もシャッターを切り続ける。
その視線の先には。
宙に舞う福間監督の姿があった。
三十年以上。
柳城高校を率いてきた名将。
教え子たちの手で、何度も何度も宙へ舞う。
グラウンドに降り立った福間監督は、少し照れくさそうに笑った。
その姿を見た啓介は、静かに目を潤ませる。
「先生…。」
福間監督は啓介の肩を軽く叩いた。
「まだ終わっていません。」
「本当の勝負は甲子園です。」
啓介は力強く頷いた。
「はい。」
夏空には入道雲が大きく広がっていた。
柳城高校。
福間監督最後の夏。
舞台は、再び甲子園へ。
第111話 終
パンチングマシーンニキ
103
shima7a
139
#前世
shima7a
597
33
コメント
1件
天海カオルさん、第111話拝読しました……! もう、涙が止まらなかったです。あと一勝、あとアウト一つという緊迫感がページから伝わってきて、息を止めて読んでいました。福間監督が教え子たちに何度も宙に舞うシーンが本当に美しくて、三十年以上の重みが一気に押し寄せました。啓介部長が「先生…」と潤ませる場面、ここで私ももらい泣きです。甲子園へ続くんだなあという希望と温かさが胸に沁みました🌷