テラーノベル
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越えられない壁 さえ視点
スペインから帰国して、久しぶりに凛と一緒にボールを蹴った夜。
昔のように無言でパスを回し合ううちに、気づけば時間はあっという間に過ぎていた。
汗を拭いながら、凛が小さく笑う。
「……やっぱり兄貴はすげぇな」
その笑顔を見た瞬間、冴の胸が痛んだ。
懐かしさでも、誇らしさでもない。もっと別の、抑えきれない感情。
(……ああ、俺は)
そのとき初めて、冴は自分がずっと凛を「弟」以上に見ていたことに気づく。
弟を越えるライバルとして。
そして――愛してしまった相手として。
「兄貴?」
不思議そうに凛が覗き込んでくる。
冴は慌てて視線を逸らした。
「なんでもない。……ただ、成長したなって思っただけだ」
本当は触れたいのに、抱きしめたいのに。
その想いを、兄という立場の檻に閉じ込めるしかない。
でも、一度気づいてしまったら消えることはない 。
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