白黒編 第二話 あげたチョーカー
「なぁ、悠くん?悠くんって俺の事好き?」
「ん〜?どうやろ?ま、他のやつよりは好きかもな」
いつも行為後に同じ質問を投げかける俺。しかし、かえってくる返答は如何なる時も変わりはなかった。
いつも、いつも、「他のやつより”は”好き」そんな答えだけだった。もちろん、恋人ではない俺にはこんな返答でも間違いではないだろう。俺たちに対して恋愛感情では決して表しきれない暗く重い感情を抱いている彼に俺はどう接すればいいか分からず、ただただ近くに寄り添うことしか出来なかった。初めて抱いた日、果たして悠くんは嫌では無かったのだろうか。俺の所で落ち着いてしまって良かったのだろうか。
俺は、いくら考えても答えが見つからない事はすぐ考えるのをやめる人だった。だから、今も無駄な事を考えるのはやめて、悠くんに対する欲に正直に行こうと思う。俺はベッドに寝っ転がっていた体を起こし、やっすいホテルのソファに座っている悠くんに抱き着いた。
「うおっ!?初兎!?急に抱き着いたらびっくりするからやめろよ?」
「別にそれはええやんか〜。ってか、悠くんさっきからなんか元気なにやんか。どしたん?話聞こか?」
びっくりするからやめろよ?とこちらを見てくる悠くんの顔は妙に青白かった。別に体調不良者のように、真っ青という訳ではなかったが、何処か気分が悪そうだった。
「いや、別になんかあった訳ちゃうで。ただちょっと気分悪くなっただけだから。今はなんともないで。」
「そっか、、こんな、やっすいホテルしか俺払えないから、気分悪くしたんかと思ったわ(笑)」
「ハッ、そんな事言うなよ(笑)それにたとえ安いホテルだとしても、その分初兎が俺を満足させてくれるんやろ?」
「ッッ、あんま煽らんといてくれる??期待に応えられん時、悔しいから。」
「ははっ、初兎は情けないな〜(笑)」
そうやって、煽るように言う悠くんは悔しかったが実に魅力的な人だった。少しはだけた着物に、メイク要らずのバチバチ眉毛。それに1本にまとめられた艶々の髪、そんじょそこらの女の子とは比にならないほどだった。そんな、どんな男でも惚れさせるような悠くんに煽られてしまって、自分はこんなにも興奮してしまっている。俺は、相当このイケナイ関係を好きになってしまっていたようだ。
「別に情けなくても悠くんには関係ないやんか(笑)」
俺は拗ねたように言った。
「え〜でも、このチョーカーはお前の意思表示と違うん?あんなに2人してパコパコしとる時に急にこんなの付けちゃってさ♡これ俺を縛り付ける道具と違うん??」
悠くんは首に巻かれたチョーカーと首の間に指を入れ引っ張りながら舌をだし、蕩けた目でこちらを見ながら言ってきた。
「ッ、せっかくプレゼントしたもんを道具とか言わんといてくれる??これでも俺結構考えて買ったんやから。」
そう、俺は悠くんに紫色のチョーカーをプレゼントした。しかしあげたタイミングはまさかの挿入中だったのだ。悠くんにあげようという旨で買ったチョーカーを散々迷った挙句、行為中に無理やり付けるという形になってしまった。今冷静になって考えてみれば相当馬鹿なことをしたと思う。何やってんだ俺。
「ま、初兎のそういうとこ俺は好きやで。ありがとうな」
心の中で俺が後悔していると悠くんが優しい目でこちらを見ながら励ましの言葉をかけてくれた。俺は、悠くんのそういう所にきっと惚れたんだと思う。最近、本心をありのままに発してくれる悠くんには惚れてばっかりだ。
どんなに俺が振り向かせようとしてもきっと悠くんはこっちを見てくれない。そもそも俺は、悠くんの隣に居るには相応しくない、そんな事分かっていたが人間というのは欲が深く、どうしても悠くんを僕だけのものにしたかった。もちろん、暴力という名の強行手段を選べば簡単に悠くんは手に入れるだろう。しかし、俺の理性がそれは許さなかった。だからこそ俺はチョーカーをプレゼントした。
きっと悠くんはこれを人前では絶対付けないだろう。しかし、恩を大切にする悠くんならきっと大切に保管するはずだ。俺は悠くんの深層心理にさえ存在すればいい。表舞台じゃなくていいんだ、勝てる訳ない勝負は好きでは無い俺は早々に諦めるしかないんだ。
何となく少しだけ察しているメンバーと悠くんの個々の関係性。それを知らないフリをして今日もまた2人で寝るとしよう。絶対コチラを振り向いてくれない悠くんを今だけは独り占めできる大好きな時間。俺は難しい事は忘れたフリをして悠くんと抱き合いながら眠りに着いた。
「悠くん、大好きだよ。」
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