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第1章
世界は突然、混ざり合う
第1話:帰宅部は最強の部活である(異世界に行くまでは)
野山 健(のやま けん)は、自分がごく普通の高校生だと信じて疑っていなかった。
朝は寝坊しかけて全力疾走。
学校では授業中にノートを取るフリをして落書き。
部活?――帰宅部。
放課後はコンビニで肉まんを買って、河川敷でスマホをいじる。
「……うん。今日も平和」
独り言が多いのは、友達が少ないからではない。
自分ツッコミが癖になっているだけだ。たぶん。
健は明るい。
異様なほどに前向きで、感情の起伏も激しい。
テストで赤点を取っても「次がある!」と笑い、
転んで膝を擦りむいても「血、意外と赤いな!」と観察するタイプ。
そんな健の人生が変わったのは、
肉まんを落とした瞬間だった。
「――あ」
河川敷の土手。
手から滑り落ちた肉まんが、スローモーションみたいに宙を舞う。
(あ、これ……拾うべき? いやでも土――)
次の瞬間、世界が割れた。
視界がガラスのように砕け、
音が遅れて追いつき、
重力が「どこだっけ?」と迷子になる。
「ちょ、待っ――」
最後に健が見たのは、
肉まんが光に溶けていく光景だった。
(……食べ物を粗末にした罰?)
そんな冗談を考えられたあたり、
この時点で彼はまだ余裕があった。
第2話:異世界テンプレ? いや、現実(たぶん)
目を覚ますと、そこは――
「森だな」
まず出た感想が、それだった。
木。
木。
めっちゃ木。
スマホは圏外。
制服は無事。
肉まんは――無い。
「……異世界?」
口に出してみる。
すると不思議と、しっくりきた。
(トラックに轢かれてないのは珍しいな)
健は立ち上がり、服についた葉っぱを払う。
恐怖はある。
だがそれ以上に、好奇心が勝っていた。
「まあ、なんとかなるだろ」
この判断の軽さが、後に世界を震撼させることになる。
歩き出して数分。
森の奥から、金属がぶつかる音と怒鳴り声が聞こえた。
「――伏せろッ!」
「くそっ、数が多すぎる!」
健は物陰から覗く。
そこには――
剣と魔法の世界が、堂々と存在していた。
人間らしき男女が三人。
対するは、灰色の皮膚をした獣人型の魔物――ゴブリン。
「うわ、本物だ……」
健は呆然と呟く。
次の瞬間。
ゴブリンの一体が、
仲間の剣士を吹き飛ばした。
「危な――!」
健の体が、勝手に動いた。
理由は分からない。
考える前に、走っていた。
「ちょっと待てぇぇぇ!」
完全に空気を読まない乱入である。
第3話:能力覚醒――調合融合
(ブレンド)
健の声にゴブリンが振り向く。
「ギィ?」
(ヤバい。完全に敵視された)
健は地面に転がっていた石を掴む。
同時に、なぜか頭の中に文字が浮かんだ。
――《調合融合(ブレンド) 使用可能》
「……は?」
次の瞬間、
石と――恐怖心が、溶け合った。
世界が歪む。
健の手の中で、石が形を変え、
鈍い光を帯びた刃へと変質する。
「え、ちょ、待って、待って!? 俺、何した!?」
理解が追いつかないまま、
体だけが異様に軽い。
健は走る。
剣を振る。
――当たった。
ゴブリンの武器が、真っ二つに融合崩壊する。
「……嘘だろ」
周囲が静まり返る。
残ったゴブリンたちが、
怯えたように後退した。
健は息を切らしながら叫ぶ。
「えっと! 俺も混乱してるから! 逃げるなら今のうちだぞ!」
ゴブリンたちは一瞬考え、
全力で逃げていった。
沈黙。
剣士の少女が、健を見る。
「……あなた、何者?」
健は頭を掻いた。
「日本の高校生です」
「にほん……?」
「えーっと……異世界人? かな」
この瞬間、
野山 健は異世界において、正体不明の存在となった。
第4話:ヒロイン登場!(第一印象:強そう)
少女は赤髪で、鋭い目つきをしていた。
鎧は傷だらけだが、立ち姿は堂々としている。
「私はリュシア。冒険者だ」
隣には、魔法使い風の青年と、回復役の少女。
「助けてくれてありがとう。命の恩人だ」
「いや、勢いです。ほんとに」
健は正直に言った。
リュシアは健をじっと見つめ、
ふっと笑う。
「変な男だな。でも――嫌いじゃない」
(お、ヒロインっぽい)
健の中で、謎のメタ認識が働いた。
「ところで」
リュシアが真剣な顔になる。
「さっきの力……魔法でも剣技でもない。あれは何だ?」
健は一瞬考え、
正直に言わない方がいいと本能が告げた。
「……よく分かんない能力、です」
嘘ではない。
「そうか」
リュシアは深く追及しなかった。
(この人、信頼できる)
健はそう感じた。
――だが同時に、
この世界には、もっと強い敵がいることを、彼はまだ知らない。
第5話:予兆――混ざりすぎた力
…その夜。
焚き火のそばで、健は空を見上げていた。
星が、異様に近い。
《調合融合(ブレンド)》
物、人、概念、事象――
この世の全てを融合・解除し、自身の力に変える能力。
(……これ、ヤバくない?)
健は笑う。
「まあ、明るく行こう」
だが遠くで、
誰かがこちらを見ている気配があった。
混ざり合う世界。
混ざり合う運命。
野山 健の物語は、
ここから本格的に――
融合し始める。
第1章・了
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