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強く叫んだ雪乃の言葉に、誰しも言葉を無くし彼女を見つめた。
立花も、思ってもみなかった返答に驚き立ち尽くす。
「確かに最初は仕事として近付いた、けどあなたの事を知るうちにどんどん放っておけなくなってる自分に気付いた!仕事とか関係なく、あなたのことを救いたいって!」
目を逸らしたくなるほどの真っ直ぐな視線に、立花は目を細める。
「あなたは、私に似てる…強がって気丈に振る舞って、弱い自分を見せたくなくて嘘をついて…助けられても何か裏があるんじゃないかって疑ってしまう」
私もそうだった。
でもあの時助けてくれたあの人は、純粋な気持ちで手を差し伸べてくれた。
そういう人間もいることを、教えてくれた。
あの時私は、嬉しかったんだ。
「でもあなたは、私に見せてくれたから!自分の弱いところを、教えてくれたから!その勇気を、私は無駄にはしたくない!
お願い、そっちに行かないで!私の元に来て!」
雪乃は手を広げる。
立花は困った顔で俯いた。
そんな視界に、フワフワと泡のバルーンが映り込む。
手を伸ばして触れると、泡は消えてしまう。
「…私の居場所はもう無い。あなたの元へは行けない」
立花の口から放たれたのは、弱々しい言葉。
「今更、どうしろと言うの。
もう誰も私のことを信じてなんてくれない。クラスメイトだって、歌わない私のことを必要とはしていない。
私はもう、この泡のように消えていくしかない…」
色のない瞳に、赤色が映り込む。
「じゃあ!…じゃあ何で私には話してくれたの?」
雪乃は切なそうに顔を歪める。
「…じゃあ何で、ずっとあのオルゴールを持ってるの?」
立花の部屋にあったオルゴール。
中に入っていたのは、母親との写真。
「何で、白いピアノには埃一つなかったの?」
誰も使っていない筈なのに。
あの白いピアノは磨かれた状態だった。
「…何で、アシマリに歌を教えたの?」
アシマリが歌った歌は、あのオルゴールの曲だった。
そしてそれを教えていたのは、紛れもなく立花。
「本当は音楽が、まだ好きなんでしょう?」
ポロポロと、涙が溢れる。
堰き止めていた感情が溢れ出ていくように、立花の頬を伝って落ちていく。
「…そんなの」
掠れた声が溢れた。
音楽室から聞こえてくるピアノの音が、耳に入ってくる。
「ーーーそんなの、分かってるわよ」
誰よりも一番、私が分かってる。
離れようとしても離れられないくらい、音楽が好きだって。
母様から貰った大事なオルゴールも。
小さい頃よく練習した、白いピアノも。
全部愛してやまない、私の宝物。
「…大丈夫、怖いかもしれないけど、私も一緒に乗り越えるから。だから私のことも知って欲しい。一緒にいよう」
もう一度、雪乃は手を広げる。
「私は知ってるよ。クールだって言われてるけど意外とはしゃいだり、凄い努力家だけど、恋バナが好きだったり、綺麗なだけじゃなくて、笑った顔が可愛かったり…ただの普通の女の子だってこと」
涙が止まらない。
私も楽しかったから。
一緒にご飯食べたり、髪を乾かしたり、おしゃべりしたり…。
「何も変わらなくていい。変えたくないなら、そのままでいい。怖かったら逃げてもいい。
味方ならここにいる。確実に1人、ここにいるから」
暗い世界に、光が差す。
1人で歩いてきた道に、赤い花が咲く。
本当は、感じていたのかもしれない。
あなたが初めて話しかけてきてくれた時から。
『一緒にお昼食べませんか?』
もしかしたらこの子は、私の味方になってくれるかもって。
「誰も信じてくれなくったって、私が信じてるから。だから、私に証明して!
あなたは犯人じゃないって!!」
曇りのない綺麗な青い瞳が、優しく微笑んだ。
立花はぐっと手に力を入れ、叫んだ。
「ーーー私は、犯人なんかじゃない!!ポケモンを傷付けてなんかない!!事件があった時、私は図書室で自習してた!!噴水には行ってない!!
………私は!!!犯人じゃない!!!」
空に響く、涙まじりの声。
雪乃は笑って手を広げた。
立花は窓枠に足をかけ、飛び降りた。
真っ直ぐ彼女の元へ。
落ちた体を大きな泡のバルーンが受け止め、ゆっくりと地面に降ろした。
「…ありがとう、話してくれて」
抱きしめた体の体温を感じながら、雪乃は微笑んだ。
鼻声で「ありがとう」とだけ、籠った声がそう言った。