Dランクになったばかりのユウたち四人。ギルドの掲示板には、低ランクの討伐依頼に混ざって、一際目立つ紙が貼られていた。
【依頼内容】
森林街道に出没する大型魔物《ブラッドウルフ》の群れを討伐せよ。
推奨ランク:D以上のパーティ
受付嬢が説明する。
「最近、交易路で被害が出ています。Dランク試験を突破した皆さんなら、挑む資格はあります」
リオがニヤリと笑う。
「いいじゃねぇか! 昇格祝いに一発でかい依頼だ!」
ミラは腕を組み、不安げに首を傾げる。
「ブラッドウルフ……普通の狼じゃないのよね?」
レオンが頷く。
「ああ。血に飢えた魔物で、群れで連携する。初見で相手にするには危険すぎる……」
ユウは静かに剣を握った。
「だが、避けては成長しない」
こうして、彼らは初めての“本格的な強敵戦”に挑むこととなった。
夕暮れ時の街道。
風に乗って、鉄のような血の匂いが漂ってくる。
「……出るぞ」
ユウの耳に、低い唸り声が届いた。
木々の影から、赤い目を光らせた狼が一斉に姿を現す。
五匹のブラッドウルフ。
その中でも一際大きな個体――群れのリーダー格が前に出た。
リオが盾を構え、叫ぶ。
「来るぞ! 俺が前を受け止める!」
ミラが素早く短剣を抜き、背後に回り込む。
「分かった、隙を突くわ!」
レオンは震える声で詠唱を始める。
「《フレイム・アロー》!」
火の矢が放たれ、一匹のブラッドウルフの肩に命中。だが、獣は痛みに逆上し、さらに激しく襲いかかってきた。
リオが正面からリーダーを受け止める。
「ぐっ……重ぇっ!」
衝撃で地面がめり込み、リオの足が震える。
その横でミラが横合いから斬りつけるが、狼は素早く後退して回避した。
「チッ、こいつら……普通の獣より賢い!」
三匹の狼が同時に飛びかかり、ユウに襲いかかる。
ユウは剣を抜き放ち、冷静に構えた。
「……遅い」
一歩踏み込み、回転するように斬り払う。
剣閃が三匹をまとめて薙ぎ払い、地面に血飛沫が散った。
その鋭さに、仲間たちが一瞬息を呑む。
ミラが思わず声を上げる。
「ちょっと……あんた、本当に新人?!」
リオも苦笑いしながら吠える。
「ははっ、こりゃ頼もしすぎるだろ!」
だが、ブラッドウルフのリーダーは他の個体よりも格が違った。
一撃でリオを弾き飛ばし、ミラの攻撃すら読んで避ける。
レオンが焦りながら叫ぶ。
「だめだ、あいつは僕らの手に負えない……!」
その瞬間、ユウが一歩前に出た。
「下がれ。こいつは俺がやる」
狼のリーダーが低く唸り、地面を蹴って襲いかかってくる。
その速度は矢のようだった。
ユウは深く息を吸い込み、剣を水平に構える。
「――《一閃》」
次の瞬間、閃光のような一撃が走った。
リーダーの巨体が空中で真っ二つに裂かれ、地面に崩れ落ちる。
血煙が舞う中、ユウは一歩も動かずに剣を収めた。
沈黙の後、リオが大声を上げた。
「す、すげぇぇぇぇぇ!! 今の見たか!?」
ミラも目を丸くする。
「……本当に、ただの新人じゃなかったのね」
レオンは呆然としながらも微笑んだ。
「これが……“剣王”の力の片鱗……?」
ユウは剣を拭い、淡々と答えた。
「まだ足りない。だが……これでまた一歩、進める」
ギルドに戻り、依頼の達成を報告すると、職員たちまで驚愕していた。
「ブラッドウルフの群れを……新人パーティが……?」
リオが誇らしげに胸を張る。
「当たり前だろ、俺たちはこれから強くなるんだからよ!」
その横で、ミラとレオンはユウをちらりと見る。
彼の背中は、すでに“ただの冒険者”のそれではなかった。
ユウ自身も気づいている。
(剣を極める旅……この道の果てに、本当に寿命で死ねるのか……)
静かに、だが確実に。
ユウの「剣王への道」が始まりつつあった。
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