アリアの指南を受けて半年。
『そろそろ、実践を経験してもらうわ』
その言葉にアレンとカイルは、子供のようにはしゃいだ。
「やった!やっとクエストに行けるぜ!活躍したら……ぐふふっ」
「ははは、変な顔」
「誰が変な顔だ!」
喜んでいる2人を他所にアリアが口を開いた。
「まぁ、遠征に行く前に、実戦での実力を確認したいからね」
そう言った後、アリアは無敵な笑みを浮かべる。
「ただし、条件があるわ。」
「勿体ぶらずに早く!」
「それは…次のランク試験でCランクになってもらうわ!」
冒険者ギルドでは、上から『S、A、B、C、D、E、F』まである。アレンとカイルはまだEランクだ。
「…え?はぁ⁉︎、Cランク⁉︎」
「えっと師匠、熟練の冒険者でも、2年以上かかるんですよ……?」
しかも、試験は2ヶ月後だ。
「…はぁ、あなた達そんな弱気でどうするの?それに、誰に指南受けたと思ってるの?」
そう、彼女はこの国でたった4人しかいないSランク冒険者なのだ。
「あなた達は強くなったわ。今じゃあ、Cランクでも十分通用する程にね。」
その言葉は、過小評価ではなくただ事実だけを言っている。
「それに、討伐系のクエストをこなせば、すぐに上がるわ!」
(なんか、急に大雑把になったような…。まぁいっか)
息を飲みカイルと目を合わせる。
「……師匠がそこまで言うなら、なぁカイル」
「あ…あぁ!きっとなんとかなるさ!」
少し不安げな2人を他所に、事は進んでいくのであった。
次の日。
早速アリアが持ってきた仕事、 それは【商人を襲うボアを討伐】だった。
「まずは、このクエストをやってもらうわ!」
以前、カイルが大怪我をさせられた魔獣。そして2人にとっては、因縁の相手でもある。
「カイル…」
「よっしゃ!今度こそ無傷で勝ってみせるぜ!なっ、アレン!」
「ああ」
心配するアレンの心を知ってか知らずか、満面の笑みで返すカイル。
街道沿い、緩やかに広がる草原。
轟音とともに、一体のボアが宙を舞った。
「ーーはあっ!」
アレンの剣が閃き、地に落ちる前に正確に喉を貫く。獣が呻く間もなく、その巨体が地面に叩きつけられた。
「カイル、左!」
「分かってる!」
後方に控えるカイルが火球を放つ。燃え上がる炎が、突進してきたボアの視界を遮る。怯んだ隙を逃さず、アレンが瞬時に距離を詰めた。
「はっ!」
剣閃が閃き、ボアの頸動脈を正確に断つ。血しぶきが舞い、獣が崩れ落ちる。
(……動きが遅い、師匠との特訓のおかげだな!)
アリアの厳しい修行を思い出す。死に物狂いで鍛えられた日々。だが、その成果は確かにここにある。
「最後の一体だ!」
カイルが放つ炎がボアの足を止める。そこへアレンが一気に踏み込み、刃を閃かせた。
「……終わったか」
5体のボア。まったく危なげなく撃破。
「へへっ、俺たち、もうCランクでもいいんじゃね?」
「油断大敵!周囲の警戒を怠ったらない。……まぁ、でも今回は余裕だったのは確かだね」
アレンとカイルは拳を軽く合わせ、満足げに頷く。初めての実戦は、あまりに順調だった。
「さ、帰ろ――」
その瞬間だった。
白銀の影が視界を横切る。
「……っ!?」
アレンが反射的に身を引いた直後、地面を跳ねるように駆ける獣が目に映る。
(……【ムーンラビット】?)
真っ白な毛並み。異常な跳躍力。知識としては知っている魔物だった。
「なんだよ、急に飛び出して――」
直後。
「……待て、あれ、何かに追われてないか?」
カイルの言葉に、アレンの背筋が粟立つ。
視線を向けた先。
陽光を浴び、まるで黄金に輝くかのような巨大な蛇。
「――【サンヴァイパー】!!」
魔物のランク表でCランク指定される魔物。
「嘘だろ、なんでこんなとこに……!」
ラビットを追っていたのか、それとも単に狩りの時間だったのか。
陽光を反射する金色の鱗が眩しい。その身体は滑らかにうねり、地面を這うどころか、時折勢いよく跳ねながら間合いを詰めてくる。
(速い……!)
アレンがそう思った瞬間――
ゴウッ!
空気が歪んだ。
「っ、熱っ!」
アレンは反射的に後退する。周囲の温度が一瞬で上昇した。まるで、突然炎の中に放り込まれたかのような熱気。
「熱波を飛ばす能力か……!」
「やべぇな、普通の蛇の動きじゃねぇ!」
カイルが焦りの声を漏らす。
サンヴァイパーは低く構え、次の標的を定めた。
次の瞬間。
「っ! 来るぞ!!」
地面を蹴る音が響いたかと思うと、金色の影が弾丸のように跳ぶ。
速い。
まるで矢のような直線軌道。
「っ!!」
アレンの剣が閃く。しかし――
ガキィン!!
「クソッ!」
刃は弾かれ、衝撃が腕を襲う。
(硬すぎる……!)
サンヴァイパーの黄金の鱗は、普通の剣撃を受け付けない。
「――アレン!!」
視界の端で、蛇のしなやかな体が大きく跳ねた。
(まずい――!)
足場を崩され、バランスを失ったその一瞬。
サンヴァイパーの喉奥に、赤熱するエネルギーが凝縮されるのが見えた。
(熱波が来る――!!)
避けられないーー
そう確信した時。
カイルの叫びと共に、炎が奔る。
「――炎よ、しなる刃となれ! 【ブレイズ・ウィップ!!】」
焔がうねり、まるで生き物のようにアレンの腰へ巻き付いた。
「――っ!?」
次の瞬間、強い力がアレンの体を引く。
「ぐっ――!」
身体が宙を舞い、直後に地を転がる。
その刹那、サンヴァイパーの口から灼熱の衝撃波が放たれた。
ゴオォォッ!!!
爆炎が周囲を焼き尽くし、先ほどまでアレンがいた場所は焦土と化す。
「……っ、助かった……」
息を整えながら、アレンはカイルを見た。
「ありがとうナイス判断だ、カイル!」
「ったりめぇだろ!」
カイルはウィップを巻き戻し、炎を散らすように手を払う。
アレンは剣を握り直し、静かにサンヴァイパーを睨む。
(今ので確信した……こいつの攻撃をまともに食らえば、一撃で終わる)
だが――
「やるぞ、アレン」
「ああ」
恐怖よりも、燃え上がる闘志があった。
サンヴァイパーは一瞬警戒の色をみせるも、その眼光は鋭さを増し攻撃へと転ずる。
(こいつ……今の魔法、学習したな)
生半可な攻撃では通用しない。
「……面白い。試してみるか」
不敵に笑い、サンヴァイパーを睨む。
「カイル、僕に合わせてくれ」
「おう!」
次の瞬間。
アレンが駆けた――!
「了解!援護は任せろ!」
カイルの両手が紅く輝く。
「――炎よ、閃光となれ!【フレイム・バレット!!】」
火球が連続で撃ち出され、サンヴァイパーへ向かう。しかし――
「チッ、弾かれたか!」
即座にトグロを巻いたサンヴァイパー。火球は黄金の鱗に阻まれた。
(やはり通常の魔法じゃダメか……!)
アレンは一瞬で距離を詰め、サンヴァイパーの死角――喉元を狙う。
シュバッ!
しかし、サンヴァイパーはその動きを見切っていた。
ブンッ!!
鋭い尻尾の一撃が襲いかかる。
(この速度……!)
避けられないと判断したアレンは、咄嗟に剣を前に突き出す。
ガキィン!!
衝撃で後ろへ弾かれながらも、すぐに体勢を立て直す。
(攻撃を正面から受けていてはジリ貧だ……なら!)
アレンの瞳が鋭く光る。
「カイル、もう一回頼む!」
「分かってる!――【ブレイズ・ウィップ!!】」
再びカイルの炎の鞭がアレンの腕に巻き付く。
「いくぞ――!」
アレンは鞭の遠心力を利用し、さらに加速。
通常の踏み込みの数倍の速度で、サンヴァイパーの側面へ回り込む。
「これで……決める!!」
シュバッ!!
サンヴァイパーが頭を振りかぶり、アレンを捕らえようとする。しかし――
(遅い!)
アレンの体がすでに蛇の攻撃範囲を超えていた。
「喰らえ――!!」
ズバァッ!!
閃光のような一閃が、サンヴァイパーの喉元を貫いた。
ブシュゥゥ……!
黄金の鱗が裂け、鮮血が宙を舞う。
サンヴァイパーは痙攣するようにのたうち――
ドサァァ……!!
ついに、動かなくなった。
「……はぁ、はぁ……やったか?」
アレンは息を整えながら剣を構えたまま様子を伺う。
「……倒したな」
カイルが肩を落とし、安堵の息を吐く。
静寂が訪れる。
しばしの間、ただ吹き抜ける風の音だけが響いていた。
「……やったな、カイル!」
「おう!」
2人は拳をぶつけ合い、勝利を噛み締める。
サンヴァイパー討伐――完了。
だが、2人はまだ知らなかった。
その戦いを、遠くから静かに見つめる影があったことを――。
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