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「好きな子が出来たんだ。悪いけど俺と別れて欲しい」


二十八歳の誕生日――。

玉木たまき天莉あまりは、夜景が綺麗だと有名な、如何にもプロポーズにぴったりといった高級ハイエンドホテルのエントランスで、新卒入社以来五年間付き合ってきた同期の彼氏・横野よこの博視ひろしにフラれた。


何もこんな素敵なホテルに呼び出して、そんなことを言わなくても。

ロビーにすら入らせてもらえないまま。

豪奢ごうしゃなホテルの敷地の片隅で信じられない言葉を投げかけられた天莉は、呆然と立ち尽くした。


「どう、いう……こと?」


数十秒後。情けないぐらいに声で震えながらそう問いかけたら「そのまんまの意味だよ」と肩をすくめられて。


それと同時。


「ごめんねぇ、博視ひろしぃ。紗英さえ、遅くなっちゃったぁ」


天莉を押し退けるようにして、会社の四つ下の後輩――江根見えねみ紗英が、天莉と博視の間に割り込んできた。


「あれぇ〜、先輩せんぱぁい? お疲れ様ですぅ」


紗英の、間延びした甘ったれた口調が傷ついた心を逆撫でする。


「こんな所でお会いするなんてですねぇ? そんなドレスアップして……先輩ここの最上階でですかぁ? そう言えば先輩今日、お誕生日でしたもんねぇー?」


付け加えなくても良かろうに、わざわざ「二十八歳の」と言い添えた瞬間、紗英の口角がいやらしく持ち上がったのを天莉は見逃さなかった。

そもそも博視と天莉が付き合っていたことは知っていたはずなのに、白々しくそんなことを言って小首を傾げる紗英に、天莉はギュッと唇を噛み締める。


「……博視、ひょっとして貴方の新しい恋人って」


「ん? もちろん紗英さえちゃんだよ。彼女ね、実は俺の子供を身籠みごもってくれてるんだ」


サラリと衝撃の事実を告げられた天莉は、ふんわりとお腹を押さえないデザインのAラインワンピースに身を包んだ後輩を見て言葉を失った。


「もぉ、博視ぃ。まだ会社には内緒なのにぃ。先輩に言ったらバレちゃうじゃぁ〜ん?」


「いいんだよ。週明けには報告するつもりだったし。つわりで仕事、色々しんどいだろ?」


ギュゥッとこれみよがしに博視に抱きつく紗英を見て、 耐えきれなくなった天莉はくるりときびすを返した。


(本当につわりなら、料理なんて食べられるわけないじゃん。博視、その子に騙されてるんじゃない?)


そう思ったけれど、負け犬の遠吠えみたいになりそうだったから、言わずにおいた。


そもそも博視が天莉に別れを切り出したのはつい今し方なのだ。


(それなのに子供が出来たって……俺はお前と彼女に二股かけて浮気してましたって公言してることに気付かないの?)


――バカなふたり。


すぐ隣の男性こいびとが、長いこと別の女性と付き合っていたことを知りながら、後から割り込んだ自分をこそ本命にしてくれると信じて疑わない狡猾こうかつな女の子に、骨のずいまでしゃぶり尽くされたらいい。


考えてみたら、天莉と付き合っていた時、博視はこんな高級なホテルでの食事になんて、誘ってくれたことはなかった。


いつも安価なファミレスか、天莉が材料を買って帰って自分の家で作ってご馳走していたなと思って。


何だかそんなことを思い出したら、にわかに色々とバカらしくなってしまった。



「あれぇ? 玉木先輩せんぱぁい? お食事はなさらないんですかぁ?」


そんな、どこかみたいな声が背後から投げかけられたけれど、天莉はもう振り返ったりしなかった。

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