テラーノベル
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セレスティア魔法学園から遠く離れたジェイド町は、南国の陽気な雰囲気に満ちていた。
ヤシの木が並ぶ大通りには色鮮やかな花々が咲き乱れ、
青い空の下でプールの水面がキラキラと輝く。
ジェイド町は、グランドランドの南部に位置する観光地で、まるで夏が一年中続くような活気にあふれている。
きっとそれも、国民の魔法によるものからだろう。
レクト、ヴェル、ミラの3人は、
学園の喧騒を離れ、この街にやってきた。
初夏の陽射しが肌を焼き、潮風が髪を揺らす中、3人は水着に着替えてプールサイドに立っていた。
「うわ、すごいな…!」
レクトが目を輝かせ、プールを見渡す。
巨大なウォータースライダーがそびえ、子供たちの笑い声や水しぶきの音が響き合う。
彼はバナナの魔法の杖を星光寮に置いてきた。
フルーツ魔法の練習で疲れた心を癒すには、この明るい場所がぴったりだった。
だが、胸の奥には重い影が潜む。
ゼンの殺人事件、サンダリオス家からの追放、第15話での戦い、第16話での母エリザの電話――「パイオニアはお前を認められない」。
フラッシュバックしてゆく記憶で、陽気な雰囲気の中で彼の心を締め付ける。
「ね、レクト君、泳ごうよ!」
ミラ・クロウリーが笑顔で近づき、肩に軽く手を置く。
14歳の超エリートスパイである彼女の水着は黒で、鋼の魔法を象徴するブレスレットが陽光を反射する。
彼女の指先の冷たい感触に、レクトの頬が赤くなる。
「う、うん…!」
12歳の少年にとって、異性のこんな接近はまだ慣れない。
心臓がドキンと跳ね、目を泳がせる。
(ミラちゃん、なんかいつもこうなんだよな…)
ヴェルは少し離れた場所で、
青い水着に身を包み、浮き輪を抱えて立っていた。
彼女の「震度2」の魔法はプールでは役に立たない。
ミラがレクトに笑いかけ、肩を触るのを見るたび、胸にチクリと痛みが走る。
(また…ミラちゃんと…)
彼女のツインテールが風に揺れ、表情はどこか曇っている。
(私、レクトの友達なのに…、なんでこんな気持ちになるの…?)
彼女の手が、浮き輪をぎゅっと握る。
プールでは、3人で水をかけて遊び、笑い声が響き合った。
ミラが水をかけるたび、彼女の指がレクトの腕に軽く触れる。
「ほら、逃げないでよ、レクト君!」
彼女の笑顔は明るいが、紫色の瞳にはどこか計算高さが潜む。
レクトは水をかえしながら、「み、ミラちゃん、ずるいよ!」
と笑うが、顔は少し赤い。
ヴェルは浮き輪で漂いながら、二人を悔しげに見つめる。
彼女も水をかけて参加しようとするが、ミラの動きに圧倒され、なかなか輪に入れない。
(私も…もっと一緒に遊びたいのに………!)
昼下がり、3人はプールサイドのカフェで休憩した。
ヤシの葉の影がテーブルに揺れ、トロピカルジュースの氷がカランと音を立てる。
ジェイド町の街並みは、カフェの窓から見える色とりどりの屋台や観光客で賑わっている。
レクトはマンゴージュースを飲みながら、町の活気に目を奪われる。
「こんなとこ、初めて来た…学園と全然違うな。」
ミラがジュースのストローを咥え、微笑む。
「ね、レクト君、グランドランドのこと、どれくらい知ってる?」
彼女の紫色の瞳が、探るように彼を見つめる。
彼女の鋼のブレスレットがカチャリと鳴り、
テーブルに置かれたスプーンが一瞬だけ形を変える――小さな星の形に。
レクトが驚く。
「え、ミラちゃん、今の…!」
「ふふ、ちょっとした遊びだよ。」
ミラが笑い、スプーンを元に戻す。
彼女の鋼の魔法は、金属を自在に操る。
ヴェルがムッとして言う。
「ミラちゃん、魔法をそんな風に使うの、ルール違反じゃない?」
だが、ミラは気にせず続ける。
「で、グランドランド。
この星には3つの大陸があるの。
グランドランド、メロウランド、ストームランド。どの大陸も、ずっと対立してる。
戦争は起きてないけど、緊張状態なの。」
レクトが首をかしげる。
「うん、歴史の授業でちょっと習ったけど…そんなにやばいの?」
ミラが頷く。
「うん。グランドランドの外には出ちゃいけないんだよ。
海水浴も、大陸の端までならいいけど、遠くの海はダメ。
大陸同士の監視が厳しくて、いつ衝突してもおかしくない。」
ヴェルがジュースを飲みながら口を挟む。
「そんなの知ってるよ。フロウナ先生が言ってたもん。」
だが、ミラの次の言葉に、レクトの目が見開く。
「レクト君のお父さん、
パイオニアさんって、グランドランドの守護者の長でしょ?
国の最前線に立ってる人。もし戦争が起きたら、彼が戦うんだよ。
そして…その役割、たぶんレクト君が継ぐんだよね。」
レクトの手が止まる。
(父さん…)
第16話でのエリザの電話が蘇る。
(父さんが俺を捨てた理由…それか…)
「じゃあ…俺がフルーツ魔法を使ってるから、父さんは…?」
ミラが静かに続ける。
「パイオニアさんにとって、国の守護者は完璧でなきゃいけないんだと思う。
フルーツ魔法は…その基準に合わない、って感じかな。」
彼女の声は優しいが、どこか鋭い。
そしてそのまま話を続ける。
「このままフルーツ魔法を使い続けるのは悪手だと思うよ。
体育祭の件は私も知ってるけど、やっぱりサンダリオス家の印象悪くするだけだし。」
ヴェルがテーブルを叩く。
「ミラちゃん流石にひどいよ!
……な、何も知らないくせにさ、、!!
レクトの魔法、めっちゃすごいんだから! 」
彼女の「震度2」が、テーブルの下で地面を微かに揺らす。
「ふふ、ヴェルちゃん、熱くなるね。」
ミラが笑い、レクトの腕を軽くつかむ。
「私は、レクト君の魔法、面白いなって思ってるよ。
侮辱するつもりは、無かったんだ……。」
彼女の指が、鋼のブレスレットをカチャリと鳴らし、金属の光がレクトの目を引く。
彼の顔がほんのり赤くなる。
「う、うん…ありがとう…」
「……っ」
困惑気味にヴェルはミラを睨んだ。
夜、3人はサマーシェイドの宿泊施設に泊まった。
ヤシの葉が揺れる木造のコテージは、南国の雰囲気を漂わせ、窓の外では波の音が静かに響く。
だが、部屋割りで問題が起きた。
ミラがフロントで微笑みながら言う。
「私とレクト君、相部屋でいいよね? こっちのコテージ、眺めがいいんだって。」
ヴェルが慌てて反対する。
「え、ダメ! なんで二人きりなの!?
私も一緒がいい!」
彼女の声が上ずり、浮き輪を握る手が震える。
ミラが首をかしげ、柔らかく笑う。
「私たち先にコテージ予約してたからさ。
あとから割り込んできたヴェルちゃんは、
一緒になんて居ちゃダメでしょ」
彼女の言葉は滑らかで、ヴェルは言い返せない。
「う…でも…!」
ミラの巧妙な言葉に、ヴェルは唇を噛む。
結局、ヴェルは別のコテージに、
ミラとレクトは同じ部屋に泊まることになった。
深夜、
コテージの部屋は静寂に包まれていた。
木の壁に月光が差し込み、ヤシの葉の影が揺れる。
レクトはベッドの端に座り、落ち着かない。
12歳の少年にとって、こんな状況は緊張の極みだ。
ミラは部屋の隅の小さなテーブルに座り、
鋼の魔法で作ったナイフで果実をカットしている。
禁断の果実――
永遠の果樹園からパイオニアが入手した、魔法を根本から変える呪われた果実だ。
果肉が月光に妖しく輝き、鋼のフォークが鋭く光る。
「ね、レクト君、ちょっと食べてみない?」
ミラが果実の一切れを差し出す。
虹色の果肉が、まるで魔法の結晶のように輝く。
「え……これなに?」
「すっごく甘いんだから。」
彼女が近づき、果実をレクトの唇に近づける。
彼女の指が、さりげなく彼の手首に触れる。
レクトの心臓がドキドキと高鳴る。
「い、いやまって……!これなんなの!?」
レクトは抵抗しようとする
「あっ……!!!!」
レクトの口に指を入れて無理やり開こうとするミラ
「大丈夫
ただのデザートだよ。
もう楽になれるんだよ?」
レクトは禁断の果実を、食べた。
(なんか…変な感じ…頭が、ぼんやりする…)
「ね?美味しいでしょ」
ミラの声は甘く、鋼のブレスレットがカチャリと鳴る。
彼女の任務は、禁断の果実をレクトに食べさせ、フルーツ魔法を別の力に変えること。
彼女の紫色の瞳が、レクトを捕らえる。
(もし抵抗したら、私の金属魔法で拘束しようと思っていたけど、その必要もなくなった。)
次話 8月16日更新!
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