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18 - Episode.18 険悪!熟れてゆくブドウ嫉妬心

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2025年08月08日

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6月の週末、

セレスティア魔法学園から遠く離れたジェイド町は、南国の陽気な雰囲気に満ちていた。

ヤシの木が並ぶ大通りには色鮮やかな花々が咲き乱れ、

青い空の下でプールの水面がキラキラと輝く。

ジェイド町は、グランドランドの南部に位置する観光地で、まるで夏が一年中続くような活気にあふれている。

きっとそれも、国民の魔法によるものからだろう。


レクト、ヴェル、ミラの3人は、

学園の喧騒を離れ、この街にやってきた。

初夏の陽射しが肌を焼き、潮風が髪を揺らす中、3人は水着に着替えてプールサイドに立っていた。


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Episode.18

険悪!熟れてゆくブドウ嫉妬心


「うわ、すごいな…!」

レクトが目を輝かせ、プールを見渡す。

巨大なウォータースライダーがそびえ、子供たちの笑い声や水しぶきの音が響き合う。

彼はバナナの魔法の杖を星光寮に置いてきた。

フルーツ魔法の練習で疲れた心を癒すには、この明るい場所がぴったりだった。

だが、胸の奥には重い影が潜む。

ゼンの殺人事件、サンダリオス家からの追放、第15話での戦い、第16話での母エリザの電話――「パイオニアはお前を認められない」。

フラッシュバックしてゆく記憶で、陽気な雰囲気の中で彼の心を締め付ける。


「ね、レクト君、泳ごうよ!」

ミラ・クロウリーが笑顔で近づき、肩に軽く手を置く。

14歳の超エリートスパイである彼女の水着は黒で、鋼の魔法を象徴するブレスレットが陽光を反射する。

彼女の指先の冷たい感触に、レクトの頬が赤くなる。

「う、うん…!」

12歳の少年にとって、異性のこんな接近はまだ慣れない。

心臓がドキンと跳ね、目を泳がせる。


(ミラちゃん、なんかいつもこうなんだよな…)


ヴェルは少し離れた場所で、

青い水着に身を包み、浮き輪を抱えて立っていた。

彼女の「震度2」の魔法はプールでは役に立たない。

ミラがレクトに笑いかけ、肩を触るのを見るたび、胸にチクリと痛みが走る。

(また…ミラちゃんと…)

彼女のツインテールが風に揺れ、表情はどこか曇っている。

(私、レクトの友達なのに…、なんでこんな気持ちになるの…?)

彼女の手が、浮き輪をぎゅっと握る。


プールでは、3人で水をかけて遊び、笑い声が響き合った。

ミラが水をかけるたび、彼女の指がレクトの腕に軽く触れる。

「ほら、逃げないでよ、レクト君!」

彼女の笑顔は明るいが、紫色の瞳にはどこか計算高さが潜む。

レクトは水をかえしながら、「み、ミラちゃん、ずるいよ!」

と笑うが、顔は少し赤い。

ヴェルは浮き輪で漂いながら、二人を悔しげに見つめる。

彼女も水をかけて参加しようとするが、ミラの動きに圧倒され、なかなか輪に入れない。

(私も…もっと一緒に遊びたいのに………!)





昼下がり、3人はプールサイドのカフェで休憩した。

ヤシの葉の影がテーブルに揺れ、トロピカルジュースの氷がカランと音を立てる。

ジェイド町の街並みは、カフェの窓から見える色とりどりの屋台や観光客で賑わっている。

レクトはマンゴージュースを飲みながら、町の活気に目を奪われる。


「こんなとこ、初めて来た…学園と全然違うな。」


ミラがジュースのストローを咥え、微笑む。

「ね、レクト君、グランドランドのこと、どれくらい知ってる?」

彼女の紫色の瞳が、探るように彼を見つめる。

彼女の鋼のブレスレットがカチャリと鳴り、

テーブルに置かれたスプーンが一瞬だけ形を変える――小さな星の形に。

レクトが驚く。

「え、ミラちゃん、今の…!」


「ふふ、ちょっとした遊びだよ。」

ミラが笑い、スプーンを元に戻す。

彼女の鋼の魔法は、金属を自在に操る。

ヴェルがムッとして言う。

「ミラちゃん、魔法をそんな風に使うの、ルール違反じゃない?」

だが、ミラは気にせず続ける。


「で、グランドランド。

この星には3つの大陸があるの。

グランドランド、メロウランド、ストームランド。どの大陸も、ずっと対立してる。

戦争は起きてないけど、緊張状態なの。」


レクトが首をかしげる。


「うん、歴史の授業でちょっと習ったけど…そんなにやばいの?」

ミラが頷く。

「うん。グランドランドの外には出ちゃいけないんだよ。

海水浴も、大陸の端までならいいけど、遠くの海はダメ。

大陸同士の監視が厳しくて、いつ衝突してもおかしくない。」


ヴェルがジュースを飲みながら口を挟む。

「そんなの知ってるよ。フロウナ先生が言ってたもん。」

だが、ミラの次の言葉に、レクトの目が見開く。

「レクト君のお父さん、

パイオニアさんって、グランドランドの守護者の長でしょ?

国の最前線に立ってる人。もし戦争が起きたら、彼が戦うんだよ。

そして…その役割、たぶんレクト君が継ぐんだよね。」


レクトの手が止まる。


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(父さん…)

第16話でのエリザの電話が蘇る。

(父さんが俺を捨てた理由…それか…)


「じゃあ…俺がフルーツ魔法を使ってるから、父さんは…?」


ミラが静かに続ける。

「パイオニアさんにとって、国の守護者は完璧でなきゃいけないんだと思う。

フルーツ魔法は…その基準に合わない、って感じかな。」

彼女の声は優しいが、どこか鋭い。

そしてそのまま話を続ける。

「このままフルーツ魔法を使い続けるのは悪手だと思うよ。

体育祭の件は私も知ってるけど、やっぱりサンダリオス家の印象悪くするだけだし。」


画像

ヴェルがテーブルを叩く。

「ミラちゃん流石にひどいよ!

……な、何も知らないくせにさ、、!!

レクトの魔法、めっちゃすごいんだから! 」


彼女の「震度2」が、テーブルの下で地面を微かに揺らす。


「ふふ、ヴェルちゃん、熱くなるね。」

ミラが笑い、レクトの腕を軽くつかむ。


「私は、レクト君の魔法、面白いなって思ってるよ。

侮辱するつもりは、無かったんだ……。」


彼女の指が、鋼のブレスレットをカチャリと鳴らし、金属の光がレクトの目を引く。

彼の顔がほんのり赤くなる。

「う、うん…ありがとう…」


「……っ」

困惑気味にヴェルはミラを睨んだ。





夜、3人はサマーシェイドの宿泊施設に泊まった。

ヤシの葉が揺れる木造のコテージは、南国の雰囲気を漂わせ、窓の外では波の音が静かに響く。

だが、部屋割りで問題が起きた。

ミラがフロントで微笑みながら言う。

「私とレクト君、相部屋でいいよね? こっちのコテージ、眺めがいいんだって。」


ヴェルが慌てて反対する。

「え、ダメ! なんで二人きりなの!?

私も一緒がいい!」

彼女の声が上ずり、浮き輪を握る手が震える。

ミラが首をかしげ、柔らかく笑う。

「私たち先にコテージ予約してたからさ。

あとから割り込んできたヴェルちゃんは、

一緒になんて居ちゃダメでしょ」


彼女の言葉は滑らかで、ヴェルは言い返せない。

「う…でも…!」

ミラの巧妙な言葉に、ヴェルは唇を噛む。

結局、ヴェルは別のコテージに、

ミラとレクトは同じ部屋に泊まることになった。



深夜、

コテージの部屋は静寂に包まれていた。

木の壁に月光が差し込み、ヤシの葉の影が揺れる。

レクトはベッドの端に座り、落ち着かない。

12歳の少年にとって、こんな状況は緊張の極みだ。

ミラは部屋の隅の小さなテーブルに座り、

鋼の魔法で作ったナイフで果実をカットしている。


禁断の果実――

永遠の果樹園からパイオニアが入手した、魔法を根本から変える呪われた果実だ。

果肉が月光に妖しく輝き、鋼のフォークが鋭く光る。


「ね、レクト君、ちょっと食べてみない?」

ミラが果実の一切れを差し出す。

虹色の果肉が、まるで魔法の結晶のように輝く。

「え……これなに?」

「すっごく甘いんだから。」

彼女が近づき、果実をレクトの唇に近づける。

彼女の指が、さりげなく彼の手首に触れる。

レクトの心臓がドキドキと高鳴る。

「い、いやまって……!これなんなの!?」


レクトは抵抗しようとする

がぎゅっ

「あっ……!!!!」

レクトの口に指を入れて無理やり開こうとするミラ



「大丈夫



ただのデザートだよ。



もう楽になれるんだよ?」








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ザクッ



レクトは禁断の果実を、食べた。



(なんか…変な感じ…頭が、ぼんやりする…)


「ね?美味しいでしょ」

ミラの声は甘く、鋼のブレスレットがカチャリと鳴る。

彼女の任務は、禁断の果実をレクトに食べさせ、フルーツ魔法を別の力に変えること。

彼女の紫色の瞳が、レクトを捕らえる。


(もし抵抗したら、私の金属魔法で拘束しようと思っていたけど、その必要もなくなった。)



任務完了

レクト君のフルーツ魔法はもう奪った。



次話 8月16日更新!

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