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眠りの中の微かな意識に、小鳥の歌声が響いた。窓から差す日差しが「起きろ」と言っている。

心地よい自然の目覚ましで体を起こし目を擦る。部屋の景色が見えたその瞬間、一夜 皐月いちや さつきは目を見開いた。

「………え?」

そう、己は知らない部屋で眠っていたのだ。

知らない壁、床、ドア、窓、棚にずらっと並ぶ中、特に目立つ禍々しい表紙の本、そしてシンプルかつ明らかに足りない家具。全て何かとても古いように感じたが、妙に綺麗に手入れされている。

「…いやいやいやいや。ここどこ…!?私夢遊病か何かだったっけ…それくらいしか考えられない…。それとも深夜テンションで知らない人の家凸った??ゲストルーム的なところ??いやいやでも女子中学生がそんなことするの危険すぎるってわかってるもん私しないよね…。」

わからないことばかりの中、とりあえず何か行動を起こそうとベットから立ち上がり、壁際の本棚へ向かった。本棚の中はキッチリと整頓されており、厚さも、表紙の色も、大きさも、全て揃って入っている。

「これくらいしか気になるもの、ないしなぁ…。」

そう手に取ったのは、目立っていた禍々しい表紙の本。濃い紫色でラメが入っているように光っている。本の題は汚れていてよく見えない。

本棚から取り出すと、ずっしりとした重みと共に、薄汚い埃が舞った。何年も読まれていなかったのだろうか。

咳き込みながらも表紙を開くと、キシキシと音が鳴る。1ページ目はもうボロボロになっており、文字も読めるかわからないほどだ。

憶測を頼りに読もうとすると、英語でもないような、未知の言語がつづられていることに気づく。

「えっ…と……え、よ、読めない……じゃん…」

何も調べられない、もうダメだと思っていると、先ほどの未知の言語が、スッと頭の中に入っていくのを感じた。何故かは全くわからないが、数秒前まで諦めていた言葉を脳が当たり前のように受け入れていたのだ。

「……」

とにかく、書かれていたのはこのようなこと。



この世には、「表面世界ヒョウメンセカイ」と「裏面世界リメンセカイ」という、二つの世界が存在する。

そんな二つの世界の秩序を保つものが「カク」というものだ。

核は裏面世界にあり、六つのパーツで形成されているのだが、それが破壊されると時空の歪みが生まれ、両世界で自然災害が多発するだけでなく

二つの世界の狭間がなくなり、本来別世界の存在をも知らない表面世界の住民が、裏面世界に迷い込んでしまうということが起こってしまうのだ。

核を復元することは可能だが、膨大な力が必要になるだろう。

また、核が破壊されると、ソレを元に戻す優秀な人材として、表面世界から「勇者ゲスト」という名目で、好奇心の強い若者が選ばれ、裏面世界に運ばれる。

………



「異世界」、そして「勇者」。いかにもRPGのような説明文に動揺していると、今朝見た夢の内容を鮮明に思い出した。


夢の内容は、暗くて何も見えない部屋の中1人佇んでおり、気がつくと、暗い部屋の壁にドットの白い文字で「名前を入力してください」と書かれていた…というもの。壁は大きなキーボードのようになっており、本当に名前が入力できるようになっていた。

名前を入力し終わってEnterすると、「良い旅を。」と書かれた文字が見えて…。

そこからの記憶はない。

そう、その記憶を甦らせたことにより、今己がRPGの世界にトリップしたのだとようやく自覚できた。

もっとも、三次元から二次元に入るなど、全くもって不可能なことだと思い込んでいたが。

なお、その時は夢の中だったからか、困惑しながらも普段自分がしないような行動をしていた。「ゲームの主人公の名前に本名を使っていた」のだ。今思うと、それが分岐点だったのかもしれない。

「RPG…の、世界……かぁ…」

先も見えず不安が募るばかりだが、とりあえずは今少し読んだ禍々しい表紙の本を腕に抱え、部屋を出ることにした。


ドアノブを握り回す。ガチャリという開いた音が聞こえたかと思うと、活気あふれる日差しと自然の香り、心地よい程度の微風そよかぜがドアの隙間から覗いた。

思い切ってドアを開けると、そこには、恐ろしいほどの木々の景色が広がっており、目覚ましをしてくれた小鳥たちが歓迎していた。もし花粉症だったら地獄だったかもしれない。

先程までいた部屋はアレたった一つだけだったようで、振り返ると、森の中の小さな小屋のように見えた。

この先の景色はどうなっているのだろうか。腕に抱えていた本を小屋に立て掛け、小屋の近くにあった大木に登る。全身を使って頂上の枝を掴んだ時、ヒュー、と風が吹いた。

少し泥のついた体を枝の上に乗せて、顔を上げると

「…綺麗。」

童話でしか見たことのないような美しい森の景色、素晴らしい自然のおくりものが目に見えた。

空に手をかざし感じる特別感、優越感。きっと、誰の目にも輝いて見えるであろうと思う。

「見たいものも見れたし、この先の道も少し見えたし、満足満足〜♪」


大木から降りて、ふと小屋の方に目線を戻すと、小さく半透明な茶色の箱が置かれていた。

開けてみようと前かがみになったその瞬間、

「やあ!」

「うわああ!?!?」

その半透明な箱がびっくり箱のように突然開き、無邪気かつ陽気な声で笑った。RPGの世界というのは、何が起こるかわからないものだ。

「へへっ、引っかかってや〜んの。」

「ほんと心臓に悪いよ〜…。」

驚いて苦笑いしていたところ、箱は名を名乗る。

「俺は【セーブボックス】。君達【勇者】の手助けをするボックスだ!」

セーブというのは、RPGの中で最も重要といっても過言ではないほどの役割を持っており、そのセーブ・ロードの能力は、いわば時間操作のようなもの。モンスターに殺された時など、復活することができるのだ。冒険の中でもかなり重宝されるものである。

「勇者の手助け…セーブボックス…」

なかなか慣れない異世界の常識に頭を悩ませオウム返ししていたところ、箱は「セーブする?」と聞いた。

「せっかくだし、しておこうかな」

そう言うと、ピロロン♪という可愛らしい音が鳴り、箱の中からなんともサイバー風の光る文字で「データ1にセーブしました」と出てきた。箱の口の上に表示されている文字は、触ることができないようで、触ろうとしてもただただ空気を撫でている感覚がした。どう表示されているのかもよくわからない。

広がる困惑と好奇心に駆られていると、いつのまにか光る文字は消え、箱はパタリと閉じてしまった。

「無機質も喋る時代かぁ…」

もう一度開かないかと、覗き込んだり手を振ったり声をかけたりしてみたが、セーブボックスが喋ることはもうなかった。

諦めて立て掛けていた本を回収し、己がこの世界へとやってきた記念の小屋へさよならを告げた。


小屋から離れて何分、何十分が経っただろうか。

整備された土の道に歩みを進めるうちに、木々は減ってゆき、視界はどんどんとひらけていった。

何か地図などの場所がわかるものはないかと探索を続けていると、緑に囲まれた土道にひとつ、大きな看板が見えた。

「あの看板に何か書いてないかな…?」

看板に近づいて書かれている文字を読む。赤や白など、様々な色が使われた文章であった。相変わらず未知の言語だったが、そんなことを考える間もなく、なぜか看板から声が聞こえてきた。



この道を通ってください!

あっちへ行くと、三途の川へ着きますからね…。

もしあっちへ行く場合は『気をつけて』。

まあ、まずはこっちへ行きましょう!


by 看板



「…この世界の無機質は全部喋るの?」

脳内にハテナを浮かべながらも、背筋が凍るような内容だったため、辺りを見渡す。

すると、看板のある近くに、赤い矢印が引かれていることに気づいた。【看板】が引いた線だろうか。おそらく、あの矢印を辿れば、怪我なく無事に目的地まで行くことができるのだろう。

色々と考えはあったが、皐月がたどり着いた結論はただ一つ。

「行ってみたい…………………。」

行くなと言われたら行きたくなってしまう、行けと言われたら行きたくなくなってしまう、それが人間の宿命サダメというものなのだ。

看板の言うことに逆らい、赤い矢印から外れた、木々が生い茂っている道へと向かう。

小生ショウセイは黒…いや、深淵アビスへと導かれし闇の勇者…………。この力に抗えるものなどいな

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」


「お前!!!ほんと…っほんっ…ほ、…っマジで馬鹿だろ!?!?」

「俺、いろんな勇者と冒険してきたけど、ここまで馬鹿なやつはお前が初めてだぞ!?」

「初めて記念日ですね。」

「うるせーーっ!!!」


爆発に巻き込まれて死んでしまったようだった。セーブボックスにこっぴどく叱られ、来た道をもう一度歩む。

「暑いなぁ…結構…」

誰かの警告というのはきちんと聞くものだと学習し、看板の言っていた「こっち」、矢印の書かれた方向へ進むと、また先ほどとは違うような道へと入っていった。遠くには、まさに中世ファンタジー、RPGの舞台のような美しい街並みが見える。

木々の中、大きな川があり、地面には木の板がぎっしりと敷き詰められて橋のようになっている。川に落ちないようにと柵もついていた。

よく見ると、柵の一部に開閉できるところがある。それを開けて川を覗くと、さらさらと流れる水の中に、太陽に照らされて光る何かが目に映った。

「なんだろう…これ。」

箱のようなシルエット。セーブボックスが溺れたのかとも思ったが、その光の正体はまさに宝箱であった。開けてみたいという思いが強かったのだが、あいにく運動神経のいい皐月でも、泳げないという弱点があったため、川の中でも深い深いところにあった宝箱に手が届くことはなかった。

そして、気を取り直して遠くの街へと行こうとしたとき、突然視界がくらんで目の前がチカチカと点滅した。先ほどから日差しが強く、かなり暑いと思っていたところだった。熱中症だろう。

「…やば、これ……倒れ…」

そう言葉を漏らした時には、もう遅い。体がふらついて、カラフルに点滅していた世界は、真っ黒にうつり変わった。

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