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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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ああ、一体、戦況はどうなっているのでしょうか。


庭で勝者の到着を待つ夏菜は、あちこちから、甲高い音や悲鳴が聞こえる山を見上げた。


……そのうち、警察に通報されそうだ。


ゲリラとか潜んでると思われそうだな。

まあ、おじい様が警察には手を回してるだろうけど。


上層部には身内もいるし。


そう思ったとき、

「おっ、今のところ、お前の夫に立候補してる男は全員生き残ってるぞ」

という声がした。


振り返ると、縁側に座る耕史郎が菜々子の膝にあるノートパソコンを見ている。


えっ? 全員っ?

と驚きながら、上から覗き込むと、山の中の映像が映し出されていた。


「こらっ、耕史郎っ。

勝手にハッキングするなっ」

と頼久が振り返り叱る。


山の監視カメラと監視用ドローンの映像をハッキングして見ているようだった。


「いや、ハッキングしてんの、小松菜なんだけど」


「す、すみません……」

と菜々子が苦笑いして言う。


「取材に必要だと先生がおっしゃるので」


いや、編集さん、取材目的ならハッキングまでしてくださるんですか。


「いい編集さんですねえ、お兄様」


「たまに便りが途絶えるのが困ったところなんだが」

と言う耕史郎に菜々子は画面を見たまま、


「本が売れ続けてれば途絶えませんよ」

とシビアなことを言っていた。


そのうち、バラバラとやられた男たちが戻ってきた。


足は速いが、戦いには弱いらしい駅伝はやられていたが、忍者とフェンシングはまだ帰っていなかった。


庭につどいはじめた彼らに向かい、耕史郎が中継をはじめる。


「地獄の社長と地獄の秘書は結構近くで戦っているが、まだ接触はなし」


「お兄様。

なんですか、その『地獄の』は」


「なにか呼び名が必要かと思ってな」


「なんで両方同じなんですか。

作家としてその語彙不足はどうかと思いますが」

と菜々子にケチをつけられながらも、特にネーミングを変えるつもりはないようで、耕史郎はそのまま中継を続けた。


「地獄のVシネマは傷だらけになりながらも奮闘中。


地獄のうさぎは軽妙な会話で敵をけむに巻きながら、なんとなく先頭にいる」


なんだ、地獄のうさぎって……と思いながら、夏菜もモニターを見つめていた。




その頃、地獄のうさぎは茂みの陰に隠れていた。


なんとか山の中腹を超えたけど、そろそろ奴らが来るに違いない、と思いながら。


いつでも簡単にやれる自分など、猛者もさたちの眼中にはないらしく、誰も本気で追いかけては来ないので、此処まで来られたが。


有生と指月を出し抜いて山を抜けられるとは思っていなかった。


うーん。

何処かに潜んでいて、ぽこりと背後からやるか。


隙をついて駆け抜け、夏菜さんのところまで一気に行くか、と策略を巡らせながら、膝を抱えていたとき、いきなり後ろから声がした。


「ほう。

こんなところにうさぎが……」


作り物のはずの耳がピンと立ちそうなくらいビクついて振り返る。


しゃがんでいるせいで、余計巨大に見える有生が背後に立っていた。


底冷えのする目でこちらを見下ろすその手には斧があった。


森に落ちていたのを拾ったのだろうか。


「さすがはうさぎ。

小賢こざかしく駆け抜けて此処まで来たようだが。


所詮は、うさぎだからな。


……きっと寝るんだろうな、レースの最中に。


余裕かまして寝るんだろうな。

後ろからカメが追いついていることにも気づかずに。


……寝るんだろうな」


寝るんだろうな……、と言い聞かせるように繰り返し呟く有生の手許で斧が光っていた。


そこを凝視したまま固まっていた雪丸だったが、目を閉じて倒れる。


「ほう!

やはり、うさぎだなっ。


夏菜を狙う男はみな生かしてはおかないんだが。


まあ……、うさぎだからいいか」


そう呟きながら、有生は斧を振り振り、去っていったようだった。


雪丸は倒れたまま、ぎゅっと目を閉じ、膝を抱えて、ぷるぷると震えていた。


……夜叉がいるっ!

この山には夜叉がいるっ!


しかも、きっと、もう一体いるっ!




地獄のうさぎはリタイアした。




その頃、地獄のVシネマは傷だらけになりながら戦っていた。


地獄のうさぎと違って小細工が苦手なので、常に真っ向勝負だ。


兄弟子たちと戦って勝てるわけもないのだが、みな銀次の頑張りに道を開けていった。


感動的な光景だ。


夏菜が見ていたら、ちょっと心が動いていたかもしれないが。


その頃、夏菜はリタイアの白旗を振りながら、駆け戻ってきた地獄のうさぎに飛びつかれ、モニターを見ずに、うさぎの話を聞いていた。




もう駄目だ。

もう限界だ。


足も痛くて前に進めないし。


でも……


お嬢が待っていないとしても、せめて一歩でも前へ!


お嬢を好きだった自分の気持ちに決着をつけるためにもっ、と果敢に頑張る銀次の前にそれは現れた。


木立の陰から顔を出す。


いや、森のかげから顔を出すのはカッコウくらいにしておいて欲しかったのだが、それは夜叉のような気配をまとった男だった。


気持ちが悪いくらい整ったその顔は無表情で、手には刀があった。


真剣オッケー!?

聞いてませんけどっ?

と縮み上がる銀次の視線を追った指月が言う。


「……これは模造刀だ」


どっちにしろ、貴方が持っちゃ駄目なヤツな感じがしますよっ!?


突然、辻斬りに会った町人のように銀次は怯える。


いつもなら、すぐに尻尾を巻いて逃げていたことだろう。


だが、今日の銀次は此処で死んでもいいくらいに覚悟を決めていた。


指月の方を見たまま、少し腰を落とす。

下に落ちていた太めの枝を拾い、構えた。


「ほう。

さすがは藤原道場の男。


いい構えだな。


一歩もひかぬその目つき、気に入った」


この夜叉のような男にあんまり気にいられたくないっ、と内心思っていたが、口も開けぬ緊張状態だった。


力の差は歴然。


少しでも気を抜いたら、即座にやられそうだ。


「銀次と言ったな。

よくぞ此処までたどり着いた」


お前は魔王か、というようなことを指月は言い出す。


「だがもう、此処で眠るがいい」


やはりる気だっ!

と銀次は怯える。


血反吐ちへどを吐きながら此処までたどり着いたこと、藤原が知ったら感激し。


きっとお前の亡骸を手厚くとむらってくれることだろう」


頭の中では何故か着物を着た夏菜が山にある自分の墓の前に野菊を備え、手を合わせていた。


可憐な夏菜が自分を思い、涙してくれる妄想に、思わず、そのまま弔われたくなったとき、


「銀次よ。

……安らかに眠れ」

と声がした。


後ろから。


気づいたときにはもう魔王の姿は消えており、いきなり、首の後ろを手刀で強く叩かれていた。


気を失いながら銀次は思う。


……えっ? 手刀っ?

刀、使ってないじゃないですかっ、と。



地獄のVシネマは倒れた。




雪丸が酒を飲んで待つ兄弟子たちと合流したので、耕史郎の解説を聞きながら、夏菜はモニターを見ていた。


「夏菜さん。

呑みましょうよ~」

と地獄のうさぎが酒を持ってくる。


夏菜は倒れている銀次の回収に誰か行かせた方が、と思いながら、無意識のうちにそれを呑んでいた。


だが、その瞬間、銀次が目を開け、起き上がる。




地獄のVシネマ、銀次は魔王が去ってすぐ、目を覚ました。


ずっと倒れていては可哀想だと魔王が加減してくれていたのかもしれない。


どちらにせよ、他の候補者に負けたので、此処で終わりだ。


銀次が溜息をついて、戦線離脱のしるしの白い布を真紫のジャージのポケットから取り出そうとしたとき、それは来た。


斧を手にした夜叉だ。


だからこいつらは、武器、オッケーなんですかーっ!?

と地獄の銀次は心の中で絶叫していた。


有生も指月も武器を手にしているだけで使ってはいないのだが。


彼らが得物えものを持っているという事実だけで最早、心臓をえぐる凶器となる。


「ほう。

此処までたどり着いたのか。


さすがだな、銀次」

と斧を手に打ち付けながら地獄の社長が近づいてくる。


いや、だから、なんで同じような登場の仕方するんですか、あんたらはっ、と後退あとずさりかけたとき、有生が言ってきた。


「銀次よ。

よくぞ此処までたどり着いた」


魔王が二体になったかと思った……。


だから何故、二人とも同じセリフをっ、と思った瞬間、


「だが、もうボロボロじゃないか。

ゆっくり眠るといい……」

と有生が言ってきた。


やさしげなことをいっているのだが。


その手にはやはり、斧を打ち付けているし、この寒風吹きすさぶ山で眠れということ自体、やさしくない。


「さあ、銀次。

安らかに眠れ」


いや、俺もうリタイアしてるんですけど、という言葉が出ない。


有生の魔眼まがんに囚われて、視線が外せない。


「安らかに眠れ」


だから、もうリタイア……


「眠れ」


銀次は安らかに眠った。


落ち葉降り積もる中に、どうっ、と崩れ落ちる。


口だけで倒そうとするこの男が怖い……と思いながら。


だが、そのとき、眠っている顔の側に斧が来た気配があった。


触れてなくとも感じるその刃先の冷たさと金属臭い匂い。


しっ、死んでますっ、死んでますっ、とクマの前で死んで見せる人間のようにピクリとも動かないでいると、ふわりとお腹が温かくなった。


有生は斧を置き、寒いのに自らの上着を脱いでかけてくれたようだった。


「早く戻れよ」

と言って去っていく。


兄貴っ、一生ついていきますっ、と思いながら、銀次はまだ死んだフリをしていた。


考えてみれば、口だけで倒そうとして攻撃してこないの、やさしいな。


お嬢を任せてもいいだろうかと思いながら。




「……恐ろしい男だな。

一度も物理的な攻撃を使わずに、山を抜けようとしているぞ」

とモニターで有生を見ながら、耕史郎が言う。


「だが、その分、指月に出遅れたようだが」


えっ? と言いながら、夏菜は地獄のうさぎにまたそそがれていた酒を飲み干し、画面を見つめる。


だが、山の中にもう指月の姿はなかった。


「ほら、あそこに」

と耕史郎が指さしたのは、庭先だった。


刀を手にした指月が立っていた。




今夜、あなたに復讐します

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