【kj】
『明日1番いいカメラ持ってきて』
照兄から一言だけ送られてきたメッセージ。
特に深く考えずに了承したけど何撮るんやろ。
明日はメンバー全員での仕事の日。
みんなで写真撮るんかなってちょっとわくわくしてその日は眠りについた。
翌朝、楽屋に着くと照兄とさっくん以外のメンバーは揃っていて、いつも通りの賑やかさに今日も楽しい1日になりそうな予感がして胸が躍る。
俺もみんなに混ざって楽しく喋っていると楽屋の扉が開いた。
「おはよ」
現れたのはにっこにこの照兄と、照兄におんぶされた静かなさっくん。
その光景に一瞬の沈黙が流れた後、はっと我に返って二人に駆け寄る。
「どしたん!?さっくんどっか悪いん!?」
ふるふると頭を横に振るさっくん。
なんで喋らへんの?
頭にはてなマークを浮かべていると後ろから阿部ちゃんに肩を叩かれた。
「今日はなんの遊び?」
呆れたような、でもどこか楽しそうな声で阿部ちゃんが聞く。
振り返って他のメンバーを見ると、にこにこ微笑んでいる人、呆れて頭を抱えている人、ぽかんと口を開けている人など反応は様々。
「今日ね、佐久間コアラなの」
は?にこにこして何言うてんのこの人。
「で、俺が親コアラ」
おんぶされたさっくんがふふん、とどや顔で見下ろしてくる。
「昨日俺がゲームで負けちゃったから、今日はずっと佐久間抱えてなきゃいけないの」
よく分からん、よく分からんけど!
「えーなにそれめっちゃかわええ!」
俺が声を上げると、他のメンバーもぞろぞろと周りに集まってきた。
「佐久間くんかわいい~♡コアラになっちゃったの?」
「照の罰ゲームなのに佐久間のがノリノリじゃん」
「これじゃどっちの罰ゲームなのか分からないね」
「やばいまじウケる」
「…さすがに仕事中は降ろすんだよね?」
「俺も佐久間くんおんぶしたい」
めめは何言ってんのかちょっと分かんないけど、ほのぼのした2人が可愛くて和やかな空気が流れる。
「佐久間くん、俺もコアラ…」
めめが手を伸ばすと、照兄が一歩後退る。
「親コアラにしか懐かないから触っちゃだめ」
なんやそれ。
満更でもなさそうなさっくんを見てめめがしゅんとしてもうた。
そんなめめは一旦無視して気になっていたことを聞いてみる。
「さっくんコアラだから喋らへんの?」
ニカッと笑って頷くさっくん。
ちゃんとなりきってんねや、えらいなあ。
「照兄は喋ってええん?」
「俺は大人のコアラだからいーの」
謎理論すぎるけど照兄がええならええか。
「でね、康二、そういうことだから今日俺達の写真いっぱい撮って」
そうゆうことね。
思ってたのとは違ったけど、これはこれで楽しそう。
「そんなら任せて!いっぱい撮ったるよ!」
元気に答えると、お兄ちゃん4人が哀れむような目で俺を見てきた。
肩をぽんと叩いて、ご愁傷様、頑張れよ、後で写真送ってねとかなんとか声をかけて元いた場所に戻っていった。
えっ、俺そんなやばいこと言ったん?
しかし、流石のお兄ちゃんたち。
俺はこの一言を後から後悔することになる。
おんぶの写真をいろんな角度から何枚か撮る。
さすがなもんで、さっくんは甘えた顔をしてみたり寝たふりをしてみたりとカメラマン心をくすぐってくる。
それに対して照兄はずっとにこにこで、時々さっくんに頭を寄せるくらいであんま動きがない。
嬉しいんは分かるけど、罰ゲーム受けてる人の顔ちゃう。
顔溶けすぎて目なくなってしまうよ。
可愛い~って盛り上げてくれてたラウと、まだ親コアラを諦めていなかっためめも、しばらくして飽きてみんなの所に行ってしまった。
いいのが何枚か撮れたところで、後ろのみんなが気になって俺も混ざろうと撮影会の終了を申し出た。
「ええの撮れたで!後で写真送るな!」
「あっ、待って康二!佐久間アニメ見るみたいだから次ソファ行くって」
え、行けば?
俺の了解いらんよね?
すたすたとソファに向かい、さっくんを膝に乗せて座る照兄。
さっくんが鞄からごそごそとタブレットを探しているのを立ち尽くして見ていると、照兄に手招きされた。
「これも撮って」
嘘やん。
そんなんよくある光景やん、いやそれもどうかと思うけど。
でも嬉しそうな照兄を見てると断ることもできなくて、後ろ髪を引かれながら2人の元へ向かう。
「これ撮ったら1回休憩な!俺もみんなと遊びたい!」
一応念を押しておく。
「うんごめんね康二、ありがと」
うっ…ちゃんとお礼言えてえらいなあ!
これだから憎めないんよ…!
静かにアニメを見ているさっくんと、それをにこにこと見守っている照兄の写真を何枚か撮ってやっと終了の了承を得た。
ありがとー、と意外とあっさり解放されてほっとしながらみんなのもとへ。
「おつかれー」
「いい写真撮れた?」
すぐに輪に入れてくれるのが嬉しくて、撮れたで!と元気に返事をする。
撮った写真を見せるとさすがだねって褒めてくれて、俺も調子に乗っちゃって話が弾む。
みんなでわいわい盛り上がっていると、急に阿部ちゃんとだてが俺の両隣に立った。
「康二、今振り返ったら駄目だよ」
「甘やかすのもほどほどにしないと」
耳元で囁かれて、反射的に振り向いてしまった。
「こーじっ!」
待ってましたと言わんばかりに照兄の元気な声に呼ばれる。
いや、早ない?
振り向いた先には、アニメを見るのをやめてこっちに混ざりたそうにわくわくしているさっくんと、相変わらず蕩けそうな顔の照兄。
さっきまで膝の上にちょこんと座っていたのに、今はこちらの様子を見やすいように横から抱きついている。
なるほどね、ポーズ変わったから撮ってほしいのね。
阿部ちゃんとだては苦笑いしてるけど、振り向くまで声をかけるのを我慢していた照兄がいじらしくてこんなん断れんよ。
「あーもう!可愛いな!これが最後やで!」
2人の元へ駆けて行って本日3度目の撮影会。
最後とは言ったものの、これで終わるわけないと流石の俺でも分かる。
今日は2人の専属カメラマンになる覚悟を決める。
それから準備中も2人はべったりで、照兄がさっくんのヘアセットをしたり着替えさせたり、スタッフさんも戸惑いながらも和やかな空気に包まれていた。
みんな呆れながらもなんだかんだ微笑ましく見守っていて、結局甘いのは俺だけじゃないやんとシャッターを切りながら笑みがこぼれた。
撮影中は流石にコアラから人間に戻ってはいたものの、照兄がさりげなくさっくんの隣をずっとキープしていた。
いつも通り時間は押したけど、楽しく順調に収録を終えみんなで談笑しながら楽屋に戻る。
照兄はまだスタッフさんと話していて、さっきのデレデレの顔からは想像できないくらい真剣な表情にかっこいいなと改めて思う。
「めーめっ!」
そんなことを考えていると、俺の隣にいためめにさっくんが飛びついてきた。
「うわ、どうしたの佐久間くん」
「今日ずっと照にくっついてたからなんか落ち着かない」
そう言ってにゃはっと笑うあざといコアラ。
「じゃあ今だけ俺が親コアラね」
めめも満更でもなさそうにさっくんをおんぶしてぐるぐる回って子供コアラをあやす。
その光景が可愛くて俺も笑いながらカメラを構える。
カメラに夢中になっていて、その外で他のメンバーが頭を抱えていることには気付けなかった。
その更に後ろでこっちを見てる照兄にも、もちろん気付くはずもなかった。
照兄を残して楽屋に戻って、帰る準備をしながら今日の収録について楽しく語り合う。
さっくんもコアラになっていたことを忘れて、普通にお喋りしてる。
入りの時静かにしてた分を取り戻すかのようにみんなに絡みまくっているけど、何故か誰も相手にしようとしない。
みんな足早に着替えを済ませようとして、構ってもらえないさっくんが寂しそう。
さっきデレデレになっていためめでさえ、急いでるからごめんねって…なんでなん?
可哀想になってきて俺からさっくんに絡みに行くと、ぱぁっと花が咲いたように笑ってくっついてきた。
「こぉじぃ…!みんな冷たくない!?」
「よしよしひどいなあ~さっくん可哀想に」
ぽんぽんと頭を撫でると、ぐりぐりと額を擦り付けてくるのが可愛くてぎゅーっと抱き締める。
「康二、気持ちは分かるけどそろそろ離れた方が…」
ふっかさんが言いかけた時に楽屋の扉が開いて、むすっとした照兄が帰ってきた。
くっついている俺とさっくんを見て更に唇を尖らせる。
あ、まずったかな…
「佐久間、こっち来て」
「やだー今は康二の時間!」
この人空気読めへんの?わざとなの?
「今日は佐久間俺にしかくっつかないって言った!」
「言ってない!照が親コアラで俺が子供のコアラねって言っただけ!」
「じゃあ俺だけでいいじゃん!」
えっ、何?痴話喧嘩?この2人付き合ってんの?
パニックになっていると、阿部ちゃんが隣に来て肩を叩いて耳元で呟く。
「付き合ってないよ」
心読まれた…さすが阿部ちゃん
「俺らもう帰るから、喧嘩はほどほどにね~」
阿部ちゃんが爽やかに告げると、それに続いてみんなぞろぞろと帰って行く。
「…岩本君ごめんね?」
めめがすれ違い様に照兄に謝って、ここでも喧嘩が始まったらどうしようと心配したけど、めめのおでこをぺちんと軽く叩くだけで済んでここは一安心。
しかし、さっくんが離れないこっちは修羅場。
「さっくん照兄のとこ行ったって」
「やだ!康二がいい!」
さっきまであんな嬉しそうに照兄にべったりだったのにどうしちゃったの?
戸惑っていると照兄が近付いてきて、無理矢理さっくんを剥がして抱え上げた。
「ねえ、なんで怒ってるの?」
「怒ってんのは照じゃん!」
横抱きで抱えられながら喧嘩してるのシュールやな。
これはこれでおもろいなと思ってカメラを向ける。
「だって佐久間が誰にでもくっつくから」
「だからそうやってやきもち妬くくせに肝心なことは言わないのがむかつくんだって!」
・・・・・・ん?
「「…えっ?」」
照兄と一緒に呆気にとられた。
えっ、さっくんそうなん?
照兄のはみんな分かってたけど、まさかのさっくんも?
「…言っていいの?」
「普段あれだけ態度に出しといて今更何言ってんの?」
えっちょっと待って俺ここにおってええの!?
おめでとうやけど、さすがにちょっと気まずいよ?
「康二、証人になってくれる?」
はい逃げれませんでした分かってました。
なんでか俺の方が緊張しちゃって、声も出せずにこくりと頷く。
それを確認してから、照兄がさっくんを降ろして向かい合う。
「佐久間、好き。ずっと好きだった。」
「…うん」
見つめ合って想いを告げる姿がなんかすごく綺麗に思えて、構えたまんまだったカメラのシャッターボタンを押す。
なんとなくこれは残さなきゃって思った。
「俺と付き合って」
照兄らしい飾り気のない真っ直ぐな言葉。
俺もドキドキしながらさっくんの返事を待つ。
「言ってくれるのずっと待ってたよ」
そう言ってニカッと笑ってさっくんが照兄に飛び付く。
シャッターを切る手が止まらない。
すごい場面に立ち会ってしまった。
なんか俺まで嬉しくて泣きそう…と感動しているとだんだん2人の顔が近付いていった。
「えっ…ちょっと待ってさすがにそれはあかん!!」
さすがにメンバー同士のキスシーンは見れんて!
止めようと手を伸ばしたが、その先にいる2人は意味が分からないと言わんばかりのきょとん顔。
「なんで?撮ってよ」
しかも撮るの!?どんな神経してんの!?
「仲間のキスシーンは恥ずかしすぎるて!」
必死で拒否するも、
「ファーストキスってこれが最初で最後なんだよ?」
「せっかくだから残したいよね」
付き合って早々バカップル炸裂な2人に押されて頷いてしまった。
カメラを向けるもめっちゃ気まずい…なんで俺ここにおるんや…
できるだけ薄目でファインダーを覗き込み、2人のキスシーンを納めていく。
気まずいけど多分めちゃくちゃいい写真が撮れた。
「撮れたで!今日はもうこれ以上は勘弁して!」
一刻も早くこの場から立ち去りたくて早口で告げる。
すると悪戯を思いついた子供のような顔をしたさっくんの一言に背筋が凍りかけた。
「今から照の家行くけど康二も来ない?」
怖い怖い怖い…
照兄も名案!みたいな顔せんといて!
「絶対無理!帰る!」
顔を真っ赤にして伝えるとさっくんに思いっきり笑われた。
さっくんは冗談のつもりだったかもしらんけど、照兄はちょっと本気やったで…
2人にもう一度ありがとうと告げられその場を去る。
2人に振り回されたドタバタな1日。
これから家に帰って2人の写真を編集する作業も、枚数が多いからなかなか大変。
それでも幸せそうな2人の顔を思い出すと足取りは軽かった。
後でみんなにも写真送って幸せおすそ分けしたろかな。
気を抜くと緩んでしまう頬を引き締めて、たまにならあのコアラの親子の専属カメラマンをやってあげてもいいかなと弾む気持ちで帰路についた。
--その夜、俺の送った写真でグループメールが阿鼻叫喚と化したのはまた別の話。
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