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ビガードンにとっては自宅に
星縁陣(せえじ)にとっては天使や悪魔が住む家が入っているマンションの前にたどり着いた。
「さてさて。どうぞどうぞ」
と言いながらエントランスに入っていく。ビガードンについていく星縁陣。
鍵でエントランスのガラス製のスライドドアを開ける。ポストを確認するビガードン。
「よし!行きま…行こう!」
まだ敬語が定着しないビガードン。エレベーターホールに行き、エレベーターを待つ。
「なんかこんな感覚ひさしぶりだわ」
「こんな感覚?とは?」
「いや、なんか」
と言って「友達」と言っていいのかどうなのか少し迷って
「友達の家に泊まりに行くこの感じ?」
「あぁ〜なるほど?」
エレベーターが到着し、2人で乗り込んで最上階のボタンを押すビガードン。
扉が閉まり、エレベーターが動き出す。
「青森にいたときは友達の家行ったりしたん…したん?」
敬語になりそうになり無理やりタメ口に切り替えるビガードン。
「うん。オレが住んでたとこは1軒1軒まあまあな距離があったけど
ご近所付き合いは濃密でさ?泊まりに行くってなったら車で送ってくれて
母さんならまだいいんだけど、父さんとかだと、1杯!1杯だけでもって言って
結局夜中まで晩酌して母さんが迎えに来るみたいなことが多かった。…懐かしいなぁ〜」
「やっぱ雪ヤバい?」
「ヤバいヤバい。嫌だったもん、雪かき。
小学生までは遊びながらやってたんだけど、小学生の高学年くらいからかな?
だんだん嫌んなって、サボろうと思って中学生になってお湯撒いたんだけど怒られて」
「あぁ。凍るんだよね」
「よくご存知で」
「悪魔ですから」
と誇らしげなビガードン。エレベーターの動きが止まり、扉が開く。
1フロアに部屋に繋がるドアが1つだけという異様な空間のドアを
なんでもなしに開けるビガードン。それはそう。ビガードンにとってはただの我が家。日常。
しかし星縁陣(せえじ)は毎度圧倒されている。
「どぞー」
「お邪魔します」
さすがに耳がいいのか、リビングのほうからドタドタドタドタとどんどん足音が大きくなってきて
リビングのほうから廊下にひょこっと顔を覗かせたデトルンボ。
「おぉ〜!星縁陣!また来たか!」
デトルンボは嬉しそうに八重歯を覗かせる満面の笑顔で星縁陣を迎えた。
「おぉルボちゃん」
という星縁陣の声を聞いたのか、続々と覗きに来た。リビングへ行くと
「せえちゃんおすすめのホラー映画だぁ〜」
とジェイバーズがダボダボの萌え袖の右腕を挙げる。
すると袖がスルスルッっと落ちて、ジェイバーズの白く細い腕が出てくる。
「今日、星縁陣さ…星縁陣は泊まりです!」
とビガードンが宣言する。
「「おぉ〜」」
謎の歓声があがる。
「一応客室というものがありましてー」
とビガードンが部屋に案内してくれた。
「客室…。スゲェな」
「ま、本来5部屋くらいあるフロアを1部屋にしてるんで
ご覧の通り、リビングが鬼広くて、ベランダもひっろいです。
んで予備の部屋というか、ま、客室も広いってわけです」
「たまに友達が遊びに来て泊まるって感じだね」
とビガードンとデトルンボが部屋を覗きながら説明してくれた。
「なのでー…あ、だから、ここを好きに使っちゃってー!」
めちゃくちゃぎこちないタメ口のビガードン。
「どしたん?タメ口にしたん?」
「そうそう。オレがタメ口にしてって頼んだのよ」
「あ、そうなんだ?私はナチュラルにタメ口だったけど大丈夫?」
「大丈夫大丈夫。タメ口のほうが、…なんていうの?…いい」
「じゃ、変わらずタメ口で」
「お願いします」
「お願いされました」
なんて話して部屋に荷物を置いて、部屋を見回していると
コンコン。と開いている扉をノックするアファノホ。
「失礼ー。星縁陣ー。夜食べたー?」
「ん?あぁ〜…んー…まあ、夜ではないかもだけど、バイト前には食べたよ?」
「お腹空いてる?」
「お。はいはい。食べさせてもらえるんですか?」
「ま、軽いのでよければ」
「おぉ〜。ぜひお願いします」
「お願いされましたー」
と言いながら赤いミドルヘアーを束ねながらリビングへ行くアファノホ。
星縁陣は私服を脱いで、リュックに詰めた部屋着に着替える。
部屋のクロゼットにかかっているハンガーに私服をかける。
まるでホテルのような部屋。ダブルベットが置いてあり、空のクロゼット、バサバサのラグ。
バサバサという言い方は悪く聞こえるかもしれないが
毛足が長く気持ち良いという意味である。押入れを開けると高級そうな布団がしまってある。
部屋が広いので、布団を敷いて、ダブルベットで1人としても、4人は悠々と寝られそうである。
「広いなぁ〜」
と呟きながら部屋を出る。リビングへ行くと美男美女たちがソファーで寛ぎながらテレビを眺めていた。
「せえちゃ〜ん」
ジェイバーズがダボダボの萌え袖をフリフリと振る。星縁陣(せえじ)も手を振り返す。
「星縁陣さん、バイトお疲れ様です」
とミウォールがダイニングテーブルのイスから労ってくれる。
「ありがと」
「稼ぎましたー?」
とゴージェが右手の人差し指と親指で丸を作る、お金マークを掲げる。
「いやらしい」
とキッチンからアファノホがツッコむ。
「バイトだからね。そんな稼げないよ」
と笑いながらダイニングテーブルのイスに座る。しばらくすると
「おーまたせーしましたー」
とアファノホが星縁陣(せえじ)の前にお皿と箸置きとお箸を置く。
「あぁ。ありがと」
お皿を見ると海苔の上に白米が乗っており、その白米の上には綺麗なローストビーフが乗っていた。
「横の和風ソースをお好みの量かけてもらって
こちらが卵黄ソースなので、味変…てほど量はないけど、ま、味変でかけて食べてもらえれば」
「おぉ〜」
まるで高級小料理屋のそれである。
「これ、アファノホが作ったの?」
「そうそう。牛肉の塊買ってきて」
「スゴいね」
「暇だからねー」
というルボにアファノホは笑顔で近づき、音を鳴らさない指パッチンをして人差し指に炎をつける。
「おぉ」
魔法を目の前で見て驚く星縁陣。アファノホは笑顔でルボのつむじに炎をあてた。
「あっつ!」
ルボがビクッっとして前屈みになる。
「それを美味しい美味しいって食べてただろーが」
と笑顔で言いながら指の炎を消す。
「ごめんって。時間あるから美味しいのが作れるんですよねぇ〜。感謝ですぅ〜」
「お。タ○○二等兵」
とビガードンが言う。
「じゃ、いただきます」
「どうぞ〜」
小皿のソースをローストビーフの上にかける。少し赤みが残っている綺麗なローストビーフに
赤黒い、少しとろみがあるソースがねっとりと広がっていく。
箸を持ち、パリパリの海苔が破れないように優しく白米とローストビーフを包む。
口を開け、口の中へと入ってくるときに、すでにローストビーフのローストされた香り
和風ソースの醤油の微かな香り、海苔の芳醇な香りが口にフライングで飛び込んできていた。
パリパリの海苔を歯で貫く。するとより一層、ローストビーフのローストされた香り
和風ソースの醤油の香り、海苔の芳醇な香りが濃くなる。そしてそれらが口の中で混ざり合う。
和風ソースには玉ねぎも使われているらしく
玉ねぎ特有の香り、そして玉ねぎを炒めたのだろう、香ばしい香りも伝わってきた。
食感も、まずはパリパリの海苔、柔らかく、でもしっかりと噛み締められるローストビーフ
そして柔らかく水分のあるお米とバリエーションがすごい。
さらに味覚への刺激もすごかった。ローストビーフの牛肉本来の味
そこに和風ソースの醤油の濃い味、玉ねぎの甘み、微かな辛み、白米の甘み
それらがそれぞれ個性を主張しつつも、混ざり合ったときにはお互いが手を取り合って仲良くしていた。
「…うま…」
美味しすぎて声が出ないかと思ったが、微かに漏れ出ていた。
「あざっす」
「今日ローストビーフ丼だったんだぁ〜」
「美味しかったねぇ〜ジェイバーズたぁ〜ん」
「美味しかったぁ〜」
「ねぇ〜」
ルボがジェイバーズを愛でる。
「ローストビーフ丼にするほど枚数はなかったんで、巻きで出してみました」
星縁陣(せえじ)は噛み締めながら頷く。もう1枚巻いて食べる。次は卵黄ソースをかけてみる。
綺麗なオレンジに近い濃い黄色のとろっっとした卵黄ソースがローストビーフの上でねっとり広がる。
その卵黄ソースの上に和風ソースをかける。海苔で包み口に運ぶ。
ローストビーフのスモーク感、和風ソースのお上品さ
それに拍車をかける海苔と白米を卵黄ソースが濃厚さで包み込んだ。
「んんー…!んま」
「あざっす」
「アファノホ嬉しそー」
と笑うゴージェ。
「うるせ」
「ま、でもそうか。うちら以外に振る舞うのほぼ初か」
「そー…だな。たしかに。オレらの仲間とかお前らの仲間とか、か」
「そうねー。うちらの仲間からも評判はよかったよね」
「ありがたいことにね」
星縁陣は最後の1枚も卵黄ソースをかけて食べた。
「あぁ〜。大満足。ご馳走様でした」
「お粗末様でした」
星縁陣はお皿とお箸と箸置きを持って立ち上がり、キッチンへと向かう。
「あ、置いとけばいいよ。ミウォールが洗うから」
「勝手なこと言わないで」
「うん。でも迷惑じゃなければ洗わせて?それくらいはさせて?」
アファノホとミウォールは顔を見合わせる。
「まあ、星縁陣がいいのであれば」
「ですね」
「じゃあ」
ということで星縁陣は使った食器を洗うことにした。
星縁陣の使い慣れた狭い、小さいキッチンと違い、めちゃくちゃ広い、大きいキッチン。
スポンジと食器用洗剤を探し、食器を洗う。
いいマンションのいい部屋だと水回りも違うようで
水を出すレバーを上げたときの滑らかさに驚き、水圧にも驚いた。
しかし使っている食器用洗剤はホン・キオーテのもので安心感と親近感があった。
洗ってお金持ちの広いキッチンにもある水切り台にお皿を置く。
「ありがとー」
アファノホがダイニングテーブルのイスで手を挙げる。
「全然全然」
「んじゃーせえちゃんのおすすめのホラー見よー」
「おー!」
テレビのリモコンが星縁陣(せえじ)に回ってくる。
「ホラーがいい?」
「ホラーかなぁ〜」
「おっけ。…なににしようかな…。ちょっと待ってね」
星縁陣がリモコンをダイニングテーブルに置いて、スマホで検索する。
「星縁陣に言われて気づいたけど、たしかにみんなで見るときってホラーが多いな」
と言いアファノホがホットの紅茶を飲む。
「たしかに。なんでだろ」
「あれじゃないですか?SFとか恋愛ものとかヒューマンドラマとかは
個人的な好みが分かれるからじゃないですか?
人前で泣きたくない人もいるでしょうし、泣くポイントも人それぞれですし
それよりかは、ホラー苦手な人もきゃーって楽しめるし、そのきゃーっていうのを見て周りも楽しめるし。
だから、ま、共通して見やすいんじゃないですか?」
「おぉ〜さすがミウォール。マンガとかアニメでいうところの分析キャラ。うん。敬語なのも萌えてきたわ」
とビガードンが頷きながら言う。
「キモいです」
「お。敬語キャラからの「キモいです」いただきました!」
「ビガードン嬉しそ。ドMだったん?」
と笑うルボ。そんな話を天使と悪魔がしている間に
星縁陣は見たホラー映画でおもしろく、怖かったものを見つけ
「あぁ。これ怖かったわ」
と言いながらテレビのnyAmaZon プライムの検索にタイトルを入れる。
「んじゃ、電気消しまーす」
アファノホが部屋の明かりを消す。
「じゃ、再生しまーす」
「「はぁ〜い」」
星縁陣が再生ボタンを押す。その映画はドキュメンタリー風のホラー映画だった。
監視カメラ視点を主とした作品でシリーズものの作品。
シリーズものは続けば続くだけ面白さが下降気味になるという傾向がある。
しかし中には下降気味で見限られたものの中に光るものがあったりする。
星縁陣はその第1作目と2作目、そして面白さが下降気味になり
見限られた中での光るものを選んで全員で見た。
「おぉ〜…うちこれ1、2見たけど
シリーズ続きすぎて「あ、これはアカンやつやぁ〜」ってなって全部見てなかったけど
こんないいの眠ってたんだ」
「そうそう。オレも「あぁ〜やっちまったか」って思ったんだけど
小説書きながら流し見してたら「あれ?これ怖くね?」ってなったのがあってさ。
ま、大概ハズレだけど流し見してみると「意外と」ってのがあったりするよ」
「なるほど。ジェイバーズ、今度みんな巻き込んで
24時間耐久ホラー鑑賞会で怖いホラー映画発掘してみる?」
「いいねぇ〜」
と楽しそうに計画する2人の傍らで
アファノホ、ビガードン、ミウォール、ルボは怖くてガタガタ震えていた。
夜から1時間半ほどのホラー映画を3本見たので、外はもう陽が昇りかけていた。
「あぁ〜…」
あくびが出る星縁陣。
「星縁陣もあくびをしたということで寝ますか」
「だねぇ〜」
「だなぁ〜」
テレビを消して、みんな立ち上がり、ゾロゾロと廊下に向かって歩いていく。
「星縁陣のおすすめはハズレないなぁ〜。今のところ」
「少しは怖くないやつとかないん?」
「あるけど?」
「怖いのがいいぃ〜!」
ダボダボの萌え袖の右腕を挙げるジェイバーズ。
いつもなら乗るルボもホラーが苦手で乗らなかった。各自の部屋の前につき
「んじゃ、おやすみ〜」
「おやすみぃ〜」
「おやすみー」
と各自で言い合った。星縁陣も
「おやすみ」
と例に漏れずみんなに言った。寝る直前の部屋着で部屋に戻る前の「おやすみ」。
誰かに言うのも言われるのも実家に帰ったとき以来で、どこかこそばゆかった。
部屋に入り電気をつける。あまり使われていない部屋だが新築ではない。
どこかその家の特有の匂いが微かにするものの、新しい布団と新しいラグの香り。
そして木材の香り。星縁陣の家では一切香らない香りが鼻に届く。
外は陽が昇りかけているものの、部屋には窓がない。
電気をつけないと微かな明かりもなく、部屋の細部が見えない。
慣れている部屋ならまだしも初めての部屋。電気をつけないとなにもできない。
リュックから歯ブラシ、歯磨き粉を持って部屋を出る。
洗面所…洗面所…
いかんせん家が広すぎて洗面所の場所すらわからない。
あぁ。ジェイバーズくんが出てきたとこだ
と気づいてリビングに戻る。そして洗面所を見つけると
「お」
そこにはアファノホが歯を磨いていた。
「隣失礼しまーす」
「おーおー(訳どーぞー)」
歯ブラシを濡らして、歯磨き粉をつけて、歯磨き粉をスウェットポケットにしまう。
シャカシャカとアファノホと2人で隣り合わせで歯を磨く。
アファノホのほうが先に磨いていたので、当たり前のようにアファノホが先に口をゆすぐ。
少ししてから星縁陣(せえじ)も口をゆすぐ。
「なんか新鮮だわ」
アファノホが壁に寄りかかりスマホをいじりながら呟く。
「なにが?」
スマホをポケットにしまい、部屋へと歩き出す。
「朝、洗面所で誰かと隣り合わせで歯を磨くなんて」
「え?他のみんなは?」
「寝る前磨かない派が多数。マウスウォッシュで済ますやつばっか」
「へぇ〜」
「だから新鮮だなぁ〜って」
「口ん中気持ち悪くないのかな」
「それなー。あと味覚に影響出そうで」
「そっか。アファノホは料理するからなおさらか」
「そう。なんかみんな、特にジェイバーズなんかは
「寝る前に歯ー磨くと、スースーして寝れないぃ〜」とか言うんだよね」
「あぁ〜。言いそう」
「言うのよ。ミウォールはミウォールで「自分の中で洗浄できるので」って」
「便利だなぁ〜」
「ね。んじゃ、おやすみー星縁陣ー」
「お、おう。おやすみ、アファノホ」
アファノホは部屋に入るときに星縁陣に背を向けたまま軽く右手を挙げて、扉を閉めた。星縁陣も部屋に入る。
「なるほどな。寝る前に歯磨くとスースーして寝られないって意見もあるのか」
と呟きながらベッドに腰掛ける。自分の部屋のベッドと違い、グッっとゆっくりと沈み込みお尻を包み込む。
「なんかアリバイとトリック崩しの材料に使えるかな」
と言いながらベッドに寝転がる。
「ベッド柔らかっ」
体を優しく包み込むベッド。星縁陣のベッドは安く長年使っているベッド。
スプリングもゆるゆる、そもそもマットレスも安物。
明らかにすべてにおいて格に違うベッドが気持ち良すぎて、すぐに眠りに誘われてしまった。