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(うん、やっぱり夢じゃなかった)
結婚式の翌日、いつもなら二度寝三度寝当たり前の麗でも、今朝ばかりは目が冴えていた。
隣で明彦が寝ているからだ。
いつの間にこうなったのか、明彦に腕枕をしてもらってまでいたのだ。
麗は明彦の腕がしびれていないか心配になりつつ、ゆっくりと体を起こし、目頭を押さえながら洗面所に向かおうと体を起こそうとした。
すると、眠そうな明彦の瞳が麗を捕らえたので、おはようと声をかけようとすると、明彦の腕が麗に伸びてきた。
ゆっくりと麗の元へ来る腕を見ていると、腕が麗の体に絡まり囚われた。
(まじか、え、今から抱かれるの? え? ナウ? 待つ感じやったやん! 前に無駄毛の処理したのいつだっけ? いや一応ドレス着るためにアキ兄ちゃんが用意してくれたブライダルエステで剃ったわ。よし、大丈夫! って、大丈夫じゃないっ!)
と、麗は声に出せずに混乱しているも、いつまでたっても明彦は動かない。
何事かと、明彦の顔を覗きこむと、スー、スー、スー、規則正しい寝息が聞こえてきたのだ。
なんだ、寝惚けただけか。
きっとこれまで明彦のお相手になってきた数々の美女の内の一人と間違えたのだろう。
明彦の特別になりたいと、たくさんの女性達がチャレンジしては散っていく姿をずっと見てきた。
その内の数名、明彦と付き合う美女もいたが、別れるのはいつだって早かった。
いつも明彦がふられるのだ。
姉は、よっぽどセックスが下手だったの? と、明彦の元カノになった美女たちに軽口を言っていたが、どうやら違うらしい。
誰だったろうか、明彦は絶対に自分を特別にしてくれないから振ったのだと言ったのは。でも、そう言ったのは一人じゃなかった。
彼に好きになってもらえるよう、釣り合うよう必死で努力したし、大切にしてくれて、お金も、時間も、快楽も全部くれたけれど、愛してくれないなら、もういらない、と。
(愛されたい、……か)
麗にもまた、いずれ、ベッドの上で、この男の背中に手を回す日が来て、そして愛されないことに苦しむ日が来るのだろうか……。
(ないないないない、えらいあほなこと考えたわ)
明彦に愛されたいと願うだなんてそんな身の程知らずなことありえないと、自嘲し、彼の寝ていても端正な顔を見た。
柔らかそうな黒髪。広い肩。背中にまで筋肉がしっかりとついているのが服の上からでもわかる。顔も良ければ、体型にも恵まれているのか。
昨夜、クッキリ出ていた眉間の皺はほどけ、切れ長の眼は閉じられている。
(睫毛長いなー。羨ましい。男の癖に必要ないでしょ? むしってやろうか。あ、髭生えてきてる)
酷いことを考えつつ、麗は起こさないように明彦の腕をゆっくりと外そうとした。
(重い。意識のない男の人の腕はこんなに重かったのか。初めて知った)
何とか抜け出して、そっと布団を明彦にかけ、軽く息をついた。
これだけで一仕事終わったような感覚である。
そうして麗は、音をなるべく立てないように身支度をした。仕事に行くためだ。
解りやすいようにメモをベッド脇のサイドテーブルに置いたが、何だか一夜の関係を結んだ男女がすることのように思え、落ち着かない気分になった。
だから、明彦のおでこにキョンシーのように貼ってしまおうかという邪な考えが頭をよぎったが、残念なことにテープが手元にない。
結局、仕方なく、サイドテーブルにメモを置いたのだった。