今朝の麗の目覚めは早かった。
スイートルームのベッドはふかふかで、広く、何処までも転がれそうでトランポリンのように跳び跳ねたい欲求に駆られるほどの代物だった。
それでも、慣れないせいか、今後に対する不安のせいか、それとも両方か、普段は二度寝、三度寝が当たり前の寝汚い麗だが、今朝ばかりは目が冴えていた。
ゆっくりと体を起こし、目頭を押さえながら洗面所に向かおうとベットから降りると、同じくあまりよく眠れなかったらしい明彦がのっそりと歩いてきた。
眠そうな明彦の瞳が麗を捕らえたので、おはようと声をかけようとすると、明彦の腕が麗に伸びてきた。
ゆっくりと麗の元へ来る腕を見ていると、腕が背中にまわった。
そのまま、腕の中に囚われる。
そして、明彦は麗を巻き込んでベッドに倒れ込んだ。
まじか、え、今から抱かれるの? え? ナウ? 待つ感じやったやん! 前に無駄毛の処理したのいつだっけ?
と、麗は声に出せずに混乱して固まった。
しかし、何時までたっても明彦は動かない。
何事かと、明彦の顔を覗きこむと、スー、スー、スー、規則正しい寝息が聞こえてきたのだ。
なんだ、寝惚けただけか。
きっと明彦のお相手になってきた数々の美女の内の一人と間違えたのだろう。
寝ていても綺麗な顔だこと。
昨夜、クッキリ出ていた眉間の皺はほどけ、切れ長の眼は閉じられている。
(睫毛長いなー。羨ましい。男の癖に必要ないでしょ? むしってやろうか。あ、髭生えてきてる)
と、酷いことを考えたが、明彦が疲れているのは麗のせいである。
背の高い明彦にはソファで寝るのは苦痛だったろう。
スイートルームのソファは女性の平均身長より少し高い程度の麗にとっては大きくても、170cmを越えているスタイルのいい姉よりも更に10センチ以上高そうな明彦には狭かった筈だ。
不便をかけて申し訳なかったなと思い、麗は起こさないように明彦の腕をゆっくりと外そうとした。
(重い。意識のない男の人の腕はこんなに重かったのか。初めて知った)
何とか抜け出して、そっと布団を明彦にかけ、軽く息をついた。
これだけで一仕事終わったような感覚である。
そうして麗は、音をなるべく立てないように身支度をして、仕事に向かう旨のメモを書いた。
解りやすいようにベッド脇のサイドテーブルに置いたが、何だか一夜の関係を結んだ男女がすることのように思え、落ち着かない気分になった。
だから、明彦のおでこにキョンシーのように貼ってしまおうかという邪な考えが頭をよぎったが、残念なことにテープが手元にない。
仕方なく、サイドテーブルにメモを置いたままにして、麗はそっと部屋を出たのだった。
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