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[赤葦目線]
(……いない)
文化祭の人混みの中、
ほんの少し目を離したら彼女がいなくなっていた。
(落ち着け。大丈夫、まだ校内に……)
そう思いながら探していると、
階段横の通路で“見たくない光景”が目に入った。
見知らぬ男子が、彼女に近づいている。
彼女は一歩ずつ後ろへ下がっている。
(……嫌がってるじゃないか)
胸の奥で、静かな怒りがじわっと膨らむ。
普段怒らない分、
“彼女が怖い思いをした時”の怒りは深く沈む。
そっと近づいて、
落ち着いた声で割り込んだ。
「その子、困ってますよ」
男子が言い訳をしようとした瞬間、
彼女の小さな震えを見つけた。
(……絶対に泣かせたくない)
「困ってないなら、なぜ下がっているんです?」
声は穏やか。
けれど拒絶は明確。
男子は一瞬で怯み、逃げていった。
ようやく二人きりになり、
彼女の頬に触れる。
あたたかい。
少し震えている。
(俺が……守れなかったせいだ)
「大丈夫でしたか」
「……ちょっと怖かった」
その言葉で胸がきゅっと締まる。
赤葦はそっと抱き寄せた。
「……ごめん。
僕がついていない時に限って、こうなって、」
自分の腕の中に収まる彼女の小さな体。
その温度に安心しながら、
心の奥でゆっくり、強い決意が固まる。
「今日は離れません。
……いいえ、この先もずっと、」
彼女が見上げると、
赤葦は優しく微笑む。
「あなたを守るのは僕の役目だから。
……好きだよ」
静かで、真っ直ぐで、少し甘くて。
それが赤葦京治の愛し方だった。