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22
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リムジンのドアが閉まる。
バタン——。
静かになるはずだった。
なのに。
「……」
「……」
「……」
空気が、重い。
マフィオソは窓側に座り、
いつものように脚を組む。
コートは着直している。
だが——
ネクタイは外されたまま。
シャツの襟元も少し乱れている。
そのせいで余計に、
車内全員の視線がそこに吸い寄せられる。
「……前見て運転しろ」
低い声。
運転席のカポが即答する。
「無理っす」
「なぜだ」
「気になるんで」
「運転に集中しろ」
「できる空気じゃないでしょ今」
助手席のソルもそわそわしている。
バックミラー越しに何度も後ろを見ては、
慌てて逸らす。
ラクティーは普通にガン見。
リエーレだけは静かだ。
静かだが——
一番怖い。
「……ボス」
リエーレが口を開く。
「なんだ」
「確認ですが」
数秒の間。
「どこまでされました?」
「は?」
即答すぎる。
「いやだから」
カポが割り込む。
「何されたんすか」
「……ゲームをしただけだ」
「脱衣ポーカーを?」
「……」
沈黙。
「やったんだ……」
ソルが小声で呟く。
「ボスが……」
「うるさい」
マフィオソの眉間が深くなる。
「別に大したことではない」
「大したことだろ!!」
カポがハンドル叩きそうな勢いで叫ぶ。
「チャンス相手に!?」
「2人きりで!?」
「ネクタイ外されて!?!?」
「落ち着け」
「無理ですけど!?」
ラクティーがすっと手を挙げる。
「はい」
「学校か」
「シャツ、どこまで脱がされました?」
「脱がされていない」
「“かけた”感じでしたね」
「見てたのかお前」
「入り口でちょっと」
「もっと早く入れ」
「タイミング測ってました」
最悪である。
「……つまり」
リエーレが静かに整理する。
「ボスは、あの男と2人で酒を飲み」
「……」
「隣に座り」
「……」
「ネクタイを外され」
「……」
「シャツを脱がされかけた」
「語弊がある」
「どこにです?」
即答。
マフィオソが黙る。
その沈黙がもう答えみたいになっていた。
「……っはぁ」
カポが深いため息をつく。
「信じらんねぇ……」
「俺、夢かと思いました……」
ソルはまだ赤い。
ラクティーは楽しそう。
「でも」
ぽつり、とラクティーが言う。
「ボス、嫌そうじゃなかったですよね」
ピタリ。
空気が止まる。
「……は?」
マフィオソの声が低くなる。
「だって、本当に嫌なら」
ラクティーは首を傾げる。
「チャンスさん、腕折れてません?」
「…………」
誰も否定できない。
「確かに」
リエーレが静かに言う。
「あの距離を許した時点で、かなり異常です」
「ですよね」
「お前ら」
マフィオソの圧が強くなる。
「調子に乗るな」
だが——
カポがバックミラー越しに笑う。
「でもさ」
「なんだ」
「ちょっと楽しかったんでしょ?」
沈黙。
長い沈黙。
その間に、車内全員が確信する。
(図星だ)
「……くだらん」
マフィオソは窓の外を見る。
だが耳が少し赤い。
ソルがそれを見て息を呑む。
(赤い……)
リエーレも気づく。
カポはニヤける。
ラクティーは素直に言う。
「かわいいですね」
「ラクティー」
「はい?」
「今すぐ窓から降りるか?」
「走行中です」
「なら黙れ」
しかしその直後。
「でも」
リエーレがぽつりと落とす。
「気に入りませんね」
空気が少し変わる。
「……何がだ」
「あなたが、あそこまで崩されていたことです」
静かな声。
だが独占欲が滲む。
「俺も嫌だ」
カポが真顔で言う。
「なんか……取られそうで」
ソルも小さく頷く。
「……」
マフィオソは何も言わない。
ただ、ポケットから例のジョーカーを取り出す。
指でなぞる。
チャンスの笑い声が脳裏に残っている。
『お前の“余裕”の方が価値ある』
「……ふん」
小さく鼻で笑う。
「まだだ」
誰にも聞こえないほど小さく。
「崩されるつもりはない」
そう呟きながらも——
胸の奥に、
妙な熱が残っていることだけは、
否定できなかった。