テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
仁人がインスタライブで。
勇斗との関係を公表した、あの日。
その配信を。
勇斗は一人で見ていたわけではなかった。
たまたま一緒に仕事をしていた柔太郎も。
隣にいた。
画面の中では。
仁人が少し赤くなった目元を、指先でそっと拭っている。
ファンから届く温かい言葉に。
ようやく少し安心したのだろう。
照れくさそうに笑っていた。
その仁人を。
勇斗は、黙って見つめている。
「……」
柔太郎は。
ふと、隣へ視線を向けた。
そして。
ほんの少しだけ。
勇斗の横顔を見つめた。
会議で。
勇斗が恋人を大切に思っていることは、十分すぎるほど分かっていた。
別れたくない。
手放したくない。
M!LKも。
恋人も。
どちらも守りたい。
いつもなら。
自分より周りを優先する勇斗が。
あれほど自分の気持ちを譲らなかった。
だから。
よほど大切な人なのだろうとは思っていた。
そして。
その相手が仁人だったことにも。
もちろん驚いた。
けれど。
今。
柔太郎を困らせているのは。
そこではなかった。
画面の中で。
仁人がコメントを読んで、小さく笑う。
その瞬間。
勇斗の目元が。
ふっと緩んだ。
「……」
柔太郎は。
なんとなく視線を逸らした。
勇斗は何も言っていない。
ただ。
仁人を見ているだけ。
それなのに。
分かってしまう。
仁人が少し涙ぐめば。
心配そうに眉を下げる。
仁人が安心したように笑えば。
勇斗の表情まで柔らかくなる。
その目が。
あまりにも優しかった。
普段。
自分たちメンバーへ向けているものとは。
明らかに違う。
恋人を見る顔だった。
「……」
なんだろう。
この。
ものすごく居づらい感じ。
仁人は。
ここにすらいない。
画面の中にいるだけだ。
勇斗だって。
何をしているわけでもない。
なのに。
まるで。
二人きりの時間に。
自分だけが紛れ込んでしまったような気がする。
柔太郎は。
もう一度だけ勇斗を見た。
いつも楽屋にいて。
くだらないことで笑って。
普通に言い合いもして。
自分たちと同じように。
勇斗の隣にいた仁人。
その仁人を。
勇斗は。
こんな顔で見るんだ。
付き合っているのだから。
当たり前なのかもしれない。
でも。
昨日まで。
そんなことは何も知らなかった。
同じメンバーとして。
ずっと二人を見てきた。
それなのに。
こんな勇斗は。
一度も見たことがなかった。
――そんなに好きなんだ。
今さら。
そんなことを思う。
会議で聞いた言葉より。
ずっと分かりやすかった。
『本当に……ありがとう』
画面の中で。
仁人が少しだけ笑った。
そして。
勇斗の表情も。
また柔らかくなる。
「……」
柔太郎は。
そっと前を向いた。
もう見ない方がいい。
別に。
見てはいけないものを見ているわけではない。
それでも。
なんとなく。
見てはいけない気がする。
勇斗は。
柔太郎を無視しているわけではなかった。
隣にいることだって。
ちゃんと分かっているはずだ。
ただ。
今は。
画面の中の仁人に。
ほとんどの意識を持っていかれている。
たぶん。
何か話しかけても。
半分くらいしか聞いていない。
だから。
柔太郎も話しかけるのをやめた。
代わりに。
逃げるように。
画面の下を流れていくコメントへ視線を落とす。
『仁人くん笑ってくれてよかった』
『ちょっと涙ぐんでるの可愛かった笑』
『二人とも幸せになってね!』
『勇斗くん、仁人くんを幸せにしてあげて!』
『勇斗くん毎日こんな仁人くん見られるのずるい!!』
「……」
柔太郎は。
ほんの少しだけ笑った。
ちらりと隣を見る。
勇斗は。
相変わらず。
仁人から目を離していない。
――たぶん。
ファンが思っているより。
ずっと好きなんだろうな。
それだけは。
この数分で。
嫌というほど分かった。
柔太郎は。
今度こそ勇斗を見るのをやめた。
そのまま。
流れていくコメントを追う。
すると。
一つのコメントが目に留まった。
『あれ? 仁人くんって“じん”呼びダメじゃなかった?笑』
「……ん?」
続けて。
同じことに気づいたファンのコメントが流れてくる。
『前に“じん”って呼んでいいの、お嫁さんだけって言ってたよね?』
『言ってた!笑』
『じゃあ勇斗くんはどうなるの?笑』
『あ! “じん”って呼べるの勇斗くんだけ?!』
柔太郎は。
少しだけ考えた。
そういえば。
仁人は以前。
“じん”と呼んでいいのは。
いつか自分のお嫁さんになる人だけ。
そんなことを言っていた。
勇斗は。
もちろん嫁ではない。
でも。
恋人。
そこまで考えて。
ふと気になった。
柔太郎は隣へ顔を向ける。
「はやちゃん」
「ん?」
返事は返ってきた。
けれど。
視線は。
相変わらず仁人のまま。
「仁ちゃんのこと、“じん”って呼ぶの?」
「呼ぶよ」
あまりにも普通に返ってきた。
「俺、聞いたことない」
「みんなの前じゃ呼ばないから」
「そうなんだ」
二人きりの時だけ。
それなら。
聞いたことがないのも当然だった。
でも。
そうなると。
もう一つだけ気になる。
「じゃあ、いつ呼ぶの?」
勇斗は何でもないことのように答える。
「夜、二人でベッド入った時とか」
「……」
一瞬。
誰も何も言わなかった。
「なんで黙るの?」
「いや……」
柔太郎が顔をしかめる。
「付き合ってるのは分かったけど、二人の夜の事情まで知りたくなかった。
「……」
勇斗が黙った。
柔太郎も黙る。
数秒。
そして。
勇斗の表情が。
ゆっくり変わった。
「…………あ」
ようやく。
自分が何を言ったのか。
気づいたらしい。
「違っ――」
「何が?」
「……」
「ほら」
勇斗は。
気まずそうに視線を逸らした。
「……忘れて」
「無理」
即答だった。
また。
沈黙。
さっきまでとは。
まったく種類の違う。
居心地の悪い沈黙だった。
「……仁人見てたから」
勇斗がぼそっと呟く。
柔太郎が眉を寄せる。
「何?」
「ちゃんと聞いてなかった」
「……」
柔太郎は。
ゆっくり勇斗を見る。
さっきまで。
自分がいたたまれなくなった原因。
画面の中の仁人を。
見たこともない顔で見つめていた勇斗。
「……それ、今言わない方がよかったよ」
「なんで?」
「もういい」
「何が?」
「いいって」
柔太郎は。
再びコメント欄へ視線を戻した。
勇斗を見ているのがいたたまれなくて。
コメント欄へ逃げた。
そこで。
知りたくなかったことを知った。
もう。
どこを見ればいいのか分からない。
その時。
またコメントが流れてきた。
『じゃあ“じん”って呼べるの勇斗くんだけ?!』
『恋人特権じゃん!笑』
『勇斗くんの“じん”聞いてみたい!』
「…………」
柔太郎は。
静かに画面から目を逸らした。
聞かない方がいい。
絶対に。
聞かない方がいい。
ファンのみんなには。
そのまま。
“恋人特権”だと思っていてもらおう。
柔太郎は。
何も見なかったことにした。
今日。
勇斗が。
自分が思っていたよりも。
ずっと深く仁人を想っていることを知った。
会議で。
あれほど必死に手放したくないと言った理由も。
今なら。
本当の意味で分かる気がする。
それは。
知れてよかった。
たぶん。
ただ。
最後の情報だけは。
本当に。
知らなくてよかった。
柔太郎の頭には。
その日の仕事が終わるまで。
――夜、ベッド入ったら。
という。
余計な一言だけが。
しっかりと残り続けていた。
コメント
7件

ありがとうございました。 純愛でお互いを大切に思う気持ちに泣きそうになりました(;;)よかったら後日談など待っています!ほかのお話も読ませていただきます。
すごく大好きな作品です。離れようとする辛さや引き止める言葉が良すぎて、何度読んでも引き込まれます。2人のやりとりがずっと好きです。

お互いを思い合う二人の関係が大好きなお話です。毎日の更新とても楽しみでした、ありがとうございます。ほかメンバーの反応もぜひ知りたいです!
#そのじん
笑う門には福来る
1,757
1,337
#nmnm注意
nanana

9,826
66