第7話 幸せのホルモン
「一体ここで何が起きたのですか」
俺は唾を飲む。
「部屋を変えよう」
そう彼は呟き、俺はついていく。
窓を眺め彼は言う。
「ここに来る時、君もここの風景はみたね」「はい」
「惑星エフェリアは、ここのような辺境の集落がいくつもある。惑星の日照時間も少なく、その上、土壌も豊かなものではない。私たちは主にジャガイモで食いつなぐ日々を過ごしている。」
「ただある時、巨大船が降りてきた」
「それが全ての始まりだった」
彼は後悔と悲しみの感情が溢れる中、続けた。
「巨大船から出てきた彼らは食べ物を配給してくれた。フルーツが多かった。特にバナナを与えてくれた。この惑星にとって糖分の豊富なものは高級食材だ。」
「それから、定期的に配給が来るようになり、ビタミン剤も分け与えてくれた」
私たちは皆、企業の慈善活動に好意的に思い、感謝していた。
「ある時、その企業は私たちの健康状態を診断したいと言ってきた」
誰も疑うことはなかった。そして企業は1か月後にもう一度診断すると発言し、配給を続けた。
2度目の健康診断の日、私たちは子供達を優先的に受けさせる。
「だが彼らは、悪魔の化身だった」
怯えた声で話す。
「船からは、悲鳴が聞こえた。あるものは投げ捨てられ、あるものは連れ去られ帰ってこなかった」
涙で言葉が詰まっているようだ。
「女の子のお腹を見てきなさい。君には理解できるはずだ」
彼は外の空気を吸いにどこかへ行ってしまう。
俺はまだ怯えている少女の手を握り、
「大丈夫だよ」と少し服をめくる。
少女のお腹を見た瞬間、今まで抱いたことのない怒りがこみ上げてくる。
目に映るのは、バイパスの管で傷だらけになった少女の腹部。
俺にはどういうことかすべて分かった。
企業は人々に糖分とビタミンを与え、
人々にセロトニンを生成させ、その後抜き取っていたのだ。
80%のセロトニンは始め、小腸にある。
脳に到達する前に管を通し抽出したのだろう。
少女の顔を改めてみる。目は遠くを見ている。疲労や怯えているだけだと思っていた。
・・・違った。
彼女は人として生きるために必要なセロトニンまで全て抜き取られ、
自分の身体で生成することもできない状態のまま、
干からびていた。
「本当に申し訳ない。助けられなかった。ごめんなさい。ごめんなさい・・・」
少女の元で俺は泣きじゃくる。
俺の肩をシドニーがさする。
母親は「この子が戻って来てくれた。あなたのおかげでね」泣きながら話す。
なにが「幸せのホルモン」だ。
人を家畜以下に無残に扱って。
俺が会社で働いていた時、
こんな非道的なことが裏で起きているなんて、つゆ知らなかった。
目の前の仕事だけをするだけで、
俯瞰的に物事を確認できていれば防げたことだ。
俺のせいだ。
知らなかった、見ていなかったなんて言い訳は同罪だ。いやそれ以上だ。
俺は全ての話をしてくれた彼の元に向かう。「少女を見てきました。お話ししたいことがあります。私がその企業の社長でした」
彼は振り返る。その手には包丁を持っていた。
「わかっていたよ。私は災害とも言えるこの企業のトップを殺したい一心、復讐を糧に生きていた。そして君が降りてきた」
「言いたいことはわかるね?」彼は言う。
「謝るのもおこがましい程です。私の全責任です。大変申し訳ございません。」
自分の不甲斐なさと無力さと共に、
彼の前に静かにひざまずく。
彼は俺に向かって包丁を振りかざす。
(続)
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