TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

目を覚ました私の頬は、涙で濡れていた。


病院の院長さんみたいな人が来て、私に告げた。


「うつ病にかかってしまう=自殺してしまう、と言うわけではありません。

いつも通り、笑っていれば、うつ病はなにも害がない病気です。

だから、大丈夫。」


私は、昔みたいに大声で泣いたりはしなかった。


むしろ私は怒った。


「違います。

私の父の妹は、うつ病で自殺しています。

そんな人がみじかにいる私に、生半可な気持ちで大丈夫なんて言わないでください。

私にとってうつ病は、この世で一番怖いもので、大丈夫、なんて言葉で救われると思いますか?

そんなわけ、ないでしょう?

ふざけた励ましなんて、逆に迷惑です!!!」


つい、爆発してしまった。

私の恐怖と、怒りが。


院長さんは、面食らった顔になりながら、顔を伏せて病室から出て行った。


かわいそう。


あの医者は、余計なことをした。

余計な口を挟まなければ、傷つきはしなかった。

なのに、なんて馬鹿な医者だ。


純粋に、慰めたつもりだったのだろう。

ただ、火に油を注いだだけで。


こんなこと、昔もあったっけ。


私も記憶が一部欠けている。

だから、はっきりとは覚えていない出来事だけれど、確か。

確か、私に対して同情した子がいた。

日比野…麗奈という子だった気がする。

麗奈は、私の幼馴染だった。

幼稚園で仲良くなった。

そして2年生の時、喧嘩してそれっきり。


私の父の妹、夏葉について話した日。


麗奈は、「かわいそう」「大丈夫だよ」「関係ないよ」とか、

同情する言葉を口にした。


「なんで?」

私は、そう聞いた。


もちろん、笑顔を絶やさずに。


麗奈は、こう告げた。


「なんで、って…

だって、かわいそうだから。

小さい頃に、そんな事件が起こったんでしょう?

かわいそう、って思う…よ?」


「ーーーそっか。」

でもね、麗奈。

私はきっと同情して欲しいわけじゃないんだ。

きっと、受け止めて欲しいんだ。

麗奈は、事件を体験していない。

そんな人の、大丈夫、なんか嬉しくない。

かわいそう、なんて。

逆に辛いよ。

自分が、ますます惨めに思えてきてしまう。


そこからの記憶は、なくなってしまった。

もう、覚えていない。

4年生の時に、忘れてしまったから。

でも、

「…じゃ、私はこれで。」

そう、慌てて告げて、私は走って家に帰った。

それは覚えている。

涙を隠すために。


泣いちゃダメ。

泣いたら、ますます惨めだから。


嫉妬、だと思う。

その子は、文武両道で、言葉通り勉強も運動もできた。

才能に加えて、努力を欠かさない子だった。

私はその子に劣っていて、いつもその子と比べられてばかりいた。

どれだけ頑張っても、認められることはなかった。


「悔しい。」

認めてしまえばいいのに。

負けを確定されたくないから、その一言を発しない。



すずと麗奈はすごく似ていた。

すずと話しているときは、まるで麗奈を話しているようだったと、いつも思っていた。

すずが文武両道か、と聞かれたら違うけれど、でも。

でも、どこか似ていた。

だから、すずと仲良くなれば麗奈の記憶を上書きできるかも、と思ったのだ。


あの時、自分はきっと麗奈にひどい態度を取ったのだろう。

記憶が欠けている自分が、恨めしかった。

うつ病になるまでは、しっかり覚えていたのに。

もう、全部うつ病のせいにしちゃいたい。

そしたら、きっと楽なのに。

無価値の私と、大切にされてきた君の嘘だらけの物語

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

28

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚