朝、目が覚めても、何も感じなかった。カーテンの隙間から光が差し込んでいる。
でも、それが“朝だ”とわかっても、
身体が動かなかった。
携帯が震える。
通知の音。
グループのメッセージ。
誰かの「おはよう」が流れていく。
――返さなきゃ。
そう思っても、指が動かない。
画面を見つめたまま、
ゆっくりと目を閉じた。
「……もう少しだけ、寝てもいいよな」
それは言い訳のようで、
同時に、助けを乞う言葉でもあった。
日が昇って、午後になって、
やっと布団の中から起き上がる。
喉が乾いているのに、
水を飲む気にもなれない。
鏡の前に立っても、
そこに映るのは“自分”なのかよくわからなかった。
目の下の隈、痩せた頬。
けれど、それよりも心が空っぽで、
何も感じられないことが一番怖かった。
そこへスマホが震えた。
画面に映るのは「元貴」。
『最近どう? ごはん食べてる?』
その文字を見て、少しだけ胸が痛む。
優しい言葉が、今の自分にはまぶしすぎた。
「……食べてるよ」
そう打って、嘘を送信する。
本当は、昨日から何も食べていない。
でも、心配をかけたくなかった。
誰にも、自分の“壊れかけ”を見せたくなかった。
部屋の中に、時計の音が響く。
秒針の音が、まるで責めるように響いた。
「……もう、どうしたらいいんだろ」
小さく呟いたその声は、
誰にも届かないまま、
静かな部屋の中に溶けていった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!