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久しぶりに書いたらまさかの4200字 byルン
私には親がいなかった。
私が産まれてすぐ、お母さんは病気で亡くなり、お父さんは交通事故に遭って亡くなった。
そんな私は8歳までを児童施設で過ごした。
8歳のある日
「あら、この子可愛いわね。」
「そうだな、舞婪の妹にぴったりだ」
児童施設に子供連れの夫婦が来た。
私は『あぁ、また見学か』と思った。
ここで過ごしていると度々、子供を引き取りたい夫婦が児童施設の子供たちの様子を見に来る。
「すみません、この子の名前はなんと言いますの?」
夫婦の女の方が私の頭を撫でながら言った。
『…え?』
私は驚いた。
いつも見に来る人達はみんな小さい子を選ぶから。
8歳とはいえ、成長している私に興味を抱いた夫婦は初めてだったから。
「その子の名前は梨菜ちゃんですよ。
梨菜ちゃん。挨拶は?」
『えっと、あの、こ、こんにちは…』
私はしどろもどろしながら挨拶した。
「こんにちは。梨菜ちゃん」
「梨菜ちゃんこんにちはー!」
男性と同い年くらいの男の子が挨拶を返してくれた。
「梨菜ちゃん、私たちと、家族になるつもりはないかしら?」
女性は私に手を差し伸べながら聞いた。
その問いかけに私は──
その日から私は、お父さんとお母さん、そしてお兄さんができた。
お兄さんの名前は舞婪と言うらしい。
お父さんもお母さんも優しくて、舞婪は一緒に遊んでくれる。
『舞婪くん、今日は何して遊ぶ?』
「あのさー」
『どうしたの?』
「舞婪くんじゃなくて、舞婪って呼んで!その方が仲良しって感じがする!」
『うん…わかった、舞婪』
「あとねー!梨菜っていつも大人しいからー、僕みたいに元気な声で喋ってみてよー!」
『えぇ、でも…』
「いいからやってみてー!」
『えっと…ま、舞婪ー…!』
「もっと明るくー!」
『舞婪ー…!』
「もーっと明るくー!わっはっはー!」
『わ、わっはっはー』
「うーん何なら元気出るかなぁ…。あ!そうだ!」
何か思いつくと舞婪は走ってどっかに行ってしまった。
数分後、舞婪は大きなケースと小さなケースをひとつずつ持ってきた。
『なぁに?これ』
「なんかねー、がっきっていうやつらしいよー!」
『がっき?』
「なんか音が出るんだってー!この前パパがくれたんだー!」
『面白そうだね』
「梨菜はどっちがいい?僕は大きい方にするー!」
『じゃあ私は…小さい方で…』
「えー?!そっちでいいのー?!こっちの方が大きいよー?!」
『だって舞婪が大きい方がいいって…それに重そうだったし…』
「そっかー!あははー!とりあえず開けてみよー!」
舞婪が大きなケースを開けると、金色で丸く、先が大きく広がっているよく分からないものが出てきた。
「なにこれかたつむりみたーい!」
『かたつむりってこんな形だったっけ…』
「わかんなーい!梨菜も開けてみてよー!」
『う、うん』
私が小さいケースを開けると、そこには黒い筒が3つくらい入っていた。
『なんだろう、これ…』
「あら、楽器で遊んでるの?」
そこにお母さんがやってきた。
「うん!パパに貰ったのー!」
「それはいいわねぇ。こっちの大きい方は“ホルン”って言って、ここの小さい丸に口を当てて…」
プー♪
「こんな風に、音が鳴るのよ」
「すごーい!僕もやるー!」
フシュー…
「あれぇ?」
「練習すれば鳴るようになるわよ」
「わかった!いっぱい練習する!」
「こっちは“クラリネット”って言ってね、こうやって組み立てて…くわえて…」
ピー♪
「こんな音が鳴るのよ」
『凄い…』
「梨菜も吹いてみなさい」
『う、うん…』
ピュィー……
『あれ、なんか変な音…』
「凄いじゃない!最初でそんな音が出るなんて!才能あるかもしれないわよ!」
「ママー僕はー?」
「舞婪はまず、この小さいやつを取って…これを吹いてみたらどうかしら?」
ブー
「わぁー!音鳴ったよー!」
「あら、凄いわねぇ。じゃあ次はこれをつけて…」
プー
「鳴ったぁー!」
「凄いわ〜!2人とも才能あるかもしれないわね!」
「僕いっぱい練習するー!ね?梨菜!」
『うん…!』
それから毎日、私たちは楽器を練習した。
「なんか思うんだよね。梨菜の音って元気が足らない気がする」
『そ、そう?』
「うん、だからさ、もーっと、楽しーい!って気持ちで吹いてみてよ!」
私はそう言われ、舞婪のハイテンションをイメージしてクラリネットを吹いてみた。
ピィー!!
「わぁー!凄い!元気いっぱいな音だー!」
『……』
その時、私は気づいてしまった。
全力で楽しむことの気持ちよさに。
「梨菜も、さっきの音みたいに元気に喋ってみてよー!」
『え、えと…わ、わー!楽しーい!』
その時、私は今までで1番大きな声をだした。
「わぁー!楽しそうな声だったよー!梨菜も毎日そうやって声出したらきっと人生楽しいよ!だからさ……」
「“毎日、僕と楽しく元気に過ごそう!”」
『……!』
私は、何故かその言葉がとても心に刺さった。
物心ついた時から親がいなくて、ずっと子供達が沢山いるところで育って、“愛情”というものを与えて貰えなかった。
ここに来て“愛情”を貰ったけど、それでは少しもの足らなくて…
舞婪は毎日私と一緒に遊んでくれて明るく接してくれる。
もしかしたら私が望んでいたものは愛情じゃなくて別の“なにか”かもしれない。
そしてその“なにか”は
舞婪と一緒に過ごすことで満たされるんじゃないか。
そう思った。
『……うん!』
だから私は、その日から
明るく振舞った。
それから数年後
ガチャン
食器が壁にぶつかって割れた。
私と舞婪が見つめる先にはお母さん。
お母さんは、わなわなと震えていて、お皿を投げようとしている。
そう、さっきの食器もお母さんが投げたのだ。
「あんた達…いつも馬鹿みたいに騒いでてうるさいのよ!」
「なんで?人生楽しんだ者勝ちって言うでしょ?楽しんでて何が悪いの?」
舞婪はそんなお母さんに反論する。
「あんた達のは楽しんでるんじゃなくて馬鹿騒ぎしてんのよ!」
「梨菜貴女も!大人しくて可愛いから児童施設から連れてきたのに舞婪に似ちゃって…。昔は子供だから許してたけどあなた達もう中学生なのよ?!精神的に落ち着きなさい!」
お母さんからそう言われて、私は、自分の求めている“なにか”は望まれないものなんじゃないかと思ってしまった。
すると舞婪が私の手を引っ張った。
「梨菜、行こ」
私は訳も分からず舞婪に着いて行った。
「どこに行くのよ!」
「ちょっと、“頭を冷やしてくる”よ」
私は舞婪のその言い方に違和感があって仕方がなかった。
『舞婪…舞婪!どこに行くの?!』
舞婪はホルンを持ち、クラリネットを私に持たせて歩いていた。
私はついていくことしか出来なかった。
「どこ行こうか」
『考えてなかったの?!』
「お母さん達は、僕達のことよく思ってないけど、僕はこの生き方辞めるつもりがないんだ」
『……』
私も同じだった。
舞婪の真似をして明るく生きてたら、世界が違って見えた。
灰色がかった色をしていた世界が鮮やかに変わった。
だから…
『私も、生き方を変えるつもりは無い。』
「えへへ、梨菜もそう言ってくれると思った。だから僕思ったんだ。」
「鏡の国に行く」
『え…』
鏡の国とは、今多発している楼鏡市神隠し事件についての都市伝説で、“神隠しに遭った人は鏡の国に連れていかれる”というものだった。
この事件についての都市伝説は色々あり、“死ぬほどの悩みを抱えている人が行ける国である”だったり、“鏡の国に行くと二度と戻ることは出来ない”だったり、“鏡の国では自分のなりたい姿になれる”など、様々な都市伝説がある。
どれが本当でどれが嘘かはわからないけど、“行こうと思って行ける場所では無い”ことは確かだった。
『でも、鏡の国に行くって…どうやって?』
「うーん、とりあえずおまじないを片っ端からやってみる!」
『えー?!』
そして私と舞婪は日が暮れても夜が深けても、おまじないをやり続けた。
『もう、眠いよぉ…』
「まだま…d……zzz」
『あれ?舞婪寝た?でも私もねむ…zzz』
そして私達は眠ってしまった。
『……んん、』
目が覚めると、目の前には神社があった。
辺りを見渡すと、そこには舞婪もいた。
『舞婪…起きて…』
「朝ごはんはチンパンジー…」
『舞婪…ここ、どこだと思う…?』
「昼ごはんは熊をたべ…ん?」
「もしかして…ここが鏡の国…?」
「おや?おやおやおや?おっやぁ?」
背後から、女性の声が聞こえてきた。
『貴女は…』
「私は月影未彩!ここの神社の管理人だよ!」
『管理人…えっ、ご、ごめんなさいすぐ出ていきます!』
「夕飯はライオンとかぁ…」
『舞婪ぁ!行くよ!』
「待って待って!」
私が寝ぼけている舞婪を引っ張ろうとすると未彩と名乗った女性が引き止める。
「私は別に君たちを叱ろうとかはちぃーっとも考えてないわけですよ」
『え…?』
「君たち、家庭で何かあったでしょ」
『……!』
都市伝説に当てはまる内容を言われ、私は絶句した。
「鏡の国のおゆうはーん…」
「鏡の国…それがあっちの世界で言われてるこの町のことかな?」
『ここって一体…』
「ここは麗流楼水。居場所を失った人達が集まる町だよ。」
『都市伝説の通り…』
「やっぱり、都市伝説が存在しているんだね。君たちは何があってここに来たの?」
『…私たち、自分たちが思うように生きようとしたのを否定されて、鏡の国と呼ばれるここに来ようと思って、色々おまじないを試してたんです、ですが、眠くなってきて寝てしまって…起きたらここにいました。』
「なるほどね、この世界では、何をしたい?」
『それはもちろん…』
「自由に生きたーい!」
『舞婪起きたんだ…!』
「ふふ、2人は仲がいいんだね。よし、君たち2人を麗流楼水に歓迎します!」
「ただいまー、あれ?舞婪と梨菜は?」
「さぁ、知らないわ」
「もしかして、喧嘩でもしたのか?」
「そんなところね」
「このまま戻ってこなかったらどうする?」
「そんなのもちろん──」
「代わりを探すだけよ」
「……」
「そうだな、今までと同じように。」
「次は、次こそは、優秀な子を引き取らなくちゃ…」