テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
35
千波
48
お豆腐メンタル
10
今日の学校も終わった。
部室に行こうか。
映画部は俺以外、全員女子だ。
別に居心地が悪いわけじゃない。
……いや、ちょっとだけ悪い。
ただ、男子を誘おうにも俺には友達も、つてもない。
仕方ない。
俺は一人で部室へ向かった。
廊下の端にある映画部の部室。
いつものようにドアを開ける。
「……ん?」
何かがおかしい。
部室の雰囲気が、昨日までとは明らかに違っていた。
まず目についたのはカーテン。
以前はプロジェクターで映画を見るため、窓には黒い遮光カーテンが掛かっていた。
それが今は――
淡い黄色になっている。
しかも、よく見ると小さな花柄まで入っていた。
「……カーテン、変わってる」
視線を部屋の端へ移す。
そこには小さなテーブルが置かれていた。
その上には、六人分のティーセット。
白いカップとソーサーが綺麗に並べられ、隣には電気ケトルまで置いてある。
さらにその横。
控え目な大きさのドレッサーまであった。
淡い色の木目。
小さな鏡。
引き出し。
その上には、誰が持ってきたのか分からない小物まで並べられている。
「…………」
俺はしばらく黙って部室を見回した。
昨日までここは映画部の部室だった。
撮影機材。
脚本。
古い机。
黒いカーテン。
多少散らかってはいたが、それなりに映画部らしい部屋だった。
それが今は――
「雰囲気が変わったな……」
背後からドアが開く音がした。
振り返る。
そこにはゆりかが部室に入ってきていた。
「これ、何?」
「改造」
「見れば分かる」
「みんなで相談して決めたの」
「だって、物置みたいな部室じゃ嫌じゃない」
「まあ、それは分かるけど」
みんなの中に俺が含まれてないんだが。
「ティーセットは私が新しく買ってきた。ドレッサーも私の家にあったもの。使ってないのがあったから」
「ドレッサーまで?」
「必要でしょう?」
「何に?」
「女の子には色々あるの」
「さいですか……」
俺には分からない世界だった。
すると、窓際から声がする。
「カーテンは私が選んだよ」
澪だった。
澪は部室の机に積まれた書類を確認しながら言った。
「澪も関わってるのか」
「カーテンだけね」
澪は立ち上がり、淡い黄色のカーテンを手で整えながら微笑んだ。
「黒いカーテンは少し暗すぎると思って」
「映画を見るときは?」
「遮光性能は前のものとほとんど変わらないよ。プロジェクターを使うときも問題ない」
「……なるほど」
「それに、こっちのほうが部屋が明るく見えるでしょ?」
澪がカーテンを軽く撫でる。
「うん。確かに」
意外と納得できた。
澪なら、こういう落ち着いた色を選びそうだ。
「細川先輩はよく許したね」
俺が言うと、ゆりかがすぐさま返答する。
「みんなが活動しやすくなるならって快諾してくれたわ。部室らしくなったでしょう?」
「生活感は増えたが、映画部の部室らしさは減ったよ」
「ちゃんと撮影機材もあるじゃない」
「そうだけど……」
部屋の奥を見る。
確かに機材は残っている。
脚本もある。
映画部として必要なものは何もなくなっていない。
ただ、その周囲にティーセットとドレッサーが追加されただけだ。
「……まあ、いいか」
俺は諦めた。
「でしょ?」
ゆりかが満足そうに笑った。
俺が諦めたところで、また部室のドアが開いた。
「お待たせー! 友達と喋ってたら遅れた!」
明里だった。
その後ろから、理恵とるなも入ってくる。
るなは大量のビニール袋を抱えていた。
俺は今日二度目のびっくりをする。
「その袋は、何?」
るなは指摘された袋を少し持ち上げた。
「これですか? 買い出しってやつです。部室に来る前に、近くのスーパーで買ってきました」
スーパーって学校からちょっと距離あるはずだけど。
短時間でこれだけの量を?
理恵は自分の席に鞄を置き、部室を見回した。
「こうして見ると、本当に雰囲気変わったね」
ゆりかが嬉しそうに笑う。
「前より過ごしやすくなったと思う」
「僕もそう思う」
るなが頷く。
「映画を見るときも暗くできるしね」
「そこは澪さんがちゃんと考えてくれましたから」
理恵が言った。
「うん」
澪が書類をまとめながら頷く。
「みんな揃ったし、決めますか」
明里はそう言って、さっそくティーセットのほうへ向かった。
「何を?」
「ここに六種類のカップがあるでしょ」
明里がテーブルの上を指差す。
「誰がどの色を使うか!」
個性的な色とりどりのカップがテーブルに並んでいる。
るながビニール袋をテーブルに置き、察したように頷いた。
「なるほど。これからの自分の相棒を決めるんですね!」
「そう! 好きなの選ぼう」
「じゃあ、これ!」
真っ先にゆりかが一つ手に取った。
いかにも「可愛い!」という感じのカップだ。
周りに遠慮して、なかなか決められないという雰囲気になる前に潰す。
やるじゃないか。
みんな、それぞれ気に入ったカップを選んでいく。
俺は無地の白いやつにした。
「ところで、買い出しって何を買ってきたんだ?」
るなに問いかける。
るなはビニール袋から大量のお茶、インスタントコーヒー、茶菓子を取り出していく。
「これで頼まれたのは全部です」
一か月、毎日お茶会ができるんじゃないかって量だ。
明里と澪が目を輝かせる。
「すごい……!」
「これならしばらく買わなくていいね」
二人とも完全にお茶会を楽しみにしている。
俺は改めて部室を見回した。
黒いカーテンがなくなっただけで、ずいぶん明るく感じる。
ティーセットやドレッサーまで置かれているせいで、もはや映画部というより――
「……やっぱり女子部屋だよな」
「まだ言ってる?」
ゆりかがからかうように言った。
「いいじゃないですか。部室なんだから、快適に過ごせるほうが」
理恵も優しい声で言う。
「まあ、それはそうだけど」
部長がそう言うなら……。
俺は椅子に座った。
六人全員が揃う。
さて。
「今日は何する?」
明里が聞いた。
「それを今から決めるんだろ」
「映画撮る?」
「いきなり撮れるわけないだろ。前回、先輩の話を聞いてなかったのか」
「……考えてなかった」
「だろうな」
「じゃあ、何か探そうよ」
「題材を?」
「うん」
理恵が少し考える。
「学校を舞台にした映画なら、題材は結構ありそうだけど……ロケ地にも困らないし」
「それなら、学校の怪談とかどうです?」
るなが言った。
「怪談?」
明里の目が輝く。
「それいい!」
「あー、確かに。この学校、変な噂多いもんね」
澪も話に乗ってくる。
「動く二宮金次郎とか、十三段目の階段とか、学校が建つ前はここが墓場だったとか」
「花子さんもありますよ」
理恵が言った。
「ただ、どれも話が微妙に違うんですよね」
「それなら――」
明里が机の上に身を乗り出した。
「調べてみようよ」
「調べる?」
「うん。どんな怪異なのか、ちゃんと調べてみるの」
「映画の題材探しってことで?」
「そう!」
明里が笑う。
「面白そうじゃん」
俺は少し考えた。
確かに、映画を撮るにしても題材が必要だ。
学校の怪談なら、身近だし調べることもできる。
「……まあ、いいんじゃないか」
「決まり!」
明里が嬉しそうに手を叩いた。
澪が顔を上げる。
「でも、危険なことはしないでね。生徒会の仕事、増えちゃうから」
「ね!」
澪が念を押す。
「分かった!」
明里が頷く。
「じゃあ、明正高校の怪異を調べよう!」
こうして。
映画部の次の活動が決まった。
映画を撮る前に、まずは学校の怪異を調べる。
なんだか映画部らしいのか、らしくないのか。
そもそも、学校の怪談を撮るとも決定していない。
俺にはまだ分からなかった。
俺たちは机を囲み、思いつく限りの怪異を挙げていった。
「動く二宮金次郎」
明里が最初に言う。
「十三段目の階段」
澪が続ける。
「花子さん」
理恵が手を挙げた。
「校舎の鏡に知らない人が映るって話も聞いたことあります」
「私は音楽室のベートーヴェン」
ゆりかが言う。
「夜になると、こっちを見てるらしいですよ」
「僕は旧校舎の話を聞いたことがある」
るなが続けた。
「誰もいないはずなのに、上の階から足音がするって」
「多いな……」
俺は机の上に並んだメモを見る。
同じ怪異でも、人によって聞いた話が微妙に違っていた。
「二宮金次郎も、歩くのは夜だけって人と、昼間も動くって人がいるよ」
「十三段目も、十三段目を踏むと別の場所に出るって聞いたことがあります」
「私は階段を数え直すと、元に戻るって聞いた」
「それ、全然違うじゃん」
俺が言うと、みんなが笑った。
「だから面白いんじゃない?」
明里が言う。
「実際はどうなのか、調べてみようよ」
「じゃあ最初は何にする?」
全員の視線が集まる。
少し考えてから、俺は一つを指差した。
「一番身近なのからでいいんじゃないか?」
紙に書かれた名前。
花子さん。
「それなら放課後でも調べられるね」
理恵が頷く。
「よし、決まり!」
明里が嬉しそうに笑った。
「次の活動は、花子さん調査!」
こうして、俺たちの最初の怪異探求が始まることになった。
コメント
1件
読ませていただきました! 第5話、とっても楽しかったです🌷 部室が一気に女子スペースに変わっちゃって、主人公くんの「……やっぱり女子部屋だよな」っていう小さなツッコミ、めちゃくちゃ共感しました(笑) でもゆりかちゃんの「女の子には色々あるの」とか、澪ちゃんがカーテンをちゃんと遮光付きで選んでるあたり、みんなの個性がしっかり出てて好きです。そして最後の花子さん調査……! これからどんな怪異に出会うのか、次がすごく気になります。温かい空気のまま、ちょっと不気味な方向に進むのかな。続きを楽しみにしています🤍