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第五章 封じられた真実
第十二話 地下の影
ーーーギィ……。
鈍い音が、地下通路へ響いた。
全員の空気が変わる。
ジュウタロウは反射的に、腰の剣へ手を掛けた。
暗闇。
弱い燭台の火。
その先は、ほとんど何も見えない。
クラウスが小さく息を呑む。
シュンタは、じっと暗闇を見つめていた。
真紅の瞳が細まる。
「……人や……。魔物ではない」
ハヤトが低く問う。
「分かるのか」
「足音と、気配や」
シュンタは静かに答える。
その時、クラウスが恐る恐る通路へ歩み出た。
「……誰ですか」
返事はない。
けれど、蝋燭の明かりがゆっくり近付いてくる。
そして、
「あっ……!」
クラウスの声が漏れた。
そこにいたのは、 白いローブ姿の若い女性だった。
「セナ……!?」
人影はびくりと肩を震わせる。
「……クラウス様!?」
セナと呼ばれた女性は、驚いたように目を見開いた。
「……どうしてここへ?」
クラウスが問いかける。
セナは俯いた。
「それは……」
手にした蝋燭の炎が揺れる。
「……私、見てしまったんです」
「大神官様が、この地下へ入られるところを」
空気が変わる。
「何があるのか、なぜ、誰にも知られないようにしているのか……」
「どうしても気になって……」
震える声。
「大神官様が戻られる前に、少しだけ確認したくて……」
クラウスは深く息を吐いた。
責める言葉は出なかった。
彼自身もまた、同じ理由でここへ来たからだ。
「……そろそろ出ましょう」
クラウスは後ろのハヤト達を見る。
そして、
「セナ……このことは、決して口外しないように」
セナは青ざめた顔で頷いた。
◇
教会の外。
三人は、近くの建物の影に身を潜めた。
教会幹部達を乗せた馬車が、大聖堂の階段下に到着したのを確認する。
夏の夜の少し冷たい空気を、三人は深く吸い込んだ。
シュンタが、まだ緊張の残った顔で息を吐く。
「……ホンマ焦ったわ。
あと少し遅かったら、見つかってたやろ」
ジュウタロウは黙ったまま、夜空を見上げていた。
「やはり……」
静かな声。
「教会は知っていたんだな。
三百年前のことを。
そして、隠していた……」
「……」
ハヤトは答えなかった。
ただ、黒い外套の下。
隠していたものへ、そっと触れる。
月蝕記。
本来なら、持ち出してはいけないもの。
皇太子として、絶対にしてはいけないこと。
それは分かっている。
けれど、あの記録を見た瞬間、
知らなければならないと思った。
なぜ、月蝕の子は恐れられたのか。
なぜ、歴史は歪められたのか。
なぜ、今再び魔物が増えているのか。
「……これから俺の部屋へ行こう」
ハヤトは静かに言った。
二人が頷く。
三人は馬へ跨り、皇城へ向かう。
夜の帝都を進みながら。
ハヤトは、胸の奥の鼓動を抑えられなかった。
怖い。
だが、それ以上に、知りたい。
三百年前の閉ざされていた真実へ、
今、自分の手が触れてしまったのだ。
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コメント
1件
ああ、この54話、じわじわ来ますね。地下通路で張り詰めた空気の中、突然セナが現れる緊張感——シュンタの「足音と、気配や」って台詞に彼の観察眼と性格が凝縮されてて好きです。それにしても「知りたい」という衝動と「怖い」という警戒がせめぎ合うハヤトの心情、すごく響きました。三百年前の封じられた真実に、今まさに手が届きかけている感覚。月蝕記を持ち出した重みが、物語の深みを一段上げてる。続きが待ち遠しいです。