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#ヤンデレ
舞は、桜の木の下で人を待っていた。愛しの勉くん。春風が頭上の桜を撫で、花弁を散らせる。赤く緊張する舞の顔にも花びらが舞った。大丈夫だよ、と言うように。
その瞬間、軽い足音が聞こえた。毎日毎日ストーキングしていた時に何度も聞いた足音。その足音が耳に入った瞬間、舞の顔は一気に赤くなった。風邪を引いたかのように熱を持ち、心臓がバクバクと鳴り出す。
勉が舞の目の前に立った。舞より頭一つ分高い場所にある目が、舞を見下ろしている。気怠げな細い目、綺麗な手、細身な体。いつ見ても胸の高まりが止まらない。
舞は、震える手で懐からナイフを抜いた。キラリ、と日光が反射する。それを見て、勉の細い目が開かれた。
舞は、勉のその細い腹にナイフを突き立てた。白いシャツに赤黒い染みが広がっていく。舞は自分の制服が汚れるのも構わずに、膝から崩れ落ちかけている勉をぎゅっと抱き締めた。勉の、吐血で汚れた顔を見上げ、顔にまた赤が差した。あの血を口移しで飲みたい、あの唇と自分の唇を重ねてみたい。甘い妄想が舞の脳を駆け巡る。
舞は自分の体に寄りかかっている勉の顎を優しく掴んだ。そして、半開きの唇に自分の唇をそっと押し当てた。鉄っぽくてしょっぱい血の味がする。これが君の血の味。どんな高級料理を食べた時よりも美味しい、と舞は思った。少し口を開き、舌を入れ、口内に残る血を舐めとる。血と唾液の味。
ぐったりとした勉の体を持ち上げ、家に持ち帰った。その頃には体は冷えきり、桜の木の下では微かに聞こえた心臓の弱い鼓動も消えていた。
黒に近い赤で染め上げられた制服を丁寧に脱がし、シャワーを浴びせ、血を流し、腹の上に包帯を巻いた。傷口からまだ出る血が包帯に染みている。排水溝に流れていく血を見て、勿体無いなと舞は思った。洗い終わった後、舞はドライヤーを取った。適当に洗われていたであろうボサッとした髪。自分の見た目に無頓着なのがまたかわいい。そう思いながら、勉の短い髪を撫でるように乾かす。
タオルで丁寧に拭いた体に、買っておいた灰色のパジャマを着せた。サイズはぴったりで、観察していた甲斐が合ったと感じる。
舞は乾かした体を持ち上げ、自分のベッドに寝かせた。ぐったりとした瞼を丁寧に閉じさせ、舞は死体を抱き締めながら眠りについた。死体はやがて腐敗する。それを知りながら。
腐敗ガスにより膨らみ、肌は溶け、腐敗液が漏れ出る死体を、舞は観察し続けた。その変化は、自分が殺したという事を段々と舞に実感させていった。もう二度と戻ってこない。湧いてくるコバエや蛆虫を潰しながら、そう舞は感じた。だが、それで良い。腐ればもう勉に寄る害虫どもは触れられない。死に際も、死んだ後も、ずっと私の側に居続ける。それで良い。
二ヶ月後。とあるアパートの一室で、二ヶ月後と一週間前に腹部を刺されて殺されたであろう男子大学生の死体と、餓死した女子大学生の遺体が見付かった。白骨化した二つの遺体のうちの一つは、もう一つの遺体を抱き締めていたという。
コメント
1件
タイトルと本文のギャップがもう…すごかったです。舞の勉くんへの執着が、ストーキングから殺害、死体の処理、そして腐敗していく姿まで愛でる感じ、純愛とも狂愛とも言えない独特の温度がリアルでした。特に「死に際も死んだ後もずっと私の側に」って台詞がグッときた…歪だけど一貫してて、読み終わったあとしばらく放心しました。怖いけど、どこか美しい話をありがとうございます。