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処置は、すぐに終わった。でも、終わったのは“命”のほうで、彼女の感情は何ひとつ終わっていなかった。
麻酔が切れかけた頃、奥のほうで誰かの泣き声が聞こえた気がした。
それが自分のものだったのかどうか、今でも分からない。
看護師の足音、遠くの器具の金属音、誰かがカーテンを閉じる音。
世界が少しずつ、彼女から遠ざかっていくように感じた。
だけど、涙は出なかった。喉の奥がひりついて、呼吸だけがやけに苦しかった。
数時間後、ベッドに横たわる彼女の中には、もう誰もいなかった。
なのに、空っぽになったはずの身体が、やけに重かった。
軽くなったのは、体だけだった。
心は、どこにも置いてこれなかった。