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誰も知らない、高嶺の花の裏側2
第80話 〚想像しないためのルール〛(澪視点)
夜。
部屋の電気を消して、
澪はベッドの上で膝を抱えていた。
今日のことが、
何度も頭の中で再生される。
——転びそうになって、
——海翔に掴まれた手。
(……ただの偶然)
そう言い聞かせても、
心臓は否定する。
——あれは、
昨日“思い描いた距離”だった。
「……」
澪は、目を閉じる。
すると、
自然と“もしも”が浮かびそうになる。
(だめ)
すぐに、目を開けた。
——考えない、じゃ足りない。
——止める、だけじゃ追いつかない。
(……ルールが必要)
誰かに決められたものじゃない。
予知でも、運命でもない。
自分が、自分のために作る約束。
澪は、
胸に手を当てた。
心臓は、
静かに鼓動している。
(……聞いて)
澪は、
心の中で言葉を並べていく。
⸻
ひとつ目。
「人に触れる想像は、しない」
——手を繋ぐ。
——近づく。
——触れる。
それだけで、
現実は引き寄せられる。
(これは、禁止)
澪は、
はっきりそう決めた。
⸻
ふたつ目。
「感情が強い時は、本を読まない」
少女漫画。
恋の物語。
心が揺れている時に読むと、
想像が、暴走する。
(読みたい時は……落ち着いてから)
“好き”を否定するんじゃない。
“暴れる想像”だけを止める。
⸻
みっつ目。
「頭が痛くなったら、即中断」
少しの我慢。
少しの無理。
それが一番危ない。
(痛みは、警告)
無視しない。
誤魔化さない。
⸻
澪は、
小さく息を吐いた。
(……あと)
最後に、
一番大事なルール。
⸻
よっつ目。
「一人で抱え込まない」
想像が現実に触れた時。
ズレを感じた時。
——誰かに、話す。
(……海翔)
名前を思い浮かべただけで、
胸が少しだけ温かくなる。
でも、
これは“頼る”ためじゃない。
(……止めるため)
二人で、
現実に立つため。
⸻
澪は、
ベッドに仰向けになった。
天井を見つめながら、
ゆっくり呼吸をする。
心臓は、
さっきより落ち着いていた。
(……選べた)
未来を視たわけじゃない。
運命に従ったわけでもない。
——ただ、
“想像しない”という選択をした。
それだけ。
でも、
それは澪にとって、
大きな一歩だった。
「……大丈夫」
誰に言うでもなく、
小さく呟く。
想像は、
危険な力にもなる。
でも。
ルールを作れるなら、
澪はもう、流されない。
暗い部屋の中で、
澪の心臓は、静かに、確かに鳴っていた。
——これは、
自分を守るための音。