テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
先輩って、ほんと、わかりやすいですよね」
低くて、どこか意地悪な声。
その声が耳元に触れるたび、心臓がひどく跳ねる。
理沙は唇を噛み、壁にもたれて視線を逸らす。
でも、彼──後輩の相原は、その様子をまるで楽しむように、さらに一歩詰め寄ってきた。
「ほら、また逃げた」
「……逃げてない」
「じゃあ、俺の目を見てくださいよ」
視線を合わせた瞬間、ぞくりと背筋が震える。
その瞳には、からかいと興味が入り混じっていて──まるで彼女の反応ひとつひとつを、観察しているかのようだった。
「怒ってるんですか? それとも……期待してる?」
その言葉に、理沙は反射的に首を振った。だけど、心の奥のどこかが熱くなっているのを、自分でも止められなかった。
「顔、赤いですよ。もしかして、さっきからずっとゾクゾクしてる?」
「や、やめて……」
「ほんとは、好きなんですよね?こうされるの。先輩って、そういう人ですよね」
息が触れる距離。
強くもない、優しくもない──ただただ、自分を試すような声。
理沙の目尻には、涙がにじんでいた。悔しさか、戸惑いか、自分でもわからない。
でも、心のどこかが震えていた。
「このまま、もっと……」なんて、そんな感情すら、確かに芽生えているのを感じる。
「……ほら、今の顔。たまらないな」
耳元にそっと吐息がかかる。
その瞬間、胸の奥からまたひとつ、甘い痺れが広がっていった──。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!