俺は全然現役な訳ではないから、基本暇だった。
だが、もう暇なんて持て余してる時間が無い。
この能力を、完全に我が物にするんだ。
グッと拳を握りしめ、俺は気合いを入れ直した。
特訓、食事、中華との世間話、睡眠。そしてまた特訓。
そんな生活を繰り返す内に、中華がここにきて、丁度1週間が経った。
話によれば今日、中華は自国へ帰るらしい。
結局俺は肝心な時に勇気が出ずにこのドアを開けて中華と兄貴に会う事ができていない。
特訓の成果はと言うと、寝ている時のほぼ無意識の状態でも、もうスプーンは凍らない。何も、凍らないんだ。
そして今、俺は鍵の開いたドアの前に立ち尽くしている。
今、今、今!今動かないでどうするんだ。足、動けよ。なんで動かないんだよ。
焦りと緊張と。そんな感情のせいでか、足は半歩も進まない。
そんな時、後ろから声が聞こえた気がした。
———-俺が背中を押してやる。だから、安心して前へ進め。行け、炎露!———-
その力強い声を聞いた瞬間、さっきまで鉄の扉に思える程重かったドアが、雲のように軽く、簡単に動いた。
その声は完全に、兄さんの声だった。でも、今はそんな事を気にしてられなかった。
ガチャッと言う音と共にドアは軽々と開き、何かに弾かれたように俺の足は一歩、また一歩とスピードを上げて前へ進む。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!