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海の紅月くらげさん
「いただきます」
潤に貰ったラムネを開けると、カランとガラス玉が涼やかな音を立てる。
「ラムネの中に入ってるガラス玉ってとりたくなるよね」
「うん、そうだね。見える位置にあるのに、自分のものになりそうなのに……掴めそうで掴めない」
「もどかしいよね。私もよく奮闘したよ」
「本当、こんなに近くにいるのにね」
私のことを見つめる潤の視線に気づいて、息が止まりそうになる。切なげで、熱のこもった眼差し。
「無理矢理にでも手に入れたいなら、硝子を割ったりするしかないよね。でも、それはしたくないんだ。そんなことしたら傷つけちゃうかもしれないから」
「ラムネの話、だよね?」
ほんの少し、潤の表情が和らぐ。
「ゴミ、捨てにいってくるね」
意味深な笑みを浮かべて、潤が私から離れていった。
体温を冷やすようにラムネを握る。……あれはラムネの話では、ない気がした。
だけど、これ以上は触れてはいけないようにも思える。踏み出してしまえば、後戻りはできない。
カラン、カランとガラス玉が転がる。それをぼんやりと眺めていた。
「ましろん、そのガラス玉がほしいのか?」
「え」
いつのまにか武蔵先輩が近くに来ていて、私がラムネのガラス玉を見ていたから欲しいのだと思ったようだった。
「固いですよ、蓋」
普通の腕力では絶対無理だと思う。
「できるできる」
とりあえず飲み終わったラムネを武蔵先輩に渡した。すると、武蔵先輩はラムネを握り、涼しげな顔であっさり開ける。
「え……! ふ……っあははははっ!」
「なんだ、おかしかったか?」
「やっぱ武蔵先輩ってすごいです」
その時は開けられなくても、開けられるようになるときがくるかもしれない。そっとガラス瓶の蓋を開けてくれる人がいるかもしれない。
ガラス瓶を割らない方法だってある。
ガラス玉をうきうきした表情で武蔵先輩は眺めていて子どもみたい。
でも、多分私は五人の中で一番武蔵先輩の抱えているものを知らない。
この無邪気な人の願いも、想いも聞いたことがない。
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