恭介は昨日から気になりつつも、触れずに来ていたことがあった。
「あのさ、昨日のクラス会の時のことなんだけど……」
あいつのことを思い出させて、智絵里を不安な気持ちにさせるきがしたから、本当はこのことを話題に出したくなかった。
「俺が口にした言葉って覚えてる?」
「……何か言ったっけ?」
まぁあの騒動の中のセリフだし、覚えてなくても当然か。このままスルーしてしまおうか……。
『俺たち結婚するんです』
あいつから智絵里を守るために咄嗟に出た言葉だった。でも俺はそうなるつもりでいたから、違和感はなかった。
ただ智絵里には寝耳に水の話だったはず。もし俺の決意を伝えたとして、智絵里が受け入れてくれる可能性がどの程度なのか想像が出来ない。拒否される可能性もある。
恭介が黙っていると、智絵里は無表情のまま彼の鼻を思い切り摘んだ。
「いでっ!」
「言いたいことがあるならはっきり言えばいいでしょ?」
「だからってお前、鼻を摘むって……」
その時に智絵里の表情が不安そうなことに気が付いた。なんでこんな顔……そう思ってハッとする。
「まさか覚えてた……?」
智絵里は恭介の胸の上に倒れ込む。
「……あの言葉の本気度ってどの程度だったの?」
智絵里の背中をゆっくり撫でる。きっと覚えてないって勝手に思って、何も言わなかった。そっか、そのことで智絵里を不安にさせてたんだ……。
「本気だったよ。智絵里とこのまま結婚したいと思ってる」
「……じゃあちゃんと言葉にしてよ。思ってるだけじゃ何も伝わらないんだからね」
恭介は智絵里の肩を掴むと、顔が見えるように体から離す。しかし智絵里は下を向いたまま顔を上げようとしない。
「ごめんってば。だからこっち見てよ」
恭介に言われ、不機嫌そうに顔を上げたかと思うと、プイッとそっぽを向いてしまう。
子どもじゃないんだから……つい笑ってします。でもこれが智絵里らしさなんだよな。俺はもうこの沼から抜け出せなくなってる。
今かな……恭介はポケットに手を入れる。そして智絵里の手を取り甲にキスをした後、彼女の指にダイヤのついた指輪をはめる。
「智絵里、結婚しよう。俺がずっと智絵里を守る。言いたいことを言い合って、俺たちらしい幸せを見つけて行こう」
いつまでもこちらを見ようとしないが、智絵里の肩が震えているのを見て、恭介は力いっぱい抱きしめる。
「ねぇ、それってどっちの泣きなの? 嬉し泣き? 拒絶反応?」
恭介が笑いを堪えているのがわかり、智絵里は恥ずかしくなって彼の上から降りようとしたが、腰に腕を回され身動きが取れなくなる。
智絵里は観念したように恭介の首に腕を回すと、力いっぱい締め上げる。
「嬉しいからに決まってるでしょ!」
「く、苦しいんだけど……」
「私を不安にさせた分、たっぷり苦しむがいいわ」
「智絵里ってば……!」
その時にふと力が緩み、恭介の耳元に智絵里の吐息が降りかかる。
「恭介……もう一度言ってくれる?」
あぁ、もう本当にどうしようもない。
「……結婚しよう、智絵里」
「はい……お願いします……」
涙と笑顔を浮かべる智絵里に、恭介はそっとキスをする。
「私……いろいろ恭介に迷惑かけちゃうかもしれないよ……」
「大丈夫、俺がちゃんと支えるから」
「気分屋だし、かなり面倒くさい女だよ……」
「そんなこと知ってる。今更言われてもね」
「それに……んっ……」
智絵里の言葉を恭介が口付けるで塞ぐ。何度も舌が絡み、智絵里は何も考えられないくらい溶けていく。唇が離れた時には立っていられず、恭介の胸に倒れ込む。
「グチグチ言わなくても、智絵里の全部受け止める覚悟だから安心してよ」
「うん……」
恭介に抱えられ、智絵里は室内のベッドまで運ばれる。
「俺は智絵里の全てを愛してるよ。だからさ、余計なことは考えられないようにしてあげる」
恭介にキスに酔いながら、智絵里はそっと目を閉じた。
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