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それから、ぼくはリハビリという名の試練に立ち向かうことになった。まだ小学3年生のぼくには、それはまるで終わらない坂道みたいに思えた。
右手も、右足も、動かすたびにうまくいかなくて、すぐに泣きたくなった。
いや、ほんとうに泣いていた。
泣き虫だったから。
「できない」「無理だ」「もうやりたくない」って、何度も心の中で叫んでいた。
だけど、不思議なことが起きた。
何十回、何百回と繰り返すうちに、少しずつ体が変わってきた。
足に、手に、力が入る感覚が戻ってきたのだ。
ある日、リハビリの先生が言った。
「今日は一人で立ってみようか」
こわかった。でも、立った。ほんの数秒。
けれどその時、ぼくの中で何かがパチンと音を立てて弾けた。
「動く」って、こんなにすごいことなんだ。
それまでは、歩くことも、物をつかむことも、当たり前だった。
でも今は違う。一歩が奇跡だ。指一本が希望だ。
涙が出た。
今度は悔しさじゃなくて、うれしさの涙だった。
そのとき、ぼくは思った。
「僕も、誰かのためになる仕事がしたい」
先生のように、誰かの背中を押せる人になりたい。
「できるよ」って言ってあげられる人に、ぼくもなりたい。
半年間、病院にいた。
その間、学校にも行けず、友達にも会えなかったけど、
ぼくは「歩く」という目標に向かって、毎日がんばった。
そしてついに、病院を出る日。
ぎこちないけれど、自分の足で歩いた。
エレベーターまでの廊下が、いつもよりまぶしく感じた。
学校に戻ると、みんなが笑って迎えてくれた。
「おかえり!」って。
それだけで、心の中がぽかぽかになった。
たしかに、ぼくは前みたいには動けない。
走るのも遅いし、右手で鉛筆を持つこともできない。
でも――
「ぼくは、ぼくでいい」
右半身が動かなくても、ぼくは生きてる。
笑うことも、話すことも、誰かを元気にすることもできる。
不自由はあるけれど、不幸じゃない。
ぼくはぼくらしく、この体と一緒に、生きていく。
そしていつか、あの日のぼくみたいに泣いている誰かに、そっと言ってあげたい。
**「大丈夫、君にもできるよ」**って。