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夕餉を食べて風呂に入り、丈の長い軍服の上着を着る。
王都を守る騎士が着る軍服は青色だが、王都以外の領地に所属する騎士の軍服は全て黒色に統一されている。
青色の軍服を着る者は全てにおいて優れているとされ、羨望の的だ。そのせいか横柄な態度をとる勘違い野郎もいて、俺は好きではない。
上着に巻いたベルトに剣を差し、必要な物が入った袋を持って部屋を出た。石畳の廊下にブーツの底が当たる音が響く。
階段を降りると向こう側に大きな正面扉が見える。しかしその扉へは向かわずに、横へ逸れて小さな扉から外へ出た。そして厩舎へ行こうとして、向こう側から馬を引いた数人が近づいてくるのに気づいて足を止めた。
「ほほう、おまえは何を着ても似合うな」
「まあな。伯父上だってそうだろう」
「ははっ!俺はもう歳だから似合わん。リアム、くれぐれも気をつけてな」
「ああ。ゼノとジルと共に帰ってきたら、一度王城に戻るよ。父上と会うのは気が進まないけどさ」
「そうだな。それに最近は第一王妃の親族が何かにつけて口出しをしていると話に聞く。おまえがしばらく王城にいて、牽制した方がいい」
俺は愛馬の首を撫でながら、小さく息を吐く。
次期王は兄上と決まっているのに、兄上の後見者となる第一王妃の血縁の者達の動きが本当にうっとうしい。この際、父上に会った時に王位継承権を返上すると言ってしまおうか。しかしフィーの代わりとなる銀髪の女を見つけられなかった場合は、イヴァル帝国の女王としてのフィーに、結婚を申し込むかもしれない。そうなると王位継承権を持っていることが重要になるかもしれない。
「めんどくさいことだな」
俺は小さく呟くと、つややかな黒毛の愛馬にまたがった。
「では伯父上、行ってくる」
「ああ。急がなくていいから気をつけて行け。村について何事もなければそれでいい。だがもし危険だと感じたら、すぐに村を離れるんだぞ。ここに戻るのが難しければ、イヴァル帝国へ逃げろ」
「イヴァルへか。俺のことを嫌ってる男が一人いる。そいつが許可するかな」
「おまえ、王城には使者として来たイヴァル帝国の騎士が数人残っていると話してただろう。その者らを人質に交渉すればいい」
「あまり卑怯なことはしたくないんだよな」
「いいから、いざという時はそうしてくれ。おまえに何かあれば俺は生きていけないぞ」
「わかったよ。俺の命を一番に考えるから」
「よし。おまえ達、リアムを頼んだぞ」
「かしこまりました」と騎士が二人、右手を胸に当てて目を伏せる。
二人とも俺よりも少し年上くらいで、長身で鍛えられた身体つきだ。この城で一番二番に腕の立つ者をつけてくれたのだろう。
俺も彼らに「よろしく頼む」と声をかけると、「おまかせを」と力強く頷いた。
二回の休憩を挟み、まだ暗いうちに村に着いた。
前を走っていた騎士が馬の手綱を引いて速度を落とし、俺の隣に並ぶ。
「リアム様、この石垣に囲まれた一帯が、ゼノ様とジル様が調査に向かわれた村です」
「広くて立派な村だな。ユフィは来たことがあるのか?」
俺は隣の騎士にたずねる。
ユフィという名のこの騎士は、伯父上の城で何度か見かけたことがあった。とても凛々しい顔つきで、落ち着いた雰囲気をもってる。
「はい。数回来たことがあります」
「そうか。テラ、おまえは?」
「俺は初めてです。こことは正反対の西の出身なので」
「西か。なら気性が荒いのか?」
「俺はそんなことありません!とても優しいですっ!なっ、ユフィ?」
俺の後ろにいたもう一人の騎士のテラが、ユフィに向かって大きな声を出す。
テラとは初めて会うが、まだ少年ぽさが残る顔立ちで、ユフィと同じ年には見えない。
ユフィがテラを振り返り首を傾けた。
「そうか?おまえはよく鍛錬中に叫んでるじゃないか」
「あっ、あれは気合いを入れてるだけでっ。リアム様、俺は決して短気を起こして暴れたりしませんからっ」
「あははっ!そんなに必死になるってことは、すぐ怒んるだって言ってるようなもんだぞ?」
「違いますよぅ」
「わかったわかった。意地悪なことを言って悪かったよ。ユフィとテラ、俺はおまえ達を気に入った。後ろをまかせるから、 よろしく頼む」
「かしこまりました」
「おまかせください」
ユフィとテラが、胸に右手を当てて頭を下げる。
俺は笑って頷くと、ユフィが示した入口がある方角へと馬を進めた。
この村は、周囲をグルリと低い石垣で囲まれている。外部からの侵入者を防ぐためのものではなく、ただ単に村が所有する領地をわかりやすくするためのものらしい。
そして所々石垣が途切れた箇所がある。それが入口なんだそうだ。
ユフィが教えてくれた入口から中へ入った。
誰でも入れるようになっている入口だが、人にしろ動物にしろ何かが通れば村人全員に知れ渡るように魔法がかけられているらしい。
「すぐに村の誰かが来るでしょう」というユフィの言葉に頷いて、入ってすぐの場所で馬を降りて待っていたが、しばらくしても誰も来ない。
「おかしいですね。いつもならすぐに王都から来た警備の騎士か村人が駆けつけて来るのですが」
「ふむ…やはり元からある不審なこと以外にも、何かが起こったのかもしれないな」
「俺はここの村長を知ってます。彼の家に行ってみましょう」
「そうだな」
俺は頷くと、馬の手綱を引きながら村の中心を通る道を進んだ。