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三、スキルと初バトル
美愛と莉那――ミィアとリィナに呼び名を変えた二人は、平原をひたすら歩いていた。
服は、薄く白い布一枚。靴は無く、草履のような履物。
それを最初こそ気にしていたが、すぐに気にしなくなった。
二人は割と図太いらしい。
「喉かわかなくね……」
「ぜんぜん、おなかもすかないねぇ」
リィナは、普段からよく水を飲んでいた。
だから、数時間も歩き続けた今、水の一滴も欲しいと思わないが不思議でならなかった。
そしてミィアは良く食べる。
同じく、空腹を感じない事に違和感を覚えていた。
「いちおう飲んどく? 水」
「そーね一応ね。てか、手帳に女神の素体って書いてたじゃん? 私ら女神的な感じになったとか?」
「だねー……」
リィナの疑問には、あまり反応する気がなかったらしい。
小難しい事が苦手なミィアは、よく分からない事を考えるのを避ける傾向にある。
それを察したリィナは、それ以上は言わなかった。
「……水飲んでみる。ミィアの水」
「ほいほーい」
ミィアは軽い返事に続いて、「みず~」と言って水の球を出すと、リィナは手ですくってそれを飲んだ。
「おいしい! ミィアも飲んどき!」
互いの呼び方には少し慣れたらしい。
「じつは~……口の中に作って、こっそり飲んでたんだ~」
「器用か」
二人は歩きながら、スキルや武器を出してみたりして遊んでいた。
基本的に呪文のようなものは不要で、「どういう作用なのか」という概念を覚えるものがほとんどだった。
それが簡単なものもあれば、難しいものもある。
ミィアが出した水は、普段から触れているものだから簡単らしかった。
だが、リィナの光属性の初期スキルは、光線を出すというものだった。
ゲームをしないリィナにとって、それは「お手本のない初心者のダンス練習」と形容している。
「むずいわ」
光線は出るようになったものの、方向がいまいち定まらない。
「リィナはFPSもやったことないもんねぇ」
「なんそれ?」
「とにかく、狙って撃つんだよ」
狙うものがない平原で、何を狙えば正解に近付くのかが分からない。
そう思って、リィナは正直飽きていた。
そんな時、もうすぐ林に差し掛かろうという所で、ミィアが初めての敵を発見した。
「あ~! 第一スライムはっけ~ん!」
直径一メートルはある、巨大なゼリー。
それは大きな、水の塊だった。
「第一村人みたくいうな」
リィナのツッコミを無視して、ミィアは中空から盾を出した。
円形の、上半身が隠れるくらいのラウンドシールド。
「リィナも杖出して!」
言われるままに、同じように中空から金属製の杖を出した。
身の丈半分くらいの、木の枝を模したような形状の重い杖。
「やっぱこれ、鈍器じゃね……?」
「それで殴って!」
「は?」
リィナは先刻、「殴れるか」と聞かれて、「無理」だと答えたはずだった。
「私が盾でチャージするから、それでぶん殴って!」
「え? どゆこと?」
おそらく、チャージの意味が伝わっていないのだろう。
だが、リィナの疑問を無視して、ミィアは先制攻撃よろしく盾を構え、そのままスライムに突進した。
ばちょっ。という水っぽい音を立てて、彼女はスライムにぶち当たる。
大して効いていないように見えるが、体重を掛けてその動きを封じているように見える。
「ほらほら、今! とりあえず殴って!」
「え、え、マ?」
リィナの腰の入っていないぶん殴り攻撃は、スライムの体を一瞬凹ませる事が出来たものの、すぐにぼよんと弾かれた。
「ぬお~。無理ムリ」
「やっぱダメかぁ」
ミィアは、まるでバランスボールで弾みをつけるように、一度スライムを押し付けてから跳ね返りを利用して離れた。
「そりゃダメくね?」
殴って潰すには、大き過ぎだろうとリィナが思っていたことだった。
「じゃあ、やっぱリィナの光線使って――」
その指示を出そうとした所で、スライムから触手的なものがしゅるっと飛び出し、ミィアの右腕に絡みつく。
「――んげ!」
それはスルスルと絡み付きながら腕を伸ばし、ミィアの胸元まで滑り込んでいく。
「ひああああああああ!」
薄く白い布一枚しか着けていないのが仇となり、ミィアは乳房に絡むその触手に、無抵抗にもにもにと揉まれてしまったらしい。
「み、ミィア! ど、ど、どうしよう? どうしたらいい?」
その触手を外そうにも、ヌルスベっとしていて上手く掴めない。
「いやあああ! きもちわるいいいい! こうせん! 光線つかってえええ!」
半ばパニックになりつつも、ミィアは何とか指示を出した。
リィナは光線と聞いて、その触手に撃とうかと迷った結果それは無理だと判断し――。
「――レイ!」
スキル表に一応書かれていたその名前を叫び、スライム本体目掛けて指を差した。
まばゆい光が一束の直線となり、スライムを、その向こう側まで瞬時に貫く。
ほどなくしてスライムはドロっと溶け、ミィアに絡んで揉んでいた触手も、トロリと液状になった。
「こっわ……レーザービームじゃん」
「リィナぁ……きもちわるいよぉ……」
ミィアの右腕と、その胸の辺りの布がトロトロの半液体でべっちょりとしている。
無論、薄い布は透けて、形の良い胸に張り付いて丸見え状態に。
「あ~あ。これ、もう脱いで洗ったら?」
「こんな原っぱでぇ?」
「誰も居ないし、しゃーないっしょ」
涙を浮かべながら、ミィアは薄い布をしぶしぶと脱いだ。
脱ぐと余計に、そのペラペラな白い布が、なんと頼りないものかと痛感する。
「なんなん、このぺっらい布。ほぼ全裸じゃん」
気色悪い事をされたショックと、原っぱで全裸になっている何とも言えない悲しみと怒りを、その言葉に込めていた。
「どっか人の居るとこ探してさ。服買お?」
リィナは慰めるようにそう言ったが、お金なんて持っていないなと思った。
「……お金ないくない?」
ミィアも、その辺りはしっかり頭が回っていたらしい。
「……ないね」
女神に、お金もしっかり要求しておけば良かったと、ミィアは滅茶苦茶後悔した。
しかし、それを思うなら本来は、服をどうにかしろと要求しておくべきだったのだが。
スキルだMMOだと、テンションが上がって失念していたのだ。
軽く絶望しながら、ミィアは水を出して布を洗った。
体を洗うには少し冷たかったようだが、四の五の言っていられないのでそのヌルっとした液体を、我慢して洗い流している。
そして思った。
「そういえばさ。女神せんせぇ、なんか幸せになってくれ~とか、言ってなかったっけ」
そのミィアの言葉に、リィナもそれを聞いた気がするなと思った。
「確かに……。でも、幸せとか漠然とし過ぎくない? お金持ちとか?」
「私は今……このぬるぬるが、早く取れることカナ……」
ミィアは漫然とした不幸感を味わっていたからこそ、思い出したのだった。
それが見て取れたから、リィナは気分転換にと、ふとした思い付きでこう言った。
「よくさ、結婚って幸せなイメージあるよね」
「あ~ね……」
ミィアの反応は薄いが、それはそれとして、納得はしたらしかった。
そして少し考えた後に、言葉を続けた。
「んじゃさ……結婚相手さがそ? どうせこの世界で、どうやって生きてくか不安だらけだし」
この子も不安を感じていたのかと、リィナは少し感心した。
だが、それを言うと今はさすがにスネそうだと思い、話に乗った。
「玉の輿か! いいじゃん!」
元の世界では、玉の輿など縁遠いものだと思って考えた事もない二人だったが……。
美少女転生してスキルも使える今、ここでなら可能かもしれないと考えたのだろう。
「んじゃあ……。コン活しよ! コン活!」
ミィアは、聞き慣れた「音」を使いたがるクセがある。
特に、自分達がその適齢になった頃には、使われていないだろうとあえて使った。
それだけでも、なんだか楽しい気分になれるくらいには、純粋なのが彼女だった。
「あいあい。それじゃ人の居るとこさがそー」
「お~!」
ぬるぬるを流し終わったのもあってか、ミィアの機嫌も直っていた。