あの日から、ちゃんと恋人。隣にいる。
手も繋ぐ。
「岩ちゃん」
って呼ばれる。
でも。
どこか、変だ。
及川徹 が、妙に静かだ。
前みたいに女子と話さない。
笑わないわけじゃない。
でも、どこか力が抜けてる。
放課後。
体育館裏。
「今日さ」
及川が小さく言う。
「例の子、見かけた」
胸が少しざわつく。
「うん」
「笑ってた」
間。
「岩ちゃんと俺、見て」
視線が下がる。
「後悔してないかな」
その一言で、全部分かる。
選ばれた側になった重み。
奪われる恐怖。
「……バカ」
思わず言う。
でも及川は笑わない。
「俺さ」
ぽつり。
「岩ちゃんが、やっぱ安心の方が良かったって思ったらどうしよって」
喉が詰まる。
「俺は、失う側になったことなかった」
弱い声。
「初めてなんだよ」
拳が震えてる。
余裕の王様だったくせに。
今は、ただの不安な彼氏。
「俺、ちゃんと好き?」
真顔。
まっすぐ。
軽さゼロ。
その問いが痛い。
一歩近づく。
胸ぐら掴む。
「お前さ」
顔を近づける。
「俺が安心で選ぶと思ってんのか」
及川の目が揺れる。
「俺は」
低く言う。
「お前が怖ぇから選んだ」
一瞬、息が止まる。
「傷つく覚悟で選んだ」
言葉を噛み締める。
「それを疑うなら、ぶっ飛ばす」
本気で。
及川の目に、じわっと水が溜まる。
「……ごめん」
弱い声。
「嬉しくて」
喉が震える。
「怖い」
今まで見せなかった顔。
抱き寄せる。
勢いで。
「離れねぇよ」
背中を強く叩く。
「お前が逃げなきゃな」
及川が、ぎゅっと抱き返してくる。
少し強い。
「俺、重い?」
小さく聞く。
「今さら」
即答。
鼻を鳴らす。
「重いくらいでちょうどいい」
及川が、泣きそうに笑う。
「岩ちゃん、ずるい」
「うるせぇ」
でも。
分かってる。
これからも、不安は消えない。
過去は消えない。
でも。
選ばれた重さごと、抱えていく。
それが恋人。






