テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
空はどこまでも高く、澄み渡っている。
豪華な式場の控室
鏡の中に立つ私は、あの試着室で徹さんと選んだ、最高に美しい純白のドレスに身を包んでいた。
「田中さん……いえ、もう『高橋さん』ね」
美佐子さんが、少し潤んだ瞳でブーケを届けてくれた。
かつての「お局様」は、今では私の人生の恩人であり、大切な友人だ。
チャペルの重厚な扉が開く。
パイプオルガンの音色が響き渡る中、父の腕に支えられて一歩を踏み出した。
その先に、タキシードを完璧に着こなした徹さんが立っている。
彼と視線が合った瞬間、私の心臓はあの日
初めて彼に「彼女の『フリ』をしてほしい」と言われた時と同じくらい激しく高鳴った。
披露宴の終盤
会場の照明が少し落ち、新郎のスピーチが始まった。
マイクの前に立った徹さんは
いつも通りの堂々とした佇まいだったけれど、その手はわずかに震えているように見えた。
「本日は、私たちのために集まっていただき、心より感謝申し上げます」
彼は一度言葉を切ると、隣に座る私を真っ直ぐに見つめた。
「正直に申し上げます。……私たちの始まりは、嘘でした。私の独りよがりな都合で、彼女をこの複雑な世界に巻き込んでしまった。…でも、彼女と過ごす一日一日が、私の冷え切っていた人生を温めてくれました。……結衣」
彼が公の場で私の名前を呼ぶ。
会場が静まり返る中、徹さんの声が、感情を隠しきれずに震えた。
「不器用な俺を信じて、隣に立ち続けてくれてありがとう。……俺は、君に相応しい男になるために、今日まで生きてきたのだと思います。……結衣を愛しています。俺の一生涯をかけて、この愛を証明し続けるとここに約束します」
徹さんの瞳から、一筋の涙が零れ落ちた。
クールで冷徹な高橋専務の、初めて見せる剥き出しの涙。
ゲスト席からはすすり泣く声と、温かな拍手が沸き起こった。
おじい様も、最前列で深く頷きながらハンカチで目元を拭っている。
「……私も、愛しています。徹さん」
私は彼の震える手を、テーブルの下でぎゅっと握り返した。
結びの儀式。
バージンロードの途中で交わされる、指輪の交換。
差し出された私の左手の薬指に、彼の手によって「本物の指輪」が滑り込む。
一年前のネックレスに隠していたあの指輪よりも
今のそれは、私たちの絆と同じくらい重く、眩い輝きを放っていた。
「……やっと、本当に俺の奥さんだね」
指輪をはめ終えた彼が、私の耳元でそう囁いた。
偽りから始まった物語が
今、何よりも純粋な「真実」に書き換えられた瞬間だった。
私たちは溢れる祝福のシャワーを浴びながら、未来へと続く扉へと踏み出したのだ。