「勢いで飛び出してきちゃったけど……」
大妖精の間に着くとそこにはそれなりの人だかりが出来上がっていた。やっぱりみんな人間さんを追い出したいんだ……。一瞬しか見てないけどあの人たちは優しそうな人だし、何よりアリサちゃんやミクナちゃんが助けられたから悪い人ではないと思うんだけど、でも……。それ以上に今の私は「里内最強」ってかっこいい響きに惹かれてる。これを手に入れればお姉ちゃんもきっと私のこと見直してくれるはず。いつまでもお姉ちゃんに頼ってばっかりの子だって思われなくなる。だから絶対……。
そう思案していると大妖精が顔を出し里内に案内を出した例の件に関して再度説明を始める。説明の内容はミクナちゃんが話していたものとほとんど変わりはなかった。戦闘形式は2VS2で行い、両者が参ったと言うか実戦の場合死んでいたかで勝敗を決めるという説明だった。実戦での死というのは簡単に言えば喉元にナイフを突きつけられているというような状況だと私は理解してる。
ここで一つ問題なのは私は一人で飛び出してきてしまったということだ。これの何が問題なのかというと、対戦形式は2VS2という形式で戦うことになっておりこの場にいる者たちはほとんどが相方を連れてきてるというのに私は一人……。もちろん同じような人もいるだろうが、即席で作られたコンビは長い付き合いのあるコンビと比べて圧倒的に劣る。これでは里内最強以前に普通の模擬戦ですら勝てるか怪しいだろう。
「はぁ……。一回戻ってお姉ちゃんを呼んでくる……。いや、でもお姉ちゃんは別に乗り気じゃないからやっぱり即席でも……。」
現状を整理し肩をすぼめていると後ろから自分を呼ぶ声と共に肩に手を置かれる。驚き後ろを振り向くとそこには息を切らしたエメルの姿があった。
「お、お姉ちゃん!?」
「はぁ……はぁ……。か、勝手に先走るなよアホ妹が……。」
「だ、だって里内最強っていう肩書かっこいいし……。」
「気持ちは分かるけど私の意見ももう少しは聞く耳を持ってくれよな。」
それから大妖精の話が終わり、里内最強を決めるため場所を移すという説明があり大妖精のあとを皆が付いていく。その列にエメルたちもついていくが予想通り大人たちからは冷たい視線を浴びせられる。そうなる未来はもちろん予想できた。なぜかこの里の大人たちは子供と距離を置いているような雰囲気が感じられる。それは別に嫌な意味ではなくどちらかと言えば大切にはされている方ではあるだろうけど、過干渉にはならないように距離を置いているそんな感じだ。なのにどことなく過保護な雰囲気も感じられる。だからなのかこの場にいる私たちは場違いなのだろう。よそから来た人間を追い出すのは大人の仕事で子供は知らなくてもいいことみたいな雰囲気を感じている。それが過保護であり過干渉にならないようにしているのだろう。私はそれが気に入らない。子供でも大人でも里の一員なのは変わらないのに子供は嫌なものを見なくてもいいなんてそんなおかしい。だから私はこの里内最強という称号を欲した。それがかっこいいからという理由でもあるし、この里に伝わる人間は悪という考えもその真実を知りたいという意志でもある。だから私はこうして冷たい目線を送られても前に進む。お姉ちゃんには申し訳ないけど私のやりたいことに勝手ながら協力してもらおう。
我が妹ながら行動力の高さには驚かされた。正直な話私だってこの対戦に出たかった。里内最強の称号はどうでもいいが、大妖精様の手助けができるなら私は2つ返事で返していた。しかし、こういった出来事には必ず大人がエントリーし子供は常に蚊帳の外。ずっとそうだから私はエントリーしたところであしらわれる、そう思ってこの件からは手を引こうと思った。けど、ラルドは違った。冷たい目線を浴びせられても、罵詈雑言が飛んでこようとも彼女は前に進んでいた。私とは違う性格だからこそそんな選択ができたのだろう。変に大人ぶっている私では周りの環境ばかり気にして前に進めないが、ラルドは年相応に興味ある事やりたいことに全力だ。そこに周りの視線なんて言葉は関係ない。自分がやりたいからやる。それができる彼女を私は時々うらやましく思う。魔法の腕前は確かに私の方が上かもしれないがこういった行動ができる点は彼女に軍配が上がるだろう。思いついたことをすぐに行動できるというのは戦闘においても大事だ。思いつきだから博打であるがその分相手の意表を突くことができる。私は思いついてもリスクを考えてやめてしまい、定石の行動ばかりしてしまう。これがよくない。
これはいい機会かもしれない。今ここで私とラルドの力を見せれば大人たちの意見も変わるだろう。幸運なことに今から向かう場所は恐らく当日も使うであろう闘技場だ。更に、この里内最強を判定するのは大妖精様ご本人。子供だからと手を抜けば大妖精様にお叱りを受けるのは間違いないだろう。そんな場で私らが活躍すれば公正さを保ち、なおかつ確実に大人たちに子供の可能性を見せることができる。そう考えると俄然やる気が出てきた。私の私欲ではあるがラルドには里の大人たちに子供の可能性を見せるためのきっかけづくりの手伝いをしてもらうとしよう。
大妖精の後をついていくと予想通り闘技場のような場所にやってきた。フィールドの感じは白いタイルがいくつも並べられてそれらが正方形の形を作っていた。広さは大体10数メートルくらいだろうか。戦うにはまぁ狭くはないと思う広さで遮蔽物などはなく正々堂々とやる以外あまり策は出てこない。
闘技場の造りに対してどう戦闘を行うか考えていると、大妖精が壇上に上がり着いてきた里の妖精たちに声をかける。
「ここが当日も使う闘技場です。公正を保つために仕掛けは何もございません。正々堂々と戦っていただきます。早速ですがここで戦闘をしてもらうのですが我こそはという方はいらっしゃいますか?」
その発言に先ほどまでの威勢はどこに行ったのかと言いたくなるほど大人たちは辺りを見て様子をうかがている。最初に行くのは勇気がいるというのは分かるがあれほどまで殺気立っていたくせにいざやるとなると弱気になりだす辺りが鎖国してきた里の大人たちだなと感じる。まぁ、今回はその弱気な感じを利用させてもらうことにしよう。
「ラルド、私らで先陣切って行くか?」
「もちろん!私もお姉ちゃんにそれ言おうと思ってたからね!!」
二人意気投合すると大人たちの間を通って闘技場にと駆け寄る。
「大妖精様!私達が一番最初に戦う!!」
「あらあら、ラルドちゃんにエメルちゃんじゃないですか。本当にこの戦いに参加するの?」
「人間を追い出すのに大人も子供も関係ないでしょ?だってこれ里の問題だしね。(実際はこの里に人間が居ようが居まいがどうでもいいんだけど……。)」
「……。分かりました。一応確認ですがルールは把握してますね?」
「とにかく相手を倒すこと!」
「馬鹿ラルド……。相手に降参と言わせるか実戦では死んでいるような状況を作り出すこと、ですよね?」
「えぇ、その通りよ。それと、これは遊びじゃないからみんな本気で来るはず。それも覚悟してね?」
「全然問題ない。むしろそうじゃないと面白くないし、この問題に対して真剣に考えてない証拠になる。」
「……。そうですね。では、最後に質問はありますか?」
「武器の使用はありなんですよね?」
「えぇ。もちろん使わなくてもいいです。私らは魔法の方がうまく使えるのですから。」
「なら、私からも一つ質問。」
「どうぞエメルちゃん。」
「複数の武器の所持は可能ですか?」
「それはつまり、弓とナイフみたいなことですかね?」
「そう。それができるかだけ確認したくて。」
「もちろん可能ですよ。里の為に戦うのですから。」
「わかった。ありがとう大妖精様。」
「支給する武器はさすがに真剣などではなく模擬戦ということで木材の物を使用させていただきますがね。」
「うん。ありがとう大妖精様。」
お礼を言いエメルのもとに向かい策を立てる。
「エメル。さっきの話聞いたな?」
「武器の複数持ちがありって話?」
「そうだ。それでお互い短剣と弓を担ぐことにするぞ。」
「で、でも私は弓しかうまく使えないしお姉ちゃんも弓はあんまり使えないんじゃ……。」
「いいからこの二つを持つんだ。これができるのは恐らく私らかアリサとミクナの姉妹だけだ。」
「そ、そうなの?」
「詳しい内容はあとで教えてあげるから今は私に騙されたと思って担いでくれ。」
「……。うん!お姉ちゃんなんだかんだ言ってこういう時は頭回るからね。」
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!