当然、そうあるべき事。
自然でごく普通であること。
なんか、もやもやする。
多分、昔を思い出すから。
なんか、モヤモヤする。
…多分、ずっと苦しかったから。
俺は、いい子やないといけなかった。
でも、俺では当分無理で…。
そうなれなかった。
お母さん、めさ厳しい人やった。
「なんで、当たり前のことができないの?なんで、みんなと同じことができないの?」
いつから言われ始めたんやっけ。
当たり前のことができなくて、’みんな“の中に俺は居らんのやって。
いつ気付いたんやっけ。
「あのな、お母さん……あのな…」
いつから俺の声、全然届かなくなったんやっけ。
俺の言葉、俺の考え、全部価値ないみたい。
俺の、生きる価値は?
…俺は、生きてて誰かが救われる?
…認められない、そんな人生やったから。
___昔。
mb「義盟は体育祭の日、お父さんとお母さんのどっちが見にくるん?」
夏休みが明けた9月のある日、クラスメイトの男子にそんなことを突然聞かれた。
多分、どっちも来ないでと正直に答えた。
その日の帰りの会で突然、その子とその子の友達が運動会の日の昼ごはんは
クラス全員で教室で食べようと提案した。
『中学校最後の体育祭なんやからクラスみんなで食べた方がええと思うんよ。』
『おうちの人との弁当もええけど、やっぱり友達と食べる方が美味いやろ!』
『それに、家族が体育祭に来れへん人だっているかもしれへんし、
そう言う奴らだけで教室で食べるのってなんか嫌やん。』
そうやって次々とクラスの男子が提案に乗っていき、
一部の男子も「別に家の人となんて食いたくあらへんから」と賛同しようとしていた。
それを聞いた同じクラスの山田が何か言う前に、俺は自分の机を両手で叩いて立ち上がっていた。
家族が体育祭に来れない人だっているかもしれない。
俺の両親が体育祭に来ない。
俺は一人でご飯を食う。
それを知ったから、みんなで話し合ったんやろか。
義盟が可哀想やから、帰りの会で対案しよや、と。
きっとそれは正しいことなんだと思う。
優しい行為でもあると思う。
可哀想な人を気遣う、とてもいい行為。
クラス中の人間が、大きな音を立てて立ち上がった俺を見ていた。
机の横にかけてあった鞄を背負い、何も言わず、駆け足で教室を飛び出した。
後ろから、山田の声もした。
振り返らず立ち止まらず昇降口までおり、上履きから靴へ履き替えて学校を飛び出した。
体育祭なんて、休んでまおう。
…でも、それはそれで
「お母さんもお父さんも来てくれなくて体育祭をズル休みした可哀想な人」
になってまうんやろか。
なら、一体どうしろっつうんや。
足を動かすたびに鞄が揺れて、まっすぐ綺麗に走れない。
家までもう少しというところ、「義盟くん!」と名前を呼ばれた。
嫌な予感がして振り返ると、自転車に乗った山田のお母さんが手を振っていた。
ymm「学校、もう終わったんやね。あれ、晴太はおらへんの?」
km「……一人できたんで」
自転車で近づいてきた山田のお母さんは、
はっと思い出したように自転車の前籠から手提げ袋を取り出した。
ymm「義盟くん、青梗菜持っていかん?」
km「え?」
先程、なんとかさんの畑の前を通りかかったらたくさんもらえたのだという。
半分持っていかない?と、何の返事もしていないのに、
手提げ袋に土のついた青梗菜をうつし始めた。
ymm「はい、とれたて青梗菜やで。
お母さんに野菜炒めにでもしてもらってな」
俺の両手に、手提げ袋を押し付けてくる。
いらんわ、こんなん。
欲しくもあらへんのにもらったって迷惑なだけって、なんで分からんの。
…そう言えたらええんに。
俺の手は手提げ袋を受け取り、「ありがとうございます」と勝手に口が動いてしまう。
ずっと、こうなんやろか。
自分の言いたいことが言えなくて、ただ相手に合わせるような発言をしてしまう。
ずっと、そんな俺なんやろか。
当たり前のわからない、そんな変な人間なんやろか。
ずっとずっと、高校生になっても大人になっても、俺はこうなんやろか。
こうでないと,行けないんやろか。
相手に,合わせるなんて
ymm「なぁ義盟くん。
今度の体育祭、おうちの人はくるん?」
km「…来ないですよ、親なんか」
首を横に振ると、山田お母さんは、クラスメイトの男子と同じ顔をした。
そして、言うんや。
ymm「じゃあ、お弁当、うちと一緒に食べんか?
なんならおばちゃん、義盟くんのお弁当も作ってくで?」
大丈夫。
晴太の分もどうせ作るんやから、一人増えたって一緒やで。
そう続ける山田のお母さんの言葉に、なんとか声を絞り出した。
km「大丈夫です」
本当に?とこちらを憐れむように微笑む山田のお母さんに俺は「大丈夫です」と繰り返した。
その微笑みですら、薄ら笑いに見えて仕方がなかった。
km「お弁当、お母さんが作ってくれなかったら自分で作るんで。
食べるのだって、別に一人で平気なんでッ…w」
それじゃあ、さようなら。
青梗菜ありがとうございました。
そう言おうとして山田のお母さんにお辞儀をしようとしたら、
遠くから聴きなれた声が聞こえてきた。
特徴的な格好、弾く声、明るい元気な身振り手振り。
山田やった。
さっき逃げ出してしまった自分が醜く思えて。
ずっと一緒にいてくれた山田でさえ、
助けてくれようとしてくれたのにそれを裏切って自ら逃げて。
俺は当たり前のことができなくて。
ずっと家族に言われてた。
お母さんもお父さんも喧嘩してばっかり。
そんな日常やった。
自分も当たり前が何かわからなくて、
そんな環境で育ったからみんながしてることが普通にできなくて。
反論も、否定もできなかった。
裏切りしかできなかった。
悲しませることしか出来なかった。
だから,山田に見せる顔なんてない。
俺は俺を裏切って、違う意見へと差し替えてる。
山田だって、裏切っちゃったんやから。
ym「こむ____」
その声を聞く前に、俺の足はもう動いていた。
お前は山田を裏切った。もう合わせる顔なんてないで。
そう自分に言い聞かせて、頑張って、振り絞って走った。
自分で、何してるんだろう、そう密かに思った。
自転車で追いかけてきたら、どうしようとか思ったけどその気配はなかった。
きっと、山田のお母さんは俺の背中を見ている。
強がる可哀想な、いたいけな男を見る目で。
きっと、山田は俺の背中を見ている。
だから、絶対に振り返らなかった。
____
誰もいない家の鍵を開けて、青梗菜の入った手提げ袋を食卓の上に投げた。
冷蔵庫を開けて牛乳パックを取り出し、直接口をつけて飲んだ。
わざわざコップを出すのも煩わしい。
随分前にクラスメイトが持ってきたいちぢくは、誰一人手をつけることなく腐り始めていた。
腐ったものを冷蔵庫に入れっぱなしにしているのをお父さんが見つけたら絶対に小言をこぼす。
それをお母さんが聞いてしまったら、また喧嘩になる。
いちぢくをゴミ箱に捨て、空いたスペースに青梗菜を手提げごと入れようとして、
自分の言葉を思い返した。
お弁当、お母さんが作ってくれなかったら自分で作るんで。
食べるのだって、別に一人で平気なんでッ…w
お弁当なんてどうってことない。
家ではしょっちゅう一人で食事しているんだから、ひとりぼっちなんてどうってことない。
でも、やっぱ…悲しい。
俺だけ家族が離れていて、みんな、みんな俺のことを
「可哀想」「みんなと違う」
そう言いたげな視線で見つめてくる。
それがどれだけ辛いことなのか、あいつらにはわからんやろな…w
みんなと話が合わなくて,授業中に気を使わせてしまったことだってある。
そんな俺が,生きててええんかな?
…生きてる意味なんてあるんかな…
涙が出そうな時,ピンポンと玄関のチャイムの音がした。
目を少し擦り、玄関へと向かう。
ガチャッ
km「…あ」
ym「はぁッッ…は、ぁ…こむぎッッ…!!!」
目の前には、必死に走ってきたかのように息を切らした山田。
km「ッ……なんでやッッ……?」
ym「なんでも何も、お前が、急に走るからッッ……!!
とりあえず中入れろ!!」
山田の勢いに押され、つい中に入れてしまう。
山田は中に入ると、冷蔵庫の中から先程山田のお母さんにもらった青梗菜を出した。
ym「…いつもごめんな、山田の母が」
km「…いや、別にええで…
俺がただ、一人で食ってるだけやしな…w」
ym「……」
そう、山田が静かに言った。
km「……え?突然どしたん?」
ym「こむぎはなんか、夢とかないん、?」
km「……俺の、夢……?」
…夢,なんてない。
こんな俺が、夢なんて持っちゃいけないんだから。
自分の人生だって無駄だって言うのに、自分でいらないって分かってるのに……
なんで、俺は『生きたい』って思ってまうんやッ……??
km「ッッ…………」
ym「は、え、はッ!?こむぎ!?」
km「すまんッ、すまんなぁ山田ッッ…俺馬鹿やから…」
ym「は、は?」
km「俺、山田とおって楽しかったでッッ…ずっと、ずっと楽しかったんよ…
相棒で、親友ですっごい嬉しかった…。
ym「……!!」
km「俺は生きててええんかな、ええん、かなぁッッ……??」
コメント
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こむさんが生きているから救われたって人やっておるんや、それに、山田さんだって、こむさんのこと親友って言ってるんや、それに、生きてちゃダメなら山田さんだってこむさんと友達にすらならなかったでしょうね(言い方きついかな、、、)
生きてていいんですよ、生きちゃダメなんて人、この世に居ないんですよ、、(๑o̴̶̷᷄﹏o̴̶̷᷄๑)