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次の日。凛は小春のクラスに乗り込み、名前に出た内藤さんとその友人に問い詰めた。
凛は小春のことになると人一倍ムキになり、その後の人間関係や復讐されるリスクなど考えず、突き進む性格だった。
しかし捨て身の凛に返ってきたのは、小春の自作自演ではないかという言葉だった。
確かに、確定的ないじめの証拠はなく、クラスのグループメンバーに入らなかったのは小春の意思だと言われたら、それを証明出来ない。机の落書きは小春により消されているし、あっても内藤さん達が書いた証拠すらない。ぶつかられた、掃除当番の押し付けたも同様。
そして何より、クラスの誰に聞いても、全員口を開いてくれなかった。
皆、怖いのだろう。そこで告げ口したら、次は自分が標的になる。
それだけではない。理不尽ないじめに加担してしまった、その罪悪感から。
これ以上は水掛け論になると悟った凛は、もし本当にいじめているなら辞めて欲しいと頼み込んだ。
しかし、その約束は守られなかった。
凛に大丈夫だと宥められた小春は、二学期から学校に通い出した。出席日数がギリギリ足りるからと、小春は気持ちを奮い立たせて学校に通い、昼休みは凛が小春のクラスに遊びに行く。小春を安心させる為と、クラス内で牽制を張る為。
次何かしたら、クラスのいじめを公にする。クラス内には凛と同じ陸上部の部員もいて、その効果は絶大だった。
しかし、そこまでしても内藤さん達は、隙をついて小春に嫌がらせをしてきて。凛にチクったと、今までとは比にならないほどの陰湿ないじめを始めた。
……人に見られたくない写真を撮られ、それを学校中にバラまくと脅されたらしい。
だから、逃げられなくて。学校も休めなくて。凛にも相談出来なくて。
あの日。公園の多目的トイレに呼び出されても拒否出来なくて、いじめなんて言葉では済まされないことを受けた。
このまま脅され続けたら、小春は何をするか分からない。
だから俺は、人に言えない秘密を抱えた。
……だが、この暴露は俺じゃない──。
「佐伯さん、ごめんなさい!」
床に膝を付いて座り込み、頭を深々と下げたのは小田くんだった。
「南を、こうさせたのは俺だ! 中学から付き合ってたのに、俺が佐伯さんを……。佐伯さんのことを好きになったのが悪かったんだ!」
小田くんの全身は震え、息は途切れ、途切れになる。掠れた声から泣いているのだと、分かり。それほどの想いだったと察せられる。
突然の告白に凛は驚く様子もなく、小田くんの方に一瞬顔を向け、目を伏せる。
翔も同様で、二人ともこのゲームが始まり、気付いたようだった。
……知らなかったのは好意を抱かれていた本人だけ。そうゆうことだったらしい。
だが、やっと打ち明けられた想いも、泣き喚く小春には届かなかったようだった。
「……だから、あんたはバカだって言ってるの! この女の本性が分からないの! この音声だってわざと学校に来て、私の神経逆撫でて、過激なことをさせて証拠を取ったんだから! 私は罠にかけられたのー!」
怒声を飛ばし、小春に詰め寄る内藤さんを俺は力ずくで止めるが。その力はやはり強く、振り払われて倒れてしまった。
内藤さんが、小春の手を握っていた凛の手を捻り退ける。無抵抗の小春は俯いたまま手をダランとさせ、死の指輪に手をかけられても抵抗しなかった。
打ち付けた腰に電気が走り、意思と反して動いてくれない体。
小田くんが、「もう止めてくれ」と叫び内藤さんの手首を掴むが、もう聞き入れず俺同様に突き飛ばす。
翔は、もう静止は不可能だと思ったようで、凛の手を掴み小春から離れさせようとする。このままでは確実に、凛も爆発に巻き込まれる状況だった。
しかし翔の手を振り払った凛は、危険を顧みず近付いていき手を振り上げたかと思えば、パシンと音が響いた。
凛が内藤さんの頬を思い切り叩き、怯んだ隙に小春の外れ掛けていた指輪を押し込んだ。
「やっぱり、あんた達がいじめていたんじゃない! 何が自作自演よ! 最低っ!」
そのまま凛は内藤さんに詰め寄り、容赦なく頭を叩く。
揉み合いになりながら、バシン、バシンと嫌な音が響く中。
「爆発に巻き込まれたら、どうすんだ!」と叫んだ翔により、凛は内藤さんより引き剥がされる。
「離して! こいつだけは、許せない! 私が……!」
殺してやる。
おそらく、その言葉を口にしようとしたのだろう。
しかし、それを止めたのは翔ではない。
腫れ上がった凛の手を掴んだのは、小春だった。
出てきた声は言葉にならず、しゃくり上げる声と共に消えていく。だからか、力強く首を横に振る。
お願いだから、やめて。
そう言いたげに。
「ごめん。……私も……、だね……。ごめん、小春……」
溜息と共に俯き、空いていた方の手の平で、自分の目をグッと抑え付けたかと思ったら、乱暴にそれを拭っていた。
初めて見る、凛の涙だった。
「……小田くん、指輪外してもらいな。こんな奴と、心中する必要ないから!」
小春に掴まれていた手をそっと離した凛は、小田くんの手を引き、立ち尽くす内藤さんの元へと連れて行く。
しかし生きることを諦めた小田くんは首を横に振り、掴まれていた凛の手から自分の手を引き抜く。
巻き込みたくない。その意思を強く感じ取った。
「内藤さん。あなたが小春にしたことは、許せない。取り返しもつかない。……だけど、最後に出来ることはあるんじゃないの?」
凛の穏やかで、諭すような声に、二人は顔を上げる。
……最後に出来ること。つまり、小田くんを助けることだが。【指輪が爆発するルール】の四つ目は、「過ちを許していない相手の指輪を外す」ことだ。
心変わりは仕方がないとはいえ、「恋人の裏切りを心から許せる人」は、どれぐらい居るのだろうか?
……俺には、無理だ。