テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「そこにおるのは誰じゃ!」
陽菜たちを見咎めた雑兵が三人槍を構えて走り寄って来た。アベは陰陽師の服の懐から紙包みを取り出して正面に掲げながら答える。
「われは都の院の仰せにより、妖孤追討に参った者。そなたたちは、もしや国の守の手の者であるか?」
雑兵たちは混乱した様子で、とりあえず陽菜たちを馬上の武者姿の年配の男の側まで連れて行った。アベの紙包みを雑兵の一人から受け取ったその男は、外側の紙を開き中の折り畳まれた紙を開いて読むと、すぐに馬から飛び降りてアベの側に走り寄った。兜を脱いでアベに軽く頭を下げて言った。
「これはご無礼をいたしました。では、あなた様が院のお上の書状にあった陰陽師殿であらせらるか?」
「いかにも。安倍泰成と申す」
「那須野の領主、権守(ごんのかみ)須藤貞信にございます。東国のこのような田舎まで、お役目御苦労にございます」
「して、権守殿、これは何の騒ぎでございますか?」
「あれに……」
そう言ってその武者姿の男はフーちゃんが残した金属容器を指さした。
「雑兵を二人、様子を見に差し向けましたところ、突如苦しみ出し、這って戻ったもののそのまま地に倒れ伏し……」
男はそう言って、今度は少し離れた地面に横たえられている二人の雑兵を指さした。一人はピクリとも動かず、もう一人は全身が細かく痙攣するようにかすかに震えている。
「何という事じゃ! この安倍泰成、一生の不覚!」
突然アベが芝居がかった大声を上げた。服の袖から銅鏡、いや例の立体映像投影機を取り出し、金属容器に向け「ハアッ!」と声を上げる。銅鏡からまばゆい光が金属容器に照射され、その上に九本の尾を持つ巨大な狐の影が浮かび上がった。それを見た雑兵たちが一斉に悲鳴を上げて後ずさる。
「陰陽師殿、あれは?」
さすがに怖気づいて後ずさりこそしないものの、顔面蒼白になったさっきの男が言う。アベはことさらに重々しい口調で答えた。
「あれこそが妖孤の本体。実はつい先ほど、追っていた女人はわれの供の者が矢で仕留めたところでありました。ほれ、あちらに火の手が見えておりましょう?あれはその亡骸を荼毘に付しておったところでございます。しかし、あの娘は体を乗っ取られた依代に過ぎなかったのか? あの面妖な岩こそが、あの妖怪の本体だったのでございます」
ちょうどその時、一羽のフクロウがどこからか飛んできて、金属容器の真上に差しかかった。その鳥は宙で急に耳をつんざくような鳴き声を出し、そのまま金属容器のすぐ側の地面にポトリと落ちてそのまま動かなくなった。
武者と雑兵たちがそれを見てまた恐怖の声を上げた。強烈な放射線を浴びて即死したのだと陽菜たちには分かった。アベがここぞとばかり声を張り上げる。
「あれは妖孤の死骸に相違ない。死して石に変じ、そして死してもなお、ああして近づく者の命を奪う瘴気を発しているのでございます」
「なんと! いかに妖怪とは言え、死骸が石になるとは信じがたい。しかも、近づくだけで命を奪うと言われたか? いや、にわかには信じられぬ」
「権守殿、そこな二人の雑兵の有様が何よりの証拠でござる」
そう言ってアベは地面に転がっている二人に近づき地面に膝をついてのぞきこんだ。
「権守殿、こちらの者は既に息絶えておりまする。もう一人もおそらく夜明けまではもちますまい」
権守と呼ばれた男はまだ信じられないという表情で茫然とした口調でつぶやいた。
「生けるものをことごとく殺す石……殺生石とでも言うべきか」
「権守殿! あの石の周りに常時見張りを立て、出来れば柵を巡らし、何びとたりともあれの一里四方に近づけぬようお取り計らいを。さもなくば、この先大勢の者があの瘴気で命を落とす事になりまする」
アベの言葉にハッと我に返った権守は周りの武者たちに声を張り上げた。
「今の陰陽師殿のお言葉、聞いておったであろう? ただちにそのように手配せよ!」
「は、はっ!」
と叫んで武者と雑兵たちは四方に散って行った。権守はアベにまた一礼し言った。
「では、われも館に戻り手配にかかりまする。これにて御免」
そしてまた馬にまたがり、闇の中を走り去って行った。陽菜たちだけがその場に残り、フーちゃんを火葬している場所に戻ろうとする直前、またアベが立ち止まって誰にともなく言った。
「なんという事だ……この時代の科学知識では、あれほどの量の放射性物質の塊をどうこうするのは不可能だ。人間が近づけるようになるまで、二百年はかかる……」