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「やーっと治ったぁ……」元気になったまなみが、そらとの部屋に顔を出した。
そらともすっかり回復して、ソファに座ってゲームをしている。
「おぉ、まなみ。やっと復活か」
「うん。そらとがうつしたんよ?」
「おれのせいにすんな」
「そらとが近づいてきたけんやん」
「は?俺、近づいとらんし」
そらとはゲーム画面から目を逸らしながら、そっけなく返す。
その耳たぶがほんのり赤いことに、まなみは気づいた。
(……覚えとるんや、やっぱり)
まなみは心の中で小さく笑って、わざと何も言わずにソファに腰かけた。
「……で、昨日ぶりくらいやん」
「いや、昨日じゃねぇし。四日ぶりくらいやろ」
「え〜、なんか久々に会った気がする」
「俺は別に」
「そらとは、うちに会いたくなかったん?」
「……っ!誰がそんなこと言った」
「ふふ、顔真っ赤やし」
まなみが無邪気に笑うと、そらとはますます視線をそらした。
「なぁ、まなみ」
「ん?」
「……お前さ、なんでそんな近いん」
「え?近い?」
「ほら、肩……当たっとるけん」
「えー、これくらい普通やん。幼なじみやし」
にこっと笑って、さらに体を寄せるまなみ。
そらとは一瞬で固まり、唇を噛んで視線を落とした。
(……やば。これ以上近づかれたら、思い出す)
昨夜の、熱に浮かされたときの記憶が頭をよぎる。
触れた唇、頬を染めたまなみ、かすかな体温。
(……あれ、夢やなかったんよな)
けど、言えるはずがない。
そらとは平然を装い、深呼吸してゲームに集中するふりをした。
「ねぇ、そらと」
「……なん」
「この前の夜ね、そらと……」
まなみが言いかけた瞬間、そらとは食い気味に遮った。
「知らん」
「……え?」
「なに言うても知らん。おれ、熱で記憶ねぇけん」
「……ふーん」
まなみは唇を尖らせながら、わざとらしくため息をついた。
「まぁ、うちはちゃんと覚えとるけどね」
「っ……!」
そらとの手が、一瞬ピクリと止まった。
でも言葉は返さず、ただゲームのコントローラーを握り直す。
「なぁ、そらと」
「……なん」
「うち、そらとに、ちゃんと“ありがと”言ってないんよね」
「は?」
「看病してくれたことも……それ以外も」
「そ、それ以外……!?」
「ふふ、なに想像したん?」
「っ……お前、ほんま良くないわ」
顔を真っ赤にしているそらとを見ながら、まなみは小さく笑った。
この空気、たぶん、もう元には戻れない。
でも、それでいい。
まなみはそっとそらとの袖をつまんで、囁くように言った。
「……そらと」
「……ん」
「もうちょっと、そばにおってもええ?」
「…………好きにせえ」
そらとの声は低くて震えていて、
それがまなみの胸を、さらに高鳴らせた。