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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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それにしても、選手たちの様子は千差万別だ。

スポーツマンを彷彿とさせる快男児がいる一方で、明らかに凶状持ちと見られる溢者(あぶれもの)も幾人か混じっている。

かと思えば、さっきみたいなアホもいる。

ふと気をまわし、手近の自販機で購入したスポーツドリンクを件の一団に投げて寄越す。

いまだおっかなびっくりの風情ではあるが、これを受けて彼らは一様に謝意を示した。

「見ろよあれ」

「ん?」

窓際で手招きをくれる虎石に応じ、そちらへ歩みを寄せる。

やや曇りがちなガラスの向こうには、競技場の核心となる広大なグラウンドが敷かれていた。

周囲を段丘のように取り巻く客席の数は定かでないが、満杯に詰まった観衆によって一種モザイク画の様相を呈していた。

何とも言いようのない心持ちに駆られた葛葉は、なかばげんなりと近くのパイプ椅子に腰を落とし、にわかに頭を抱えた。

彼らがなにを目的に集まったのか、考えるまでもない。

血に飢えた猛獣とは言い得て妙だ。 これではどちらが獣か知れたものじゃない。

「……虎石っさん、あの人ら正気かな? なんでそう」

「正気の奴なんざ居るのかよ? 逆に」

「え?」

柄(がら)にもなく気弱な調子で問いかけたところ、不服そうに眉根を歪めた虎石は、これをぞんざいにあしらった。

その目線の促すままに耳を澄ますと、部屋のあちこちから剣呑なやり取りがひそひそと及んでくる。

“御遣とはどれほどのものか”

“優勝するのは俺だ”

“あのクソ野郎、今日こそぶっ殺してやる”

先の一団を見ると、ちょうどスポーツドリンクを水杯のようにしんみりと、あるいはいそいそと取りなしている所だった。

「なんで………」

「ケガすんのは怖かねえんだろ。 くたばんのも、たぶんな?」

葛葉自身、少なからず祭りの景気にあてられて、気がゆるんでいたのは確かだった。

たかが催しのひとつ、それとなくこなし、件の御遣に接近できれば重畳だろうと。

甘かった。

この試合にかけるそれぞれの意慾は本物だ。 また、刺激を求めて詰めかけた人々の邪(よこしま)な狂熱も。

それらが今、まるで煮浸した貲布(さよみ)のように、ずるりと纏わりついてくるような錯覚がした。

「血を見なきゃ収まらないことって、あると思う?」

「知りたくもねえな」

即座に鼻を鳴らした虎石だが、わずかに考え込む所作をして、やがて苦々しい口振りで応じた。

「場合によるだろ、そんなもん」

いつぞや任地で目の当たりにした惨状が、生々しい血風と共に脳裏を過(よぎ)った。

「リタイアすんならそうしろよ? 例の奴は俺がきっちりシメてやっからよ」

「いや……」

不遜な物言いで葛葉の心情を慮(おもんぱか)った矢先、彼はたちどころに総毛立つ感覚を知った。

まるで小規模の雷に、肌身を隈なく舐められたような。

この感触には覚えがある。 忘れる訳がない。

「やる気か?」

「やるしかないっしょ」

敢然と応じる彼女の眼に、迷いや逡巡の類はもう見て取れなかった。

どういった心境の変化があったのかは知れない。

単に決意を固めただけか。 もしくは何かしらのスイッチが入ったか。

そういった心根に呼応するように、大会の開幕を告げる鐘の音が、盛大に響き渡った。


観客の熱狂は最高潮に達しており、一種の悪意すら感じさせる歓声が、砲撃のようにガンガンと降ってくる。

それは選手間も同様で、耳障りな蛮声や雄叫びがあちこちから上がり、腹を括ったはずの葛葉を再三にわたり辟易させた。

「天野葛葉さまー! 準備のほうお願いしまーす!」

「は?」

なおのこと、そんな風にお呼びが掛かれば埓もない。

グラウンドを見ると、件の町長が即席の壇上にのぼり、熱のこもった演説をこなしている。

「……ホント、いいツラの皮だよね? あのおっちゃん」

「一発目は……、さすがにな」

「この会場、端(はな)っから平らになったらどうなるか考えてないんかね?」

「お前……」

途端に眉をひそめた虎石が、珍妙な顔でこちらを見た。

これにニッカリと心丈夫な表情を宛てた葛葉は、スタッフの求めに応じ一室を後にした。

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